このメッセージを読まれている新入生の皆さんが私の11年あとの後輩だということは、私がブラジルという国と向き合いはじめて今年で11年目になったことになる。私は、セバスチャン・サルガドというブラジル人写真家に影響を受けてポルトガル語学科に入学した。入学後はブラジリア大学の交換留学生として、上智大大学院生の現地調査として、サンパウロ大学の客員研究員として、日本とブラジルを行き来する機会に恵まれてきた。
気がつけば、私の20代はずっとブラジルと向き合っていたことになる。しかしどれだけこの国と向き合ってきたとしても、ブラジルに来るたびに今まで見えていた世界から新しい世界が広がったようなわくわくする瞬間がある。そうした瞬間に出会えるのは、ブラジルに来る目的や私の立場が変わるごとに別の環境にふみいれることで、今までの私が知っていたブラジルとは異なる側面を見つけることができたからかもしれない。その一方で、ブラジルも日々成長しているので、ブラジルが私に新しい姿を見せてくれたからかもしれない。このように私はブラジルとずっと追いかけっこをしてきた。だからなのだと思うが、ブラジルを通じてたくさんのわくわくする瞬間に出会ってきからこそ、ブラジルのことをもっと深く知りたいという気持ちに、私は突き動かされてきた。
わくわくする瞬間に出会うには、その前に決まって今の自分から前に踏み出す勇気と、決してあきらめない気持ちが必要だった。人一倍不器用な私は、20代を振り返るとピンボールのようにいつも壁に頭をぶつけていた。それでも結局いま後悔しているのは、目の前にあるチャンスに何か理由をつけて挑戦しなかったことだ。逆に不安のなかで勇気をふり絞って挑戦したあとにみえる世界はたとえ失敗したとしても、とても眺めのいいものだった。研究という古くからの価値・習慣・方法などを変えることが求められる仕事を、私がこれまで続けてこられたのも、何度失敗してもあきらめない私を温かく迎え入れ、辛い状況でも物事をポジティブに考えるブラジル人が、私のまわりにたくさんいたからだと思う。
もちろん、わくわくする瞬間に出会えるのはブラジルに限ったことではない。その瞬間に出会える可能性は、きっと私がまだ知らない世界のあちこちに溢れている。閉塞感が漂っているといわれる日本でも、日常生活の至るところにあるはずだ。なぜなら、わくわくする気持ちは、物事を面白がる私たちの捉えかた一つで決まるからからだ。
上智大学に入学された皆さんに、少し先輩からささやかなメッセージがおくれるならば、たくさん旅をして、多くの人に出会い、常識に捉われずに自分の目で物事を判断する力を身につけてほしい。人生は一度きりなので、思う存分にこの世界を楽しんでほしい。そうすれば、きっと今までの自分が想像もしなかったわくわくする瞬間に出会えるはずだ。