大学「教員」の仕事

谷洋之

皆さん、こんにちは。イスパニア語学科教員の谷と申します。この「日記」には初めての登場になります。授業科目としては、主にイスパニア語(今年度は2年生の文法)やラテンアメリカ経済の入門科目を担当しています。

さて、今日は、タイトルの中の“教員”に付けたカギ括弧の話をしたいと思います。教員とは、文字通り「教える人」、辞書を見ても「学校で……学生を教育する職務についている人」とあります(『デジタル大辞泉』)。学生目線で見ても、教員と接するのはほぼ授業だけででしょうから、それ以外の時間は何をやっているのだろうと思われるかもしれません。

実際に「授業」として学生の皆さんの前で話をするためには、それなりに準備も必要ですし、試験をしようとすれば作問や採点もしなくてはなりません。100分授業をするためには、科目にもよりますが、平均してその2~3倍の時間を準備に要します。ただ、ここでの話はそういうことではありません。「授業とその準備」だけでなく、私たちには数多くの仕事がほかにもあるのです。今日はそのあたりのことをお話ししてみようと思います。

「教育」以外の仕事の筆頭に挙げなければならないのが「研究」です。大学の「教員」は1人1人それぞれが自分の専門領域を持って「狭く深く」研究テーマを追っています。私の場合で言うならば、授業では「ラテンアメリカ経済」全体を扱って(いることになって)いますが、ラテンアメリカは狭い意味でも20か国、カリブ海諸国まで含めると独立国だけで33か国もあるので、それらすべてについて詳細に知悉しているというわけにはいきません。研究対象としては、時代で言えば「貿易自由化が急ピッチで進められた1980年代後半以降」、地域で言えば「北西部を中心とするメキシコ」、テーマで言えば「輸出向け野菜・果物生産の動向」ということになります。

レタス収穫風景(メキシコ・グアナフアト州サラマンカ市、2017年2月27日、筆者撮影)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

限られた範囲のことをマニアックにやっているだけという印象を持たれてしまうかもしれませんが、実際にはその前提として「広く浅く」踏まえておかなければならないことがたくさんあります。そこで実際に起こっていることを的確に理解し解釈するためには、その舞台となっているメキシコないしラテンアメリカの歴史や現在の世界経済における研究対象地域の位置づけ、野菜や果物の主な輸出先であるアメリカ合衆国の動向、生産の現場での人々の行動ロジックなども頭に入れておかなくてはなりません。「研究」の成果を「教育」に還元する、と大学の中ではよく言いますが、授業という「教育」の面で役立てることができているのは、むしろこの「広く浅く」の領域かもしれません。

この2種類の仕事をプロスポーツの世界に喩えるならば、「研究」は現役選手として試合でプレーすること、「教育」は育成部門で子どもたちのコーチをすること、と言えるでしょうか。「研究」面では高い技量を身に付けようと、またいいパフォーマンス(いい論文を書く、ということです)をしようとかんばっていますが、それをそのまま授業(育成年代のスクール)で話すということは、子どもたちにオーバーヘッドシュートの練習しかさせないようなものなのかな、とも思います。

大学「教員」としてもう1つ重要な仕事は「行政」です。制度・組織としての大学を運営していくという仕事です。来年度のカリキュラムや時間割をどうするのかという「教育」面に直結する仕事もありますし、交換留学協定を交わしている海外の大学を訪問して留学促進プログラムについて相談してくるというような「数年後のための仕事」もあります(後者はコロナ禍になってからはできないでいますが……)。

この面で現在、私が割り当てられている仕事は、イベロアメリカ研究所長という役職です(「イベロアメリカ」というのは「イベリア半島系のアメリカ」という意味で、ラテンアメリカとほぼ同義だと差し当たり思っておいてください)。この研究所には、イスパニア語学科をはじめ、ポルトガル語学科、総合グローバル学科、グローバル教育センターの専任教員14名が正所員として所属していますが、この14名を中心に共同研究を組織したり、その研究成果を出版したり、講演会などを開催したりという、「研究」とその成果を「教育」事業として活かす、という仕事をしています。先ほどのようにプロスポーツになぞらえると、「フロント」「スタッフ」に位置づけられるでしょう。

さて、ここからはイベロアメリカ研究所が6月に開催する一連の講演会の宣伝です。講演会の準備は「スタッフ」としての仕事でもありますが、私も講演会そのものに現役選手として「出場」予定です。このように、実はここまで書いてきた「教育」「研究」「行政」というのは別々に存在しているものではなく、大学の「教員」1人1人の中でそれぞれが有機的につながっていて、そのうちのどれもが不可欠の要素になっている、ということができるものなのです。

下のリンクから、レクチャーシリーズ⑩「身近な『たべもの』から見るラテンアメリカ」と講演会「写真で見るラテンアメリカのワイン文化—チリを中心に—」の案内にアクセスし、面白そうだと思ったら参加申し込みをしてみてください。Zoomでの開催ですので、気軽に聴講してもらえると思います。ご参加をお待ちしています。

身近な「たべもの」から見るラテンアメリカ(6月6日、13日、27日)

写真で見るラテンアメリカのワイン文化—チリを中心に—