El Gallinero 第1回公演
La medalla 『メダル-10年目の危機』
作者:Emilio Carballido (1925-2008)
フリアとイグナシオは中年にさしかかった夫婦である。うだつの上がらない銀行員のイグナシオにフリアは苛立ち、二人の関係は冷え切っている。銀行で表彰されたことを告げるイグナシオに妻は見向きもしない。イグナシオのストレス解消法は空想すること。空想のなかで、イグナシオは強い男になれる。しかし、空想世界の物語は思いがけない展開を見せ始める。本当の幸福は何かを問う作品。Emilio Carballidoのオリジナル作品にEl gallineroならではのテイストを加えて舞台化した。
Emilio Carballidoは20世紀後半に活躍したメキシコの劇作家である。1950年代に新しいリアリズム演劇を目指す作家が輩出するが、その中でもっとも成功を収めた。今回上演されるLa medalla はD.F. 26 Obras en un acto (México, 1978)の中の1篇。D.F.とはメキシコ・シティーを指す。市井の人々のささやかな幸せ、夢、哀しみをめぐる小編がパッチワークとなって大都会の人間模様を描き出す。
公演日:2009年12月12日(上智大学10号館講堂 )
演出:園田 竜也
出演:楊塑予 小林奈央 園田竜也 山田桂美 内藤有美 河合伴樹
末廣大地(法学部学生・友情出演) 財津奈々 中村翔子 貝明咲子
[寄稿]
私と語劇とLa medallaと
Una bella muchacha 役 内藤有美
忘れもしない大学3年の春、イスパニア語学科に吉川恵美子先生が赴任してきたことが始まりでした。かつて存在した語劇を復活させたいという先生の想いに私まで胸を高鳴らせたのをよく覚えています。すごいことが始まるような期待に満ちた気分でした。
意気揚々と語劇を立ち上げたのですが、部員は少ない上に、私を含め演劇経験者はいませんでした。先生指導のもと発声練習やエチュードをひたすらやっていました。そんな中、初公演の話が持ち上がり、作品をLa medallaに決めました。各々が学業やアルバイトで忙しい中での演技練習やセリフ暗記は難航しました。何せ全員初舞台ですから、最初は演じることへの照れもありました。加えて字幕や衣装、音響作りなどに追われ、全員がもう間に合わないと何度思ったかは計り知れません。けれど全てが新鮮で、楽しくてしょうがなかったのです。
語劇に集まってきた面識のない学生たちは非常に個性的で、同じ目的に向けて部員をまとめることに部長の私意はとても苦労しました。しかし作品を作る過程で、私たちはいつの間にか仲間になっていったように感じます。意見の食い違いもありましたが、嫌な面も含めて相手を受け入れるようになっていきました。各々が違うからこそ面白く、未知なものが生まれ、自分自身の考えの幅がどんどん広がっていく感覚が、楽しくてたまらなかったです。
毎日イスパニア語を授業で学んでいた私にとって、言葉とは本の中のものでした。けれど語劇を通してイスパニア語で役を演じ、私は初めて言葉を自分のモノにすることが出来た感覚を得ました。そして苦楽を共にした仲間は、大学を卒業した今でも私のかけがいのない宝物です。語劇での経験は私の人生をとても豊かにしてくれました。このような機会が与えられたことに感謝してもしきれません。そして、これからも多くの学生が語劇で生きたイスパニア語を使い、最高の仲間を作っていくことを願っています。