留学が私に教えてくれたこと

盧 永根

 皆さんは、留学によって何を得られると思いますか?

 その話をする前に、まずは私の留学生活を振り返ってみたいと思います。
 2015年9月から2016年3月までの半年間、私はフランスのボルドー(Bordeaux)という街に留学をしていました。ということでこの文章は日本で書いています!!半期留学でこのエッセイを書くケースは初めてなので、少しでも皆さんの可能性や視野を広げられたらと思います。長いけどぜひ読んでみてくださいね。

 ところで、「ボルドー」という単語に、やや聞き覚えのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。フランス南西部最大の都市であるボルドーは、国内有数のワインの生産地であり、赤ワインが有名なことからワインレッド色のことをよくボルドー色なんて言ったりもしますね。こんな風に日本でも日常生活の中でたま~に登場するボルドーですが、古きよきヨーロッパの風景を随所に残しつつ、観光や現代化に合わせたモダンな街づくりも進んでいる大変歩きがい、見がいのある街です。
 私はボルドー第三大学の人文科学部、言語学学科に所属し、言語学に関する授業のみを受けていました。言語学とはその名の通り「言語を科学する」学問で、なぜ人は言語を習得できるのかという大きな問いから、ある言語の変化の歴史を辿っていく分野まで、「言葉」に関するあらゆる問いに答えようとする学問です。(学校で習う英語やフランス語の授業とは違った分野です。)ということで、受けていた講義の中からすこーしだけ内容を紹介させていただきます。Diversité des langues(言語の多様性)という講義について。この講義の根本となる問いは以下のようなものです。

言語はなぜ多様でなければいけないのか?

 この世界って、考えてみると不思議だとは思いませんか?世界中の人が一つの言語だけを操るようになれば今より確実に様々なことが便利になるはず。なのにどうもそのようにはならない。(新しい全世界共通語を作ろうとする試みは実際になされたことがあります。上手くはいきませんでしたが。)これは、単にそれが「不可能だから」ではないのです。言語が多様であることは、この世界にとって必要な要素なのです。ではそれは一体なぜか。そのことについての研究や論文を読むというのがこの講義の内容でした。講義を一緒に受けるフランス人の大学生の中には、後ろでおしゃべりをする人がいたり、パソコンを開いてノートをとると見せかけてフェイスブックやインスタグラムをチェックする人がいたりと、なかなか「おちゃめ」な人もいましたが、総じて日本と比べると自分の意見を持ち、そしてそれを積極的に発信する学生が多かった印象です。生徒と教授の議論は簡単には終わらず、聞いているうちに我慢できなくなった他の生徒が割り込んで事態は余計ややこしく、、なんてこともよくありました。日本の学校とは違うんだなぁと強く感じた瞬間でした。大学を出てもエネルギッシュな人が多く、夜遅くまでバーは若者でにぎわっていました。スポーツを観戦したり政治についての議論をしたり。BGMも必要ないくらい盛り上がっていました。

ある日のバー。同じ学科の友だち二人とたくさんのフランス人。ちなみにひとり以外初対面。何ならカメラ側にいるもう6人くらいとも初対面。フランス人の陽気さってすごい。

ある日のバー。同じ学科の友だち二人とたくさんのフランス人。ちなみにひとり以外初対面。何ならカメラ側にいるもう6人くらいとも初対面。フランス人の陽気さってすごい。

 生活面では、初めて訪れた国での初めての一人暮らしということで、それはそれは不安でした。本当に。毎日がギリギリだった。生活力に自信もなく、自炊など様々なことに苦労しましたが、生きて帰って今こうやってこの文章を打てているので結果オーライかなと。とはいえ本質的な目標は生活力向上ではないと思うので、留学したいと思う方はひと通り家事には慣れておいた方がよいと思います。ご家族も喜ばれるでしょう。いいことばっか。スーパーでの買い物の仕方や品揃えが日本とまったく違うことなど、日常の小さな発見は意外と心に残り続けるものです。留学中は旅行や遠出だけではなく、ぜひ近い範囲内でも色んな場所へ行って、たくさんの景色を見ることをお勧めします。

 さて。留学を振り返るとどうしても忘れられない、忘れてはいけない出来事があります。2015年11月に起こったパリでのテロ事件です。この文章に出会うような方であればおそらくほとんどの方がご存じなのではないでしょうか。この事件で私が通っていたボルドー第三大学の教授が一人亡くなられました。追悼式や各地で供えられた花とろうそく、メッセージを見ることで、更にはフランスという国のあの悲惨な事件へのリアクションをリアルタイムで目の当たりにすることで、これまで味わったことのない感情が次から次へと現れては整理しきれない状態になることがありました。この時期は何をするにも力が入らなかった記憶があります。ただフランス人はというと、悲しみの中にあってもアクティブさを失わず、日常をしっかり生きようとする志を持った人が多かったです。人が持つ強さのようなものを感じた出来事でした。

 ということで、冒頭の問いに戻ります。私たちが留学することによって得られるものは何でしょうか。よくある答えを借りるとするならば、それは人それぞれです。人によって頑張りたいことや見えているものは違います。決まったものなどない。確かにそうです。ただ、これは言い換えれば、「何も得られずに終わってしまうかもしれない」ということです。確固たる正解がない分自分が成長したところや手に入れたものを評価しにくくなります。留学に行けば語学力が伸びる、留学に行けば人間として成長できる。そんな「神話」を、頭の片隅で思い描いてはいませんか?目標はなんだっていいし、目の付け所はどこだっていい。だからこそ何か自信をもってやり切れたと言えるような、変わったと言えるような箇所を自分で、自分のために見つけてあげてください。用意してあげてください。そこで見えてきたものこそが、あなたが「留学を通して得たもの」です。 

さて、おまけとして私が変わったと思う部分を一つ。お酒がすごく好きになりました。特にワイン。すんごいワイン好きそうでしょこの写真。あなたはいくつ自分の変化を見つけられるのでしょうか。。。

さて、おまけとして私が変わったと思う部分を一つ。お酒がすごく好きになりました。特にワイン。すんごいワイン好きそうでしょこの写真。あなたはいくつ自分の変化を見つけられるのでしょうか。。。