Q.現在はどこでどのようなお仕事をなさっていますか。
日本を訪れるフランス語圏の 観光客をフランス語でご案内するプロのガイドの仕事をしています。フリーランスですが、多くの仕事は旅行会社からいただいています。1日で東京都内をご案 内することもあれば、10日間続けて一緒に旅行して、たとえば高山、金沢、京都、奈良、広島、宮島といった都市を回ることもあり、期間はさまざまです。人 数もカップルから40人の団体までいろいろです。お客さまはフランス人がほとんどですが、スイス人、カナダ人(ケベック地方)や、タヒチの方もいます。
Q.ガイドが本業ですか。
はい、年間120日くらい働いています。ピークのころは160日くらい働いたこともありましたが、今ではほどほどに。訪日観光客が爆発的に増加しま したので、景気はよいのですが、下準備もあるし、ロングツアーはハードなので、そういつもいつも働いていられないのです(!?) 。2006年ころよりフルタイムでやるようになり、延べ1500日くらい稼働しました。同業者の中には、翻訳や通訳と掛け持ちしている人もけっこういますね。
Q.どうしてガイドになったのですか。
よく聞かれるのですが、なんとなく(!?)。 もともと資格(注:現国土交通省の通訳案内士資格)をもっていたから。ただ、旅行が好きだし、むかし大学の専門で学んだフランス語をもっと使ってみたかった、ということはあります。ガイドになる前は、雑誌の編集の仕事を長くしていました。そのころは、会社の中で、 この人はフランス語もできる人、という立ち位置で、「プラスアルファ」程度の能力の評価でした。ガイドになったら、フランス語でのコミュニケーション能力で勝負です。もう一回、フランス語と正面から向き合うよい機会になりました。
Q.フランス語学科で学んでよかったと思うことは何ですか。
いまの自分のフランス語力の土台は、すべてフランス語学科で築きました。帰国子女でも、親が外国人というわけでもないので、1年生でABCからスタート。ですので、もしいまお客さまに、お前さんのフランス語は基礎力が弱い、と言われたら、それは学科が悪い(!?)。 幸いそういうことは一度もなく、つねに高い評価をいただいています。四谷のほうには足を向けて寝られません。
Q.在学中で一番印象に残っていることはなんですか。
学科生でフランス語劇を上演したことです。台詞回しや演技をみんなで研究し、衣装や照明などもきちんとして、むかしの講堂で上演しました。演目はラビッシュの笑劇やイヨネスコの不条理劇など。いまになってみるとほんとうに楽しい思い出です。現在のガイドの仕事に通じる表現能力も、ここで少し鍛えられたかもしれません。
Q.フランス語で本を書かれたそうですね。
これまで日本をご案内する中で出会ったエピソードを、フランス語で綴ってガイドブック風に仕立てました。「GUIDE TOMO JAPON 2018」というタイトルです。2017年末に完成し、フランス語書籍の書店「欧明社」で販売しています。外国人が、お寺などの見学で靴を脱ぐとき、どこで脱いだらいいか、そのポイントを発見するコツとか、日本ではトイレの位置はつねに「奥の左」にあるとか。フランス人が楽しんで読んでいただけたらいいなと思います。サイトがありますので、ここで宣伝させてください。
Q.フランス語はどうしたらうまくなりますか。フランス語学科の学生にメッセージをお願いします。
つねに向上心を持つことです。基礎は学校で、応用は街で。少しペラペラと話せるようになると、初心を忘れがちです。ガイドはその点、つねに言葉を意識するので、よい商売です。お恥ずかしいのですが、今でも少しずつ単語帖を作っています。話す力は、じつはガイドになってから飛躍的に伸びました。実地があるのでいやがおうにも実力がつきます。聞く力は、だんだん年齢を重ねてくるとそうは伸びません。ちょうどいいのです、お客さまのいうことを半分聞いているくらい で(!?)。 通訳だとそうはいきませんが。「読む」については、仕事の書類はともかく、1年に1冊は小説か歴史の本を読むようにしています。少ないですかね。学生時代に100冊読破したのが夢のようです。「書く」ことはたぶん苦手の方が多いかもしれません。書く力がないとフランス語で本は書けません。私も書いている途中にスランプになりました。ほんとうはきちんとした文章を書く練習が大切ですが、まずとにかく書く習慣をつけたらよいでしょう。私はFBで発信して いるのですが、フランス語で書いています。
読む、書く、聞く、話す、のそれぞれの力をバランスよく伸ばすことが大切だと思います。