学科長の挨拶

 このページをご覧になっているみなさんは、きっとロシア語学科での勉強に興味を持ってくださっているのだと思います。その一方で、いまロシア語やロシアについて学ぶことに疑問を持っている人も少なくないでしょう。ひょっとすると周囲の人から「なんであんな国の言葉を学ぶの?」と訊かれて不安になっているかもしれません。
 確かに現在のロシア政府がウクライナに対して行っている軍事侵攻は許せるものではありません。だからといってロシアについての研究を放棄してしまうことは二重の意味での誤りだと言えます。

 第二次世界大戦の戦前と戦中、日本では英語を使用することが徹底的に避けられたことはみなさんもご存知でしょう。好きな相手のことは知りたがるものの、嫌いな相手のことは知りたがらないという心理は理解できなくもありません。一方で、当時のアメリカは徹底的に日本のことを研究していました。日本語の暗号は太平洋戦争初期の段階で解読され、日本人の思考回路や行動パターンは研究され尽くしていたのです。この戦争がどのような結果に終わったかを考えれば、「嫌いな相手だから学ばない」という発想が過ちであることは明らかです。

 とはいえ、嫌いなものを研究するのは楽しくないものです。ではロシア語学科で学ぶ言葉や文化は本当に好きになるに値しないものなのでしょうか? ロシアの言葉や文化はロシア政府とイコールではありません。むしろロシア・ソ連の人たちは言葉や芸術などの文化で政治が生み出す不条理と戦ってきた歴史を持っています。現在はロシア政府の言論統制によって不条理との戦いが見えにくくなっていますが、確実にそれは存在していると私は信じています。見えない形でロシアの政府と戦っているロシアの人々・言葉・文化を私たちは見捨てることなく、助けるべきであり、それは好きになるに十分値するものだと思います。

 あなたも勇気をもってロシア語学科で私たちと共に学んでみませんか?ロシア語学科の門をたたいてくれるみなさんを私たちは歓迎します。

2024年4月

秋山 真一