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学部長の挨拶

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外国語学部長 木村護郎クリストフ

 

外国語学部というと、外国語を学ぶところだと思われるかもしれません。確かに外国語を学ぶことが前提なのですが、それだけであれば、語学学校もありますし、自分で学ぶこともできます。外国語学部では、学生が外国語を使って、他の学生とも協働しながら自分なりの問題意識を掘り下げることが目的です。世界の諸地域の歴史や社会、政治、経済、文化などをより深く理解するために高度な言語能力が必要になるのです。また、学んでいる言語や言語学習自体も研究対象です。自らも多言語を駆使してそれぞれの分野の研究を進めてきた言語(教育)&地域研究のプロである教員が学生の学びと探究を全力でサポートします。

 

現在、外国語を学んだり使ったりする環境は大きく変化しています。コロナ禍以降、オンライン化が急速に進展しました。そして、感染症拡大予防のための制限がなくなったことによってグローバルな人の移動が著しく活発化しています。またAI(人工知能)の活用による機械翻訳などの新しい技術が急展開しています。海外とつながることは珍しくなくなり、言語の壁もぐんと低くなりました。かつてないほど人類がつながりやすい時代になりました。

 

しかし、他地域や異言語を話す人の間の相互理解は本当に深まったといえるでしょうか。つながりがつくりやすくなった分、既に知っているという誤解がより大きくなる可能性もあるともいえます。断片的、間接的にふれることで、異言語・異文化が十分わかったつもりになるとすれば、それはむしろ危険でしょう。画面越しに接するだけでは、他の地域の社会や文化を体感することはできません。やはり現地に身を置いて、同じ空気を吸い、共に過ごすことではじめてみえてくるものがあります。かといって現地に行きさえすればよい、というものでもありません。自分の親しんできた社会との比較を交えて他地域を考察する視点や方法論を学ぶことで、現地も全く違ってみえるでしょう。旅行と留学で、得られることは全く違うのです。そして、機械翻訳は、とても便利な手段ですが、結局、自分の母語から外に出ないので、言語と結びついた異文化体験ができません。言語によって表された異なるニュアンスや世界観も、すべて自分のよく知っている言語での表現に置きかえられてしまうので、新しい気づきの機会がないままです。

 

昨今飛躍的に高まった、世界とつながるための諸手段を積極的に活用しつつ、その限界を見極めてのりこえていくのが外国語学部です。世界の諸大学との幅広いネットワークをもつ上智大学は、多言語・多文化を活かした学びのための最良の条件を備えています。COIL(国際協働オンライン学習:Collaborative Online International Learning)型授業で海外とつながり、同じキャンパスで留学生と共に教えあって学びあうことができます。留学制度も充実しています。またAIの自覚的・創造的な活用で外国語学習・使用の可能性は飛躍的に高まります。語学系科目でも既に、メディア・リテラシーを一つのスキルとして取り入れていますが、これからも、機械翻訳や、ChatGPTのような生成系AIの生み出すものをうのみにしない思考力・判断力や倫理的な観点の育成を積極的に取り入れていきます。AIがいかに進展しようと、主体性をもって異なる国や地域の間をつなぐことができる人がいないと地球規模の課題に連帯感を持って取り組んでいくことはできません。

 

上智大学外国語学部では、学生が「3言語×3視座」を身につけて、世界の諸地域の内在的な理解に基づいて異言語・異文化の間を仲介する人となることをめざします。「3言語」について、日本語では論理的に考えて表現する言語技術を鍛えます。専攻語(および英語学科の学生の初習言語)では学ぶ過程での気づきを重視して、翻訳で失われる/変容する要素への感受性を獲得するとともに、異なる文化の相手にどう伝わるかを理解して表現できる力を養います。また英語については機械翻訳の提案を評価し、その表現の社会文化的な特徴を理解して適切に活用できる高度な能力を獲得することが求められます。

 

また、日本、対象地域、世界という「3視座」からさまざまな現象や課題をとらえることで、柔軟で多角的なものの見方が養われます。予想もできなかったことが次々と起こる「VUCAの時代」(VUCAはVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字)と言われるこれからの時代に対応するためには、これまでの常識に安住することはできません。近代社会においては、国ごとに言語や文化などを均質化することで安定をはかってきましたが、これからは、人間の多様性を活かして、新しい地球社会のために人類の叡智を結集することが求められます。

 

外国語学部で学んだ学生が、異なる言語や文化をもつ人々の間をつなぐことをとおして、他者のために、他者と共に生きる人となることを願っています。

 

 

 

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