バルセロナ再訪―「連帯経済」論を求めて―

幡谷則子

 こんにちは、幡谷(はたや)則子です。先日スペインはカタルーニャ地方の主要都市、バルセロナから帰ってきました。この写真、なんだかわかりますか?そう、あのサグラダ・ファミリア(聖家族教会)の主聖堂の天井です。私がこの教会を初めて訪れたのはかれこれ30年前の学生時代でしたが、当時まだ中はもの暗く、全く違うイメージでした。今回完成した主聖堂に入ると、「生」、「水」、「悲しみ」など、個々のテーマをもったステンドガラスから差し込む色とりどりの光のプリズムが、白い柱と天井一面にほどこされた幾何学模様と絡み合い、まるで異次元の世界に入り込んだような、圧倒的な空気に包まれました。天才ガウディの光と建築工学の世界は、これからどんな展開を見せてくれるのでしょうか。楽しみですね。

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 ところで、私の専門はラテンアメリカ地域研究、その中でも都市と農村の生活環境の違いや、経済開発の影で伝統的な生活様式や生産活動の場を失い、苦しみつつも自分たちの生活空間を大切にしようと日々奮闘している人たちのくらしを追っています。もう28年、南米のコロンビアに通い続けています。そんな私が、なぜバルセロナに行ってきたかというと、それには理由があるのです。

 グローバル化が進む今日、土地と資源に恵まれたラテンアメリカ諸国は、鉱物やエネルギー資源開発、穀物生産などの大型開発に高い可能性をもち、多国籍企業の進出も拡大しています。最近ではアジア太平洋圏との貿易推進にも力を注いでいます。かつて「失われた10年(または20年)」と呼ばれた経済危機に苦しんでいましたが、最近の経済状況はおおむね良好といってよいでしょう。にもかかわらず、こうしたグローバル化によって推進された経済発展の恩恵を受ける人々は全体からみればわずかで、そこから取り残され、逆に開発プロジェクトによって、伝統的に育まれてきた「生活の場」が脅かされてしまう人々も多いのです。今の日本も、欧米諸国も良く見ると同様の問題を抱えています。日本の20代の若者で就職を希望する人たちの半分近くが非正規雇用に従事していることをご存知でしょうか。今回私が訪れたスペインでも、若者の失業はずっと深刻でした。世界中が「グローバル化時代の経済発展」という大きな枠組みの中にありながら、他方でさまざまな困難に遭遇しています。

 このような中、ヨーロッパの各地で、「社会経済」や「連帯経済」という考え方のもとに新しい実践が生まれています。「『連帯経済』って何?」と思われる方も多いことでしょう。これは現在の競争原理と市場メカニズムを中心とした経済のあり方に対し、もっと社会的側面(平等や社会正義)、地域社会、伝統や環境を大切にしながら経済活動を実現しようとする考え方です。日本ではまだこの言葉はあまり知られていません。ラテンアメリカ諸国では、「連帯」(solidaridad)という概念は1960年代から庶民が生活を守るために行ってきたさまざまな「互助」活動を支えるものとして存在しました。実践面ではヨーロッパよりもはるかに進んでいたのです。

 というわけで、私はカタルーニャ地方で今議論されている「連帯経済」の概念と実践について学び、それによってラテンアメリカでの実践について改めて理解したい、と思って出かけてきました。バルセロナで出会った「連帯経済」ネットワークで活動する人たちは、多くのラテンアメリカの研究者や活動家ともつながっています。実はこのきっかけを作ってくれたのは、一人のフランス人の先生でした。彼の言葉が心に残っています。「私はラテンアメリカの理論や実践を学ぶことで、自分たちの社会(フランスやヨーロッパ)で起こっていることをより深く理解しようと思っている、だから様々な地域での経験から学び、交流を続けることが有意義だと思う。」全く同感です。

 皆さんも、是非イスパニア語学科の4年間で、いろいろなイスパニア語圏社会を訪れ、多様性と創造性に富む世界に触れてみてください。