VOL.9
1992年卒業
和田美奈子さん

最後まで自分を信じる

 

私はスペインのプラド美術館の専属修復師です。専門は紙、つまり紙を支持体とする作品(スケッチ、版画、写真など)の保存、修復を担当しています。もちろんこうなったのは卒業してすぐではありません。ここからは私の紆余曲折の体験と皆さんへのささやかなメッセージです。

私が卒業した1992年、スペインではバルセロナオリンピック、セビーリャ万博などが目白押しの年でした。その影響もあり当時の私の夢は、「スペインで仕事をしたい」という単純で曖昧なものでした。その希望が叶いそうな会社を探し、日本で就職し、2年も経たないうちにマドリード支店出向となりそこで仕事もプライベートも満喫していました。

が、単純で曖昧な希望に基づいた選択には限界がありました。20代も終わりになる頃、自分の中に疑問が生まれました。今やっている事が本当に自分のやりたい事なのか?ずっとこの仕事を続けていきたいのか?答えはわかっていました、NOだと。

そこから自分探しが始まりました。もし皆さんが、将来何がしたいか迷うようなことがある場合、参考にしてみてください。それは自分の素に戻ってみることです。遠い昔の幼少期からさかのぼってみて、あの頃自分がなりたかったものは何だったのか。何が好きで何に夢中になれたのか。金融、メーカー、商社などの業界の話をする以前に、それら全てを無視してまずは素の自分に戻ってみて自分を知ってください。

私の思い出したことは、「手に職」を持つ職人になりたかったこと、美術館が好きだったことでした。深い自己分析をした後に方向を定め、それまで勤めていた会社も辞め、マドリードの修復師を養成する公立学校へ入り3年間学業に専念しました。美大に行ったわけでもなく、修復の土台が全くない私にはどの授業も理解に難しく、毎晩遅くまで復習に費やしていました。将来、皆さんが何かを達成させようとして努力するとき、辛い時があるかと思います。その時本能で「ここは正念場」と察することと思います。どうかそこは観念して頑張りぬいて下さい。それ以外はちょっと抜けていてもいいんです、でも「ここだ」と思うところはベストを尽くして頑張って下さい。

学校を卒業してようやく修復師になったのが36歳。プラド美術館の修復師公募の国家試験に受かったのがそれからまた数年後。背中に汗だくの試験でした。もし皆さんが将来こういう事態に見舞われた時のメッセージです。「最後まで自分を信じる」こと。人は色々言います。それは失敗した時に皆さんが傷つかないようにと配慮しているからかもしれません。それでも怯むことなく自分を信じて下さい。若い皆さんには無限の未来が待っているのです。一度しかない人生です、是非やりたいことにチャレンジして下さい!