2年次生以上のみなさんへ
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大からみなさんの身を守るために、大学は、まず授業開始を延期し、各種行事を中止する決定を出しました。このような事態となりたいへん残念な気持ちでいるのは、みなさんやご家族だけでなく、周到に新学期の準備をしてきた私たち教員にしてもまったく同じです。
みなさんの無事を祈ります。そして、もし周りに健康を害された方がいらしたら、じゅうぶん心を配り、ぜひ勇気づけてあげてください。
私たちも、教育のあり方を原点に立ち返って考える日々です。
直面している世界的な危機を真剣に捉えつつ、外国語学部で学ぶ意味と意義をみなさんとともに再認識し、より積極的に考えていきたいと思います。
本学部は、複眼的な視野をもち続け、常に世界に目を向けて、成果やメッセージを世界へ発信し、自ら発進していく学部です。私たち教員も、研究・教育活動のため、世界各地を飛び回っています。大学HPから教員教育研究情報データベースを見ると、その研究分野や盛んな研究・教育活動の概要がわかるでしょう。
私も、研究・講演活動を中心にこれまで約30か国を廻り、世界各地に友人・知人がたくさんいます。彼らを含めて毎日数百のメールをやりとりしたり、話したりするなかで確信したのは、運を天に任したり、自分だけがよければいいという考えを捨て去って、世界の人たちと手を携えていかなくてはならないのがまさに今だという点です。
人類は、きょう自分の生活がどうなるか知れないような不安な毎日を送る時代が長かったことは、歴史を繙けばよくわかります。幸いにして、現在は、知識の蓄積と技術の発達が進み、昔のような状況ではありませんが、食糧問題や環境問題、地域紛争など、地球的規模の難問がひしめいています。そして、人が生きていくにはどうすればよいか、人はなぜ生きるのかという根源的な問いを抱えたまま生きていかなくてはならないことに変わりはありません。私たちは人間なのですから。
さて、今こそみなさんに高めてもらいたいのは、自学自習する能力です。大学は何かを受け身で教わる所ではけっしてなく、問題関心を見つけては目標を立て直し、自分の道を自分で切り拓いていく切磋琢磨の場です。
では、いったい何から始めればよいのでしょう。それをここで具体的に書いてしまうと、みなさんの自律的な勉強の妨げにもなりかねませんが、きょうだけはごく手短かに。
外国語学部で学ぶ意味と意義については、『外国語学部ハンドブック』のまえがきにも書きました。外国語学部では学びの導入部で基礎語学をしっかり身につけたうえで、さらに飛躍するためのベースを積み上げていきます。必修語学の勉強がつらいと思った人は、モチベーションを高めるように工夫しましょう。学習対象地域に関して、興味関心の幅を一層ひろげてみましょう。それが、ゼミの勉強などにとても役に立ちます。
話は逸れます(こういう箇所が、実はだいじだったりします!)。もう30年ほど前になりますが、ゴルバチョフ元ソ連邦大統領とエリツィンロシア大統領がそれぞれ来日したときのこと。経済団体などの主催で午餐があり、私も通訳者の一人として加わったのですが、そこで出た話題はいったい何だったと思いますか?貿易や日露の政治外交関係だと思いますか?
答えは、「ニエット」(違う)です。何と、トルストイの『アンナ・カレーニナ』や、江戸時代に漂流してロシアで9年暮らし、帰国許可を得るためにエカチェリーナ2世に会った船頭大黒屋光太夫の話でした。私はロシア文化が専門なので、これはしめたと思いました。そこで驚いたのは、もちろん、事前の勉強会はあったにしても、日本の財界トップの豊富な知識と読書量です。作家でもあったある方は、トルストイ作品について具体的な場面を引用しながらコメントし、私にも意見を求めながら、生き生きと話され、かの国の元首たちも驚嘆していたことをよく覚えています。
ある国の実情をよく知るにはそこで長く暮らすのがよいと言われることがありますが、果たしてそうでしょうか。また、私たちは母語だけはよく知っていると思っていますが、ほんとうにそうなのでしょうか。世界の多面性や複数の見方を知ってものごとを相対化する習慣は、若いうちに身につけるのがよいと思います。
私からのお奨めは、知性や感性、民衆の知恵で溢れる本をまず精読し、再読することです。次に、学習対象地域で作られた英語・日本語字幕付きの映画やドラマを探して観ることと、歌を聴くことです。私もずっと昔、必要に迫られて数か国語を学んだときに、この方法を用いました。大学で授業が実施できない今こそ、こうしたことにじっくり取り組んで、心の引き出しを増やしておきたいものですね。
学習の手引きについては、各学科からより具体的なアドバイスがあると思いますので、先生方からのメッセージや学科HPなどを参照してください。
このブログは、みなさんの学習のモチベーションをさらに高めるための一助になるかもしれないと考えて、私の旅日記を綴る目的で写真を掲載しながら書いてきましたが、多忙を極め、しばらく休眠していました。復活しますので、どうぞよろしく!
早くみなさんに教室で会えることを願っています。