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今こそ人間性を取り戻そう

 

卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。昨日は冷たい雨模様でしたが、式典ののちには晴れ間も出て、名残りの桜を楽しまれたのではないでしょうか。

あっという間の2年がたち、私が学部長としてブログを書くのもこれが最後になります。コロナ漬けのような2年でしたが、昨日はマスクをはずした笑顔に囲まれ、私も清々しい気持ちになりました。

この数年はコロナ禍に始まり、ウクライナ戦争と続き、これから先も予測不能な日々が待ち受けているような気がします。不安だらけで学生生活を過ごし、そして大きな不安を抱きながら社会人としてのスタートを切る皆さんですが、期待も大きいことでしょう。

思えばこの「わくわく感」、「高揚感」、「アドレナリンが出る緊張感の中での達成感」といった一連の感情を、私たちはコロナ禍の3年で、知らず知らずのうちに遠ざけてしまったように思います。

他方で、AIの進歩と普及により、ネット環境も、学び方にも、それをとりまく社会の環境もこの3年で急速なスピードで変化しました。これからの大学教育はAI革命との対峙が一つの大きな課題なったことは明らかな事実です。

かつて、SF映画の世界で見た情景が、今は現実になっていることがいくつもあります。バックトゥザフューチャーやE.T.、スターウォーズの名場面が切り取られて目の前にあるようです。空飛ぶ車(ドローン開発)もその一つ。そのうち人型ロボットが、私の代わりに授業をする日が来るかもしれない、そうなったら、学生はキャンパスに来る必要もなくなるのだろうか。。。 いやいや、R2-D2みたいなキャラにすれば学生はもっと喜んで来るかもしれない。。。3月になってからこんなことが頭をかすめました。でも、AIにはその場の空気を読んだり、見えない相手の心まで慮る能力はありません。

ネコ型ロボットの「ドラえもん」が愛されるのは、ドラえもんに喜怒哀楽、そして心があるから。怠け者ののび太君に手を貸しながら、AI機能を使いすぎて起こる災難に遭遇させることで、彼の倫理観や正義感を呼び覚まし、やる気を起こさせ、成長させることが多いのです。そこにはのび太への共感と友愛、時には共闘の姿勢まで垣間見えます。

今私たちの日常に忍び寄っている、いや私たちがすでにどっぷりつかってしまっているのはデジタル機能やAIへの依存です。「携帯がなければ一秒だっていられない」という人は多い。卒業式後の学科集会で、私が送った言葉は「携帯デトックス・デーを設けてください」でした。情報処理技術、データサイエンスは今後ますます重要になってゆくでしょう。ですが、これに支配されてはならないのです。長い閉塞とコミュニケーション不足の時間を過ごした私たちは、今こそ人間性を回復し、そしてそれを豊かに表現する感性を取り戻さなければならないと思います。

「若いときに感性を磨くことですね」とは、私が社会人生活をスタートさせたときに先輩から言われた言葉です。新しい社会に向って歩みだす卒業生、在校生の皆さん、そしてあと数日で上智の門をくぐる新入生にも、この言葉を送ります。

                           2023年3月29日 幡谷則子
 

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