上智大学アジア人材養成研究センター Sophia Asia Center for Research and Human Development

センターについて

上智大学アジア人材養成研究センターとは

なぜ、上智大学がアンコール・ワットの修復か
―「文化遺産」を介して平和構築活動へ

ソフィア・ミッションとは

 ソフィア・ミッションは上智大学の学生・教職員・関係者の国際奉仕活動である。私たちは「他者のために、他者と共に生きる(Men and Women for Others, withOthers)」を建学の精神に掲げ、「他者」であるカンボジア人のところへ出かけて行って、友人となり、「仲間」となって、一緒になって遺跡保存・修復という奉仕活動を実施している。
 カンボジアでは1970年から内戦が続き、虐殺が約150万人に及び、約120万人が難民となり、全てを失い、誰もが内戦の混乱にあえいでいた。私たちは戦禍に苦しんでいるカンボジアの人たちを見過ごすわけにはいかなかった。上智大学は1979年に新宿の駅頭で「インドシナ難民に愛の手を」の募金活動を開始。難民キャンプを支援し、ボランティアを派遣してきた。そして、内戦中の1980年代から現地に入り、文化復興と平和構築を支援するため「アンコール・ワットはカンボジア人の手で保存修復」を提唱し、現地に「上智大学アジア人材養成研究センター」(1996年)を建設した。

遺跡修復から文化復興、そして平和構築へ

 アンコール・ワットは、平和な時代の民族の繁栄を物語るアジアで最大級の石造伽藍である。アンコール・ワットの工事現場では、民族の和解と文化復興を掲げて若いカンボジア人保存官候補たちが、頑張って第1期工事を完遂した(1996年~2007年)。私たちはアンコール・ワットの修復作業を通じてカンボジアの文化復興と平和構築に貢献してきた。この工事は、カンボジア人の偉大な民族の歴史解明につながり、カンボジアの人たちを勇気づけてきたのである。

17名のカンボジア人留学生が学位取得

 アジア人材養成研究センターは、カンボジア現地に根付いて約20年あまり、カンボジアの皆さんが勇気と希望を取り戻すお手伝いをしてきた。人材養成(カンボジア人留学生受入れ)の結果、上智大学大学院におけるカンボジア人保存官候補者の学位取得者は17名(博士6名、修士11名)におよび、現在も続いている。私たちセンターは「アンコール遺跡国際調査団」を組織し、ソフィア・ミッションを実施している。現在もカンボジアの仲間と一緒になって、アンコール・ワットの修復工事を実施し、ささやかながら奉仕活動を続けている。そして、第2期工事が開始される。(2016年~2020年)

ソフィア・ミッションを展開する
上智大学アンコール遺跡国際調査団

「カンボジア人によるカンボジアのための保存修復」の哲学

 調査団の国際協力の哲学は「カンボジア人による、カンボジアのための、カンボジアの遺跡保存修復」である。私たちは、カンボジア王国政府アンコール地域遺跡保存整備機構(National Authority for Protection and Management of Angkor and the Region of Siem-Reap)(以下「アプサラ機構」と略す)と約20数年にわたり、遺跡の保存と修復、観光資源としての活用に共同で取り組み、現在に至っている。この人材養成や保存・修復等の領域において、肌の色・言葉の壁を突き破り、「国境のない信頼関係」を築き、結論として「国際協力とは人と人の協力」であると実感してきた。
 主なプロジェクトは、以下の7つである。
 1)人材養成(考古発掘、建築系、保存科学、地域のリーダー等)
 2)アンコール・ワット西参道の修復工事(建築技術の解明)
 3)アンコール王朝の考古・建築調査による歴史解明研究
 4)文化遺産の修復を通じたアセアンの南・南協力の推進
 5)文化遺産の啓蒙教育(小・中学生の遺跡修学旅行、住民啓発講座)と無形文化財の保存活動
 6)環境保全とISO14001の推進
 7)日本・カンボジアの次世代リーダーの養成と交流
 調査団は、具体的には人材養成を通じてカンボジア人の自前発掘、自前修復、そして自国研究(クメール学研究)へ進む人材養成を実施している。保存官養成のためのアンコール遺跡現場実習プログラムは1991年に第1回が開かれ、2016年で52回を数えた。受講生は約500名を超え、文化芸術省、アプサラ機構、閣僚評議会、環境省、プノンペン大学、王立芸術大学などで活躍している。

アンコール遺跡国際調査団の活動-惜しみなき国際奉仕活動

 調査団は1980年のアンコール遺跡の予備調査以来、中・長期計画にもとづき、遺跡の保存・修復を行うカンボジア人保存官の養成を実施している。具体的には世界レヴェルの「クメロロジィ(Khmerology=クメール学)研究」が出来る研究者や専門家の育成にある。活動分野は、歴史、考古、建築、保存科学、水利都市、環境、村落社会、民話・伝統文化などの複合領域科学および新しい「知」のパラダイム構築など、約30年にわたりカンボジア研究を積み上げてきた。

主な調査・研究報告書・市販刊行物-英語で、日本語で、カンボジア語で-

  • 1)定期成果刊行物『カンボジアの文化復興』(1989年~2016年、第1号~第29号 現在続刊中)
  • 2)調査団の活動報告『アンコール遺跡を科学する(1993年~2015年第1回~第20回現在続刊中)
  • 3)研究会メンバーによる調査・研究の報告等『日本クメール学研究会会報』(1998年~2009年、
    Vol.1~Vol.12)
  • 4)調査団研究者による主な成果:Le Thanh Khoi著『東南アジア史』(白水社1970年、増補新版2008年)、『古代カンボジア史研究』(国書刊行会、1982年)、『埋もれた文明アンコール遺跡』(日本テレビ出版部、1986年)、『甦る文化遺産アンコール・ワット』(日本テレビ出版部、1990年)、B.Dagens著『アンコール・ワット』(創元社、1995年)、『アンコール・ワット大伽藍と文明の謎』(講談社、1996年)、J.Dervert著『カンボジア』(白水社、1996年)、B.P.Groslier著『西欧が見たアンコール水利都市アンコールの繁栄と没落』(連合出版、1997年)、Along Roads to Angkor (英語、Weatherhill,New York,1999年)、『アンコール遺跡の考古学』(連合出版、2000年)、『アンコール遺跡の地質学』(連合出版、2000年)、『アンコール遺跡の建築学』(連合出版、2001年)、『アンコール遺跡と社会文化発展』(連合出版、2001年)、『アンコールからのメッセージ』(山川出版、2002年)、J.Dervert著『カンボジアの農民』(風響社、2002年)、『世界遺産アンコール遺跡の光』(小学館、2002年)、『神々と王の饗宴』(古代オリエント博物館、2003年)、『アンコール・ワットを読む』(連合出版、2005年)、『アンコール・王たちの物語』(NHK出版、2005年)、『大アンコール・ワット展』(東映、国内7ヵ所で開催、2005年~2007年)、『アンコール遺跡・残された歴史のメッセージ』(NHK出版、2007年)、『アンコールの仏像』(NHK出版、2007年)、Angkor Buddhist Treasures from Banteay Kedi(英語、NHK Publishing、2007)、『タニ窯跡の研究』(連合出版、2007年)、Manuel d’ Epigraphie du Cambodge(フランス語、EFEOフランス極東学院、2007年)、B.Dagens著『アンコール・ワットの時代』(連合出版、2008年)、『クメール陶器の研究』(雄山閣、2008年)、『アンコール・ワットへの道』(JTBパブリッシング、2009年)、『世界遺産アンコールワット展』(岡田文化財団、国内8ヵ所で開催、2009年~2010年)、『東南アジア多文明世界の発見』(講談社、2009年)、『アンコール・ワット西参道修復工事(第Ⅰフェーズ)』報告書(上智大学、2011年)、『プノンペン国立博物館』(朝日新聞出版、2012年)、『ChallengingtheMystery of the Angkor Empire』(英語、上智大学出版会、2012年)、J.Boisserlier著『クメールの彫像』(連合出版、新装版2013年)、『〈新〉古代カンボジア史研究』(風響社、2013年、大同生命地域研究賞受賞)、『アンコール密林の五大遺跡』(連合出版、2014年)、『仏教芸術 特集アンコール遺跡の新研究』337号(毎日新聞社 2014年)、その他専門論文多数。