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シンポジウム「ジャウィ文書研究の可能性窶舶ヌとしてのジャウィ,橋としてのジャウィ」趣旨説明

ジャウィ文書研究の可能性窶舶ヌとしてのジャウィ,橋としてのジャウィ窶・br /> 趣旨説明 川島 緑(上智大学)

ジャウィとは一般的に,マレー語のアラビア文字表記を意味するが,ここではジャウィの概念を一般的な用法より広くとらえ,ジャワ語,スンダ語,ブギス語,タウスグ語,マラナオ語なども含む,東南アジア現地語のアラビア文字表記という意味で用いる.

日本ではこれまで,ジャウィ文書はほとんど研究に利用されてこなかった.研究者の多くは,関心の欠如からその重要性を認識せず,ジャウィ文書は「存在すれど見えないもの」として無視されて続けてきた.だが,ジャウィ資料は以下の点で重要である.

  1. ローマ字表記が普及する以前の時期や,浸透が遅れた地域や社会階層の人々が書き著し,読み,伝えてきた文書であり,これらの社会を理解するために不可欠な資料である.
  2. イスラーム関係文書の多くがジャウィで書かれているので,東南アジアのイスラーム思想,イスラーム知識人,民衆イスラームの研究にとって,基本的な一次資料である.
  3. さまざまな地域や時代のジャウィ資料の比較検討により,東南アジア地域内部の多様性や,多様なものの間のつながりを,資料に即して具体的に明らかにすることができる.
  4. アラビア語圏やペルシア語圏(中東・南アジア,および,東南アジア各地の中東・南アジア出身者コミュニティ)とのつながりを具体的に示す資料としての意味を持つ.

従って,ジャウィ文書を積極的に研究に利用することにより,個別の地域社会の研究を深めることができるとともに,ジャウィを共有する人々が,個々の地域社会や政治組織体の枠組みを越えて形成してきた絆を実証することが可能になる.そしてそれは,東南アジア,南アジア,中東という既成の地域概念を相対化する可能性を持っている.この企画はその出発点である.6つの先駆的な報告をきっかけとして,ジャウィ文書研究の可能性,問題点,その克服方法について,参加者とともに自由で活発な議論を行いたい.