ジャウィとは一般的に,マレー語のアラビア文字表記を意味するが,ここではジャウィの概念を一般的な用法より広くとらえ,ジャワ語,スンダ語,ブギス語,タウスグ語,マラナオ語なども含む,東南アジア現地語のアラビア文字表記という意味で用いる.
日本ではこれまで,ジャウィ文書はほとんど研究に利用されてこなかった.研究者の多くは,関心の欠如からその重要性を認識せず,ジャウィ文書は「存在すれど見えないもの」として無視されて続けてきた.だが,ジャウィ資料は以下の点で重要である.
従って,ジャウィ文書を積極的に研究に利用することにより,個別の地域社会の研究を深めることができるとともに,ジャウィを共有する人々が,個々の地域社会や政治組織体の枠組みを越えて形成してきた絆を実証することが可能になる.そしてそれは,東南アジア,南アジア,中東という既成の地域概念を相対化する可能性を持っている.この企画はその出発点である.6つの先駆的な報告をきっかけとして,ジャウィ文書研究の可能性,問題点,その克服方法について,参加者とともに自由で活発な議論を行いたい.