2024年7月5日
【ワークショップ&レクチャー】多和田葉子の戯曲のことば~「オルフォイスあるいはイザナギ」より~を開催しました(7月1日)
演出家の川口智子さん、舞台俳優の山田宗一郎さんをお招きし、ドイツ文学科の専門科目文献演習Va「多和田葉子の戯曲」でリーディングをしている作品『オルフォイスあるいはイザナギ』を用いたワークショップを行いました。
『オルフォイスあるいはイザナギ―黄泉の国からの帰還』は、1997年にドイツで制作されたラジオ劇です。タイトルからわかるように、ギリシア神話オルフェウスとエウリュディケと日本神話イザナギとイザナミの物語が素材として用いられていますが、それらは大胆に要素に分解され、新たに組み替えられています。そしてこの新たな神話を語り直すのは、冒頭に登場する「波」です。「波」「漁師」「花」「蛇」「神の末裔(?)」は、それぞれの言葉を紡ぎ、決して代理表象化されることない色彩と匂いを発し、あるがままの世界を成立させ循環させています。
さて、いよいよワークショップの当日。まずは「台本」が渡されましたが、すでに新鮮な驚きです。句読点などが全く予想外のところに打たれ、とても「読みにくい言葉」になっています。川口智子氏からは、これまでの国語教育の中で作られてきた「朗読法」から離れ、まっさらに日本語ということばに触れてほしいというその意図が説明されます。そして、川口氏によるリーディング、そして俳優の山田氏による憑依するかのような台詞読みが続き、すでに圧倒されながら、実際に役を演じたいと名乗り出た学生達が、指導されながら、リーディングに挑戦していきます。最後には教室の明かりを消して、暗闇の中、第一景が通して演じられましたが、私たち全員に、闇の中で、本当にそれぞれの「漁師」「花」「神オーギ」「神イナーケ」がそこにいるように感じられました!!!
週1回の授業では、ラジオ劇として作られたこの作品の、随所に散りばめられたドイツ語の音の遊びを、いかに日本語に移植できるか/できないか、を皆で知恵を出し合って読み進めています。ドイツ語のテキストの向き合うだけの時間もまた重要ですが、しかしこのように、それがどのような空間性と身体性の中で表象されるのかを考えることもまた重要です。そのための気づきを与えてくれた、実に貴重な体験となりました。川口氏と山田氏には情熱的な時間の共有を本当にありがとうございました。
【参加者の声】
- ただ訳して読むのと、舞台上に立ったかのように読むのとでこんなにも違いがあるのかと驚いた。もちろん、俳優や演出家の方々は素晴らしかったが、それ以上に体験した生徒一人一人が役に対して感じた直感的なものを演技を通して出力していることにすごいと感じた。今回は読めなかったが、次の機会があればぜひ自分も挑戦してみようと思う。
- 本日はこのような貴重な機会を設けていただいて、ありがとうございました。実際にリーディングをしていただいたことで、普段翻訳しているだけでは感じ取れきれない、この作品の世界観が伝わってきました。この作品の翻訳作業はとても難しくて、こんな日本語耳にしたことがないと違和感を覚えつつも、多和田さんワールドだからと言い聞かせ、この翻訳で果たして良いのだろうかと不安を抱きながら授業に参加しています。そのような訳だからこそ、一般の人には伝わらないのではないかと思っていましたが、そんなことはないと実感しました。実際にお二人のお話を聞いて、観客に伝わるのは文字としての情報だけではなく、そこに演出家さんの工夫が加わり、それらが役者さんの技術によって感情・感覚・理性とともに伝わるのだというように理解し、とても奥が深いなと感じました。
- 今回のワークショップでは、台本を目で追いながら聴いた時と何も見ずに聴いた本番時と作品自体の感じ方がまるで違ったという点が印象的だったと感じた。台本を追っている時は無意識のうちに句読点を無視して単語や文章を流れるように追ってしまっていたのに対して、耳に全神経を集中させ聴いた本番では耳から聞こえてくる情報以外は何もない為、切れ目に集中でき、聞こえてくる音から情景を自然と連想することができた。波は寄せては返す不規則な波のリズムに聞こえ、漁師二人の会話は海の近くで少し離れた位置にいる会話に聞こえ、情報を得る手段が聴覚のみ場合でも人間の想像力は衰えることなく、反対に研ぎ澄まされているとすら感じた。また、直接演出家の方のアドバイスや方向性を決定するまでの過程を間近で見ることができてとても楽しいワークショップだった。