小川 公代 教授

学歴 Academic background

英国ケンブリッジ大学・政治社会学部 学士号
英国ケンブリッジ大学・政治社会学部 修士号
大阪大学・文学部(英文学) 修士号
英国グラスゴー大学・文学部(英文学)博士号

B.A. in Social and Political Sciences, The University of Cambridge
M.A. in Social and Political Sciences, The University of Cambridge
M.A. in English Literature, Osaka University
Ph.D. in English Literature, The University of Glasgow

専門分野 Academic interests

専門分野は英文学です。とはいっても、近年の英文学研究の方法論やテーマは多岐に渡っており、私の研究テーマも学際的なものが多いです。医学史、精神医学史、ジェンダー、ポスト・コロニアリズムといった観点から文学作品を分析するというアプローチをとり、時代でいうとフランス革命から19世紀半ばまでのイギリス・アイルランド小説を中心に研究しています。中でも、フランス革命論争を意識した小説におけるジェンダー表象、アイルランド小説におけるアイデンティティーの問題、医学言説に見え隠れする権威主義に特に興味があります。学部では政治・社会学を専攻していたため、政治的な文脈と「言葉」を結びつける言説(discourse)という概念が私の研究の出発点でしたが、「言葉」をより具体的に理解・分析するため、英文学の領域に手を伸ばしました。今では、政治的な背景はもちろん、英文学作品に表象されるイメージ・メタファーやそこに用いられる言葉を味わうことに研究の喜びを感じています。言葉や概念というものは、私たち読者の見方や立場によって意味をかえます。言葉の運用能力を鍛えるという上でも、またその本質を探るという上でも文学研究は有用であると考えます。

担当科目 Courses provided at Department of English Studies

スキルズII(Eクラス)、英文講読(「おとぎ話を理論的に読む」)、British Culture and Fiction(19世紀イギリス小説)、イギリス文化史概論ゼミ(英文学、映画分析 )

英国研究やゼミでは、19世紀のイギリス小説や、映画分析などを教えています。それ以外の必修科目(スキルズ)や選択必修科目(英文講読)では、「英語」という言語を教えていますが、クリティカルに(客観的・意識的に)言語を運用する力がつくよう工夫しています。例えば、「スキルズII」では、「社会階層」、「エスニシティー」、「ジェンダー」、「宗教」など、学生が3年生以降に選択科目で学ぶだろうテーマを意識的に選んでいます。まずはそれぞれのトピックについて講義したあと、(自分がすでに知っている言葉も、これから学ぶだろう言葉も)より深い理解を得るため、英語の資料を読んでもらいます。つまり、まずはinput(頭に入る情報や英語のボキャブラリー)重視です。自分の中に蓄えられた英語の概念や表現に基づいて、自分の意見を構築したり、その考えを英語で相手に伝えたりすることをoutputとすれば、スキルズは、その両方(inputとoutput)を質・量ともにあげていくことが目的です。

例えば、少し難しいけれども “class structure”(階級構造)や “class mobility”(階級移動)について英語で理解してもらえるよう講義をし、さらに「社会階層」に関する新聞記事や論文を読んでもらいます。その後、学生は英語運用能力向上のため、ディスカッションやディベートを、また、最終的な成果として、クラスメイトの前でプレゼンテーションをします。一学期にトピックを三つ(たとえば、社会階層・人種・ジェンダー)カバーします。inputからoutputに移行する過程で、学生は次第に英語に対する自信をつけていきます。

英文講読の授業では、「理論」とは何かをわかりやすく伝えるため、比較的身近な「おとぎ話」を題材にします。「精神分析理論」、「ジェンダー理論」、「批判理論」といった理論を、「赤ずきんちゃん」や「ジャックと豆の木」などのおとぎ話の登場人物、象徴的意味などを分析することによって学んでいきます。グリム童話を精読することから始まり、さまざまな興味深い本や論文を原文で読み、最終的にはおとぎ話を映画化したもの(ディズニー映画)などを客観的に分析するということもします。こういった知的探求を通じて、多角的な考え方を身に着けてもらえたらと思っています。英語を、ある文化や政治的姿勢を体現する言葉として批判的に捉えながら、自分が毎日使っている日本語に対しても客観的な目を向けてほしいと思っています

イギリス文化史概論の授業では,ヨーロッパとイギリスとの関係を探りながら,歴史・文化的に構築されてきた「アイデンティティ」の問題を考えていきます。"Brexit"によって照らし出されたイギリス人の国民意識をより深く理解するために,17世紀以降の政治的・宗教的・美学的・科学的言説を探求し,学際的な視点から論じていく講義方式の授業です。とりわけ,移民と宗教をめぐる分断の問題,18世紀以降の啓蒙思想,科学・美学言説などヨーロッパとの連続性にといて考える問題は重要だと考えます。「近代」とは何かを考える上で支柱となる階級とジェンダーについても取り上げます。

主な著書、その他 Publications, Others

書籍
・『ケアの倫理とエンパワメント』(講談社、2021年)

・「『一九八四年』における愛と情動」『ジョージ・オーウェル『一九八四年』を読む』秦邦生編(水声社、2021年)
・小川公代、吉村和明編『文学とアダプテーション2ーーヨーロッパの古典を読む』(春風社、2021年)
・“Austen’s Belief in Education: Soseki, Nogami, and Sensibility” The Routledge Companion to Jane Austen(Routledge, 2021)
・「ウィリアム・ゴドウィンのゴシック小説再考――理性と感受性のあいだ」『脱領域・脱構築・脱半球 二一世紀人文学のために』巽孝之監修、下河辺美知子、越智博美、後藤和彦、原田範行編著(小鳥遊書房、2021年)
・「怪奇小説『メルモス』における結婚の隠喩と医学言説」『幻想と怪奇の英文学IV変幻自在編』(春風社、2020年)
Johnson in Japan, co-edited with Mika Suzuki(Bucknell University Press, 2020)
・第Ⅰ部総論「世俗の時代のヨーロッパにおける政教関係の構造と変容」(イギリスの箇所を共著 )、第七章「一九世紀イギリス文学の「世俗化」――エミリー・ブロンテの『嵐が丘』とスピリチュアリティ」、総論のイギリスに関する記述を担当『ヨーロッパの世俗と宗教 近世から現代まで』伊達聖伸編著(勁草書房、2020年)
Hayakawa Books & Magazines「ヒロインたちの逃走とサバイバルーーマーガレット・アトウッド『誓願』解説」ーー マーガレット・アトウッド『誓願 続・侍女の物語』(鴻巣友季子訳、早川書房、2020年)
・“Nogami Yaeko’s Adaptations of Austen Novels: Allegorizing Women’s Bodies”, British Romanticism in Asia (Palgrave Macmillan, 2019)
・「ゴシック小説と空想の詩学―アン・ラドクリフの『ユードルフォの謎』」『ジェイン・オースティン研究の今』(日本オースティン協会編、2017年)
・「たくさん読ませるための工夫」『教室の英文学』(研究社、2017年)
・「ジェイン・オースティンのミドルブラウ性ーへイヤーの『アラベラ』における保守とモダニティのあいだー」『英国ミドルブラウ文化研究の挑戦』(中央大学人文科研究所編、2016年)
・「『フランケンシュタイン』の幽霊ー伝承バラッドの再話として」『幻想と怪奇の英文学 2 増殖進化編』東雅夫、下楠昌哉編(春風社,2016年)
・『文学理論をひらく』(共著、北樹社、2014年)
・「アン・ラドクリフ『イタリアの惨劇』における幻想性と怪異感」、『幻想と怪奇の英文学』、下楠昌哉編、(春風社、2014年)
・『イギリス文学入門』、石塚久郎責任編集、(分担執筆、三修社、2014年)
・「観相学から骨相学へ―『フランケンシュタイン』における身体性」、『病と身体の英文学』(英宝社、2005年)
・”Cross-Channel Discourses of Sensibility: Madeleine de Scudery, Charlotte Lennox’s The Female Quixote (1752), and their Romantic Inheritors.” in British Romanticism in European Perspective: Into the Eurozone. Ed. Stephen Clark, Tristanne Connolly. (Palgrave Macmillan, 2015)
・“Embodying Disinterest: William Godwin and Hazlitt” in Grasmere, 2013. In Selected Papers from the Wordsworth Summer Conference at Rydal Hall. Ed. Richard Gravil. (The Wordsworth Conference Foundation, 2013)

連載
群像 2021年8月号〜連載〈ケアする惑星〉
小説TRIPPER(トリッパー)2021年冬号〜連載〈世界文学をケアで読み解く〉

文芸誌・新聞雑誌メディア
POPEYE 2022年8月号 [17歳からの映画案内。]「アメコミ映画でLET’S白熱教室!」
『文藝』2022年夏季号「文学における怒り――アーサー王伝説から『進撃の巨人』まで」
文學界 2022年4月号「女たちのアナキズムーー〈生〉を檻から解放する」
早稲田文学 増刊号 2022年3月刊行「特集:家族」対談「ケアを見つめ、家族を思う」(小川公代 × 小林エリカ)
美術手帖 2022年2月号 ケアの思想とアート「小川公代インタビュー 固定観念に抗う「ケアの時代」の想像の力」
図書 2021年3月号 エッセイ「ラッドリー家の人々―文学を愛する労働者階級の人たち」
文學界 2021年3月号 芥川賞受賞作品書評「作家論 不文律を貫く巡礼者ーー宇佐美りん論」
すばる 2021年12月号「対談 平野啓一郎+小川公代「本心」とは何なのか?」
月刊経団連 2021年12月号 特集エイジレス社会の実現に向けて Essay「時の調べ」「〈ケア〉と文学」
シモーヌ (Les Simones) 2021年Vol.5 特集[病と日記]「ウルフと日記――パンデミック小説を書くこと」
読売新聞 2021年6月20日(朝刊)書評 文庫×世界文学名著60、マーガレット・アトウッド『侍女の物語』(斎藤英治訳、早川書房)
日経新聞 2021年5月1日(朝刊)書評 リサ・タッデオ『三人の女たちの抗えない欲望』(早川書房、池田真紀子)
ユニバーサル・ミュージック(2020年12月3日)「大統領を演じるアリアナ・グランデが白い衣装を選ぶ訳:新曲「positions」に込めたメッセージ」ー アリアナ・グランデ「positions」
三田評論【特集:歴史にみる感染症】座談会:文学に現れる感染症 2020.11.05 巽孝之 × 小倉孝誠 × ピーター・バナード × 小川公代
日本経済新聞 2020年9月5日(朝刊)「しなやかな強さと生の肯定――ミン・ジン・リー著『パチンコ』」
文學界 2020年9月号「未知なる“生”をことばで再現する――高山羽根子「首里の馬」論」

群像 4月号 創作合評【第529回】2019.02.19 阿部公彦 × 小川公代 × 上田岳弘 ー 崔実「pray human」、高山羽根子「首里の馬」
群像 3月号 創作合評【第526回】2010.01.16 阿部公彦 × 小川公代 × 上田岳弘 ー 岡本学「アウア・エイジ(Our Age)」、山下紘加「クロス」、杉本裕孝「神様以上」
群像 2月号 創作合評【第527回】2019.12.12 阿部公彦 × 小川公代 × 上田岳弘 ー 東山彰良「猿を焼く」、今村夏子「的になった七未」、金原ひとみ「アンコンシャス」

メッセージ Message

もちろん日常会話や実践的な英語は重要であるし、それを体得することは英語学科の学生として必須であると考えます。ただ、そういう英語を教えることだけが「英語教育」ではないと思っています。言葉というのはさまざまな社会的文脈の中で用いられ、同じ言葉であっても(政治的、社会的)立場が違えば意味も変わります。これが「言説」です。異文化の言語を習得する際、それぞれの「言葉」が(それが語られた)時代背景やその文化などにおいて、何を意味し、またなぜそれを意味するようになったのかを考えようとする積極的な態度が大切だと考えます。私は英文学を教えることを通じて、学生の「言説」に対するsensitivity(感度のよさ)を鍛えたいと考えています。上智大学の英語学科を巣立つ学生たちが、将来「英語のプロ」として社会に役立つため、実践英語のみならず、深い教養を体得してくれることを切に願います。
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