レンヌで暮らす、語学学校で気づく

星川 佳那

 私が住む家から学校までは、早歩きで50分、ゆっくり歩けば1時間かかります。もちろん、メトロも通っており、それを使えば10分ほどで着くのですが、私は、食の誘惑の多いフランスで少しでも健康を維持しようというささやかな抵抗から、時間と引き換えにその道を歩いています。その道筋には、 レンヌという街の魅力がたくさん詰まっています。映画館、劇場、ショッピングモール、常設の市場、ブルターニュの郷土料理であるガレットのレストラン、い くつものカフェやパン屋さん、レンヌの中心を流れるヴィレーヌ川、旧市街と呼ばれる地区の愛らしい街並み、大聖堂、オペラ座や市庁舎、そして街の中心地、レピュブリック広場…。気力と体力のある日には、少し寄り道をして大きな公園で一休みすることもあります。こうした数々の魅力のお蔭で、私は飽きることもなく、 あっという間に学校にたどり着きます。生活の中心である家と学校をつなぐこの時間が、私はとても気に入っています。とりわけ、青空の下を歩く喜びは格別です。というのも、ブルターニュは雨が多く、1日の中でも天気の変化が激しいのです。単に「雨が降っていない」だけではなく「天気がよい」時間に歩ける確率はとても低いため、そんな日は、何かいいことがありそうな気がします。新しいものと古いもの両方の魅力を兼ね備えた、バランスのよい中小都市、それがレンヌに対して私が抱いている感想です。

フランス第2の規模とされるレンヌの朝市。ソーセージのガレットが人気です。

フランス第2の規模とされるレンヌの朝市。ソーセージのガレットが人気です。

 街の中心から少し外れたところに、私の通う学校があります。敷地そのものは広くありませんが、窮屈な感じはなく、落ち着いたキャンパスです。レンヌ第2大学付属の語学学校、CIREFEに私は所属しています。1クラス20人前後からなるクラス制度が敷かれ、授業は、フランス語の資格試験合格を目標とするカリキュラム構成になっています。中でも「読む」「書く」技能を鍛える授業に若干大きな比重がおかれています。校舎は大学キャンパスの一角にあり、学部生と同様に図書館や食堂をはじめとする施設やスポーツや文化のアクティビティを利用することができます。(その点は他の付属学校と大差はないと思います。)複数の図書館の中でも、私は語学のテキストや映画や演劇のDVDなどが揃うメディアテークをよく利用しています。CIREFEの特徴は、ある一定のレベル以上の受講生は学部の授業1つに参加する権利があること、そして「アトリエ」というCIREFEの生徒のためのクラブ活動が用意されていることでしょうか。アトリエ は映画、演劇など複数のコースがあり、それぞれに顧問の先生が付いています。先生からアドバイスを受けながら、セメスター末の発表会のために準備をします。アトリエはフランス語のレベルに関係なく参加できるため、交流を広げる機会になります。私は前セメスターで音楽のアトリエに参加し、仲間とともに音楽を楽しみました。

 語学学校には、様々な国籍、年齢、職業の生徒が集います。そんな環境ではやはり、国、あるいは文化の比較が多く行なわれます。「あなたの国の○○ はどう?」という質問は、授業内外を問わず頻繁に出て来ます。そんな中で、私は、友達とのおしゃべりに、しばしば違和感というか、居心地の悪さを感じることがありました。最初はその原因がわかりませんでした。しかし、ある時、私が自分の話をすると、「日本人だから」と結論づけられてしまうことが多いことに気が付きました。私が休日に勉強したというと「日本人は真面目だから」、掃除したというと「日本人は勤勉だから」という風に言われるのです。もちろん、国や文化ごとにステレオタイプがあることは知っています。すべての友達がそう言うわけではありませんし、彼らに悪気があるわけでもありません。何より私自身のコミュニケーション能力、語学力の欠如に原因があるのでしょう。しかし、それを考慮しても、大げさに言えば、まるで「日本人」という大きなネームプレートを提げた状態で会話して いるようだと感じたのです。確かに私は紛れもなく日本人なのだから、そう結論づけられても間違ってはいないとわかっていても、友達との会話がどうしようもなく苦痛だった時期がありました。それでも、この経験は、今までの自分を省みる機会になりました。私自身も同じように考えることはなかったか、他者の行動や考えを勝手に一定の枠組みに落とし込んで理解した気になることはなかったか、自らに問いかけました。もちろん、それは幾度となく自分がしてきたことでした。フランス共和国の重要な理念は「集団と集団ではなく、個人と個人が結びつく」ことだったのに。それを学んだ、大学3年次に所属していたゼミのことを思い出し、改めてこの理念を考えてみなければならないと思いました。

 このような経験も含めて、留学は、私に様々な感情を与えてくれています。楽しいことばかりではないけれど、大学生のうちに、仕事でもなく、旅行でもなく、まさに勉 強を目的として、約1年という決して短くない時間を、海外で過ごせることの尊さを日々感じていまます。フランスに留学してから、大学のフランス語学科で学ぶことを選んで本当によかったと思うようになりました。そして、大学を卒業した後も、職業に関係なく、フランス語を学び続けようという小さな目標もできました。勉強を続けてこそ、フランス語学科で学んだことや、留学の体験が意味あるものになるに違いないと考えるようになったからです。留学の目的は人それぞれですが、留学を価値あるものにするのは、留学中の過ごし方と、留学後の生き方かもしれません。だからこそ、留学したいけれどまだ迷っている人には、まず、「留学したい」という気持ちそのものを大切にすることを、強くお勧めしたいと思います。

バーやクレープの店が集まる、レンヌの繁華街の一角。

バーやクレープの店が集まる、レンヌの繁華街の一角。

CIREFE(Centre international rennais d’études du français pour étrangers)
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