「グローカルシティ」における移動と定住-日本人と外国人の比較から―参加報告

2014.09.12

参加会合:『「グローカルシティ」における移動と定住―日本人と外国人の比較から」』
開催日:2014年9月5日、6日
会場:上智大学四谷キャンパス2号館5 階506 教室
主催:本科研
執筆者:中山大将(研究協力者:北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター、日本学術振興会特別研究員)

本ワークショップは、本科研「飯田班」の共同研究の中間報告会の位置づけを持つ。飯田班の活動は、本科研始動に先立ち福本拓氏・飯島真里子氏・蘭信三氏を中心に有志によりすでに始められており、なお10年余前から蘭信三氏は満洲移民および中国帰国者研究を通して飯田市とは長い関係を持っており、本ワークショップの報告はそうした蓄積の上でなされたものであった。

本ワークショップ(および飯田班共同研究)の手法的特徴は、1)大規模なアンケート調査に基づく数量分析(福本氏、蘭哲郎氏、メイレレス氏)とインタビュー調査や参与観察による研究(武田氏、蘭信三氏)の双方があること、2)それらの研究が一般的統計に見られる動向との関連付けを行っていること、3)そして、それらが一地域を多面的に把握しようとしていることである。

また、視角的特徴としては、1)飯田市を「(歴史的)グローカルシティ」(グローバル+ローカル)と位置付けていること、2)「外国人問題」としてではなく、日本人(マジョリティ)側の状況も含めて総合的に地域をとらえていることが挙げられる。

アンケートに基づく数量分析研究においては「接触仮説」(外国人と日常的に関係のある日本人の方が受入に積極的である)が有意であることなどが示唆された一方で、参加者のコメントからもアンケートの数量分析においては、世代や性差、国籍などの様々な要素が複雑に絡まっており、丁寧な検証の必要性が課題として残されたが、こうした指摘が現われたのも、飯田班の他の研究が飯田市の状況の複雑さを丁寧に提示していた故であり、飯田班の共同研究の連携が巧みであることの証左でもある。

研究の枠組み自体に対する阿部氏のコメントは、本共同研究の今後の方向性を考える上では非常に貴重なものであったと言える。つまり、「外国人」「日本人」というような二分法自体が、結局は「外国人」という立場を固定化させているのではないかという指摘である。

この点は筆者も同様に感じるところがあった。「外国人」のみを地域における「他者」とせず、日本人でも地元出身者ではない人々とを比較し、「移住者」として共通性や相違性を検証するという飯田班の視点は極めて重要である。しかし、「外国人」という立場の可変性をどう表現し、分析の中に取り入れていくのか、という点は今回の報告では充分に提示されなかったと感じた。本共同研究の視角を存分に活かすためには、統計上やアンケート対象としては「外国人」からは弁別されてしまいながらも、コミュニティやアンケート回答者の意識の中では「日本人」からは区別されてしまっているかもしれない「日本国籍“取得”者」や、国籍の如何を問わず社会・経済的安定を勝ち得て地域のエスニック・コミュニティとの密な関りを持たず“支援”の対象にもならないような人々をどう位置付けるのかという点は、今後理論的にも議論され、技術的な解決も要されるのではないか。

この点は、「外国人」に限らず日本人新住民でも同様に問題視されることである。たとえば、住宅地化が進む近郊農村における非農家新住民と在来農家とでは、集落行事(氏子祭礼など)や共同作業(用水路の掃除など)に対する意識が当然ながら異なり、新住民の中には協力的で「地元化」する人々もいれば無関心のままの人々もいるという状況も存在する。無い物ねだりは慎むべきとは分かっているものの、飯田におけるこうした「日本人」間の問題まで目を向けてみることで、本共同研究ならではの新たな視点がより鮮明に提示できるのではないかという期待を筆者なりに抱いている。

以上のような課題が指摘されたものの、本共同研究は、日本の地方都市が直面している厳しい現状を、新たな「グローカルシティ」という位置づけからその現状と将来を考えるという意味で意義深いものであり、「グローカルシティ」のモデルとしての飯田市の姿を描くことは極めて重要な仕事であると考えられる。

また、本ワークショップは、報告者の事情等により当初の予定から少々変更があったため、以下に実際のプラグラムを改めて記載しておく。(以下、敬称は「氏」で統一)
・第一日目
【報告者】
蘭信三(上智大) 「趣旨説明:グローカルシティ:飯田市の概要と本調査の目的」
福本拓(宮崎産業経営大)「外国人受け入れ意識と移動経験」
蘭哲郎(大阪大・院) 「日本人・外国人市民の就業と地域参加における比較」
【コメンテーター】
阿部亮吾(愛知教育大)

・第二日目
【報告者】
武田里子(大阪経済法科大)「飯田市の多文化・多民族化の現状―聞き取り調査を中心に」
グスターボ・メイレレス(上智大・院)「在日ブラジル人コミュニティの組織化」
蘭信三(上智大)「飯田市における中国帰国者の生活と意識」

【コメンテーター】
高畑幸(静岡県立大)、坪谷美欧子(横浜市立大)

発表の様子

発表の様子

質疑応答の様子

質疑応答の様子

 

 

 

 

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