2025年07月01日 16:25:06

アフリカ研究セミナー「変貌するエチオピア: EPRDF政権28年の評価とアビィ政権の課題」を2025年7月26日(土)に開催します。


本セミナーは1991年から現在にいたるエチオピアの変容を多面的な視角から検討することを目的としている。1991年から2019年まで政権与党であったエチオピア人民革命民主戦線(EPRDF)は、アビィ首相により解体され再編された。軍事政権崩壊以降のエチオピア政治を率いたEPRDF政権とは、どのような政権であったのか。本セミナーの発表者は、『変貌するエチオピアの光と影:民族連邦制・開発主義・革命的民主主義の時代』(春風社、2025年)において各視点からEPRDF政権を多角的に分析した。本セミナーでは、EPRDF期の分析に加え、アビィ政権下で生じた政治変革、戦争や経済危機が及ぼした影響も検討する。


セミナーの骨子
エチオピアは2000年代の初頭、突如急激な経済成長を開始した。この経済成長は、2010年代の後半まで、およそ十数年にわたって続いた。この間の、年10パーセント前後の成長率は、世界的に見ても突出したものだった。だがこの目もくらむような躍進は、2010年代末に暗転する。2019年には1990年代から与党であったEPRDFが解党され、ノーベル平和賞を受賞したアビィ首相が新たに繁栄党を結成し、それまで盤石と見えていた政治体制に亀裂が入り、内戦が勃発したのだ。経済成長にもブレーキがかかり、2023年にエチオピアはデフォルトに陥った。本セミナーでは、このエチオピア政治経済の急激な上昇と下降を、「民族連邦制」と「開発主義国家」という二つのキー・ワードから明らかにし、それが政治に大きな影響を及ぼしてきた諸民族から、どのように見えるのかを報告する。また2025年現在のエチオピアの状況についても、解説を行う。

 エチオピアは他の多くのアフリカ諸国と同様に、多民族国家である。他のアフリカ諸国と異なっているのは、エチオピアという近代国家が、ある一つの民族出身の皇帝によってつくられたという点である。19世紀の末、アビシニア高原の南部に領土をもつアムハラ人の王メネリクは、周辺の諸王国、さらにその周辺の農耕民、牧畜民社会を征服し、広大なエチオピア帝国を築いた。紅海から南下するイタリア、ケニアから北上するイギリスに抗して帝国を維持することは、メネリクの喫緊の課題だった。だがそこでとられたのは、アムハラ貴族を中心とし、征服した諸民族を搾取するという、半封建的とも、植民地主義的ともいえるような政治経済体制だった。
 政治・経済・文化において、アムハラがヘゲモニーを握るというこのアムハラ中心主義的な国家体制は、その後、1974年まで続いた皇帝ハイレセラシエのより近代的な治世においても、1991年まで続いた社会主義軍事政権においても、変わることはなかった。そしてアムハラ中心主義によって周辺民族の反感が高まり、反政府運動が活発化するという構造が、エチオピアという国家の宿痾となった。
 この民族問題に終止符を打とうとしたのが、1991年に軍事政権を打倒したエチオピア人民革命民主戦線(EPRDF)の「民族連邦制」だった。これはエチオピアを民族州に分割し、各民族に国家からの離脱まで含む自己決定権を与えるという政治体制である。EPRDFの中心は、1970年代から活発な反政府活動を行ってきたティグライ民族解放戦線(TPLF)だった。「民族連邦制」は、アムハラ中心的な中央集権国家を解体し、エチオピア国家を構成する各民族に政治経済的な権利を与えるという、極めて実験的な試みだった。
 EPRDF政権のもう一つの柱は、「開発主義」だった。政権の中心にあったティグライ人は、人口ではエチオピアで4番目の民族で、決して多数派ではない。政権が求心力を維持するためには、各民族に分配する経済的果実が必要だった。そこでとられたのが、国家主導により産業構造を高収益の製造業中心に転換しようとする「開発主義国家」モデルだった。
 だがこのEPRDF政権の目論見は、挫折することになる。ティグライ人主導の強権的な政治体制が、エチオピアで最大の人口を擁するオロモ人や、政権の中枢から追われたアムハラ人の反発をかったのである。オロモ人やアムハラ人の反政府運動が活発化する中、オロモ人とアムハラ人に出自をもつアビィ・アフマドが首相となり、入れ替わるようにTPLFは政権から離脱した。そしてその2年後の2020年、政府軍とTPLFの間に、内戦が勃発したのである。

 本セミナーでは最初に、EPRDF政権からアビィ政権にかけてのエチオピアの政治・経済の流れについて、全体を見渡すことができるような基礎的な説明を行う。次いで、エチオピアの政治経済に対してもっとも大きな影響を及ぼしてきた3つの民族、オロモ、アムハラ、ティグライについて、それぞれの民族から見たEPRDF政権およびアビィ政権と、それに対して各民族がとってきた対応を報告する。最後にエチオピアの人口の多くを占める周辺部の民族からは、このようなエチオピアの政治経済の変遷が、どのようなものとして見えるのかを報告する。多面的な視角からエチオピアの現在を明らかにしようとするのが、本セミナーの目論見である。


主催上智大学アジア文化研究所
日時2025年7月26日(土)
13:30-18:00
テーマ変貌するエチオピア:
EPRDF政権28年の評価とアビィ政権の課題
発表者宮脇幸生(大阪公立大学)
石原美奈子(南山大学)
田川玄(広島市立大学)
児玉由佳(アジア経済研究所)
眞城百華(上智大学)
会場開催方式はハイフレックス
上智大学の会場ならびにオンライン参加(Zoom)併用

対面:上智大学6号館3階304教室
https://www.sophia.ac.jp/jpn/aboutsophia/access/campus/

使用言語日本語
お申し込み https://forms.gle/JuA4sGGcPqriAAdVA

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