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第23回研究会報告

日時:2005年4月24日(日)13:00-18:00
場所:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所セミナー室(301)
出席者:12名

1. 事務連絡・情報交換

(1)今回の本研究会(ジャウィ文書研究会)の冒頭に,本研究会が,今年度よりアジア・アフリカ言語文化研究所共同プロジェクト,「マレー世界における地方文化」の一翼を担う事に伴い,共同研究プロジェクト研究代表である,宮崎恒二氏より趣旨説明があった。なお,宮崎氏は御都合が合わず,今回の研究会には欠席されたため,青山氏が文章による説明を代読するかたちでなされた。プロジェクトの概要に関して,ジャウィと口頭伝承の関係性や,「マレー世界」の定義内容に関する質疑がなされた。「マレー世界」の定義については西尾寛治氏から研究者間の定義に関して教示があった。

(2)前項に関し,共同研究プロジェクトの成果報告として,本研究会としてどのようなものを出すかについては,今後検討を重ねていくこととなった。

(3)今回の研究会には,東京外国語大学博士課程の久志本裕子氏が参加された。久志本氏はマレーシアのイスラ-ム教育を研究されており,そこからジャウィ文書に興味を持たれたとのことであった。

(4)川島緑氏が以前本研究会で紹介された,マナナオ語物語『パラプラガン』に関する研究ノートを出されたとの紹介があった。

2. ジャウィ定期刊行物リスト作業報告(第2回)

新井氏によるジャウィ定期刊行物リスト作成の中間報告があり,前回の研究会において報告されたマレーシア・シンガポール・ブルネイのリストの作業ついては,資料の所蔵状況などの追加情報の作業に関して,現在,一時作業を停止しているが,今後各カタログに記載されている雑誌の突き合わせや,更なるカタログ,参考文献の収集をしていく予定であるとの報告があった。インドネシアのリストに関しては,菅原由美氏がカタログのコピーを提供して下さったこと,しかし,そのカタログには雑誌の言語と文字の記載がないものも多く見られるために,それらを確認する必要があることが報告された。カタログの分量がかなりの量であるため,必要に応じて会員の協力を仰ぎながら,今後のリスト作成作業を進めていくことが確認された。フィリピン,その他の地域に関しては川島緑氏がフィリピンで出版されているジャウィ定期刊行物のリストを作成して下さったとの報告があった。

3. マラナオ語とタウスグ語刊行物リスト

川島氏による,ジャウィによるマラナオ語とタウスグ語刊行物リストの報告がなされ,マラナオ語3点,タウスグ語2点,合わせて5点の,20世紀に刊行された定期刊行物についての説明があった。この様な定期刊行物のカタログがフィリピンにはなく,今後の予定として南部フィリピンのジャウィ文書の概観まで作業を進めて行きたいとの発表であった。質疑応答では,そうした定期刊行物と郵便制度の関係や教育との関係についての質問があり,実際に郵便が使用されていたこと,英語とジャウィが併記された定期刊行物がアメリカ人とフィリピン人との情報共有,英語学習者にとって役割を果たしていたことなどが返答された。また,The Sulu Newsという20世紀前半の,タウスグ語のジャウィ表記と英語のラテン文字表記の記事が併記されている定期刊行物は,英語版には,タウスグ語版と同じ内容であると書かれているにもかかわらず,実際は内容に差異が見られる場合があるため,次回はまず,双方の記事の見出し語を比較し,互いの言語間の表現や内容の差異について検証してみることとなった。

4. パレンバン写本調査及びカタログ作成作業報告

菅原氏によって,東京外国語大学COEの活動として行われた,スマトラ・パレンバン写本カタログ調査報告がなされた。インドネシア写本学会のメンバーが結成したYNASSA(Yayasan Naskah Nusantara),地元研究者,菅原氏が2003年7月にパレンバンで行った調査であり,書誌学に基づいて作成されたカタログには人名,地名,透かしによる索引がある。パレンバンの写本としてはジャカルタや海外のコレクションであるSultan Badaruddinコレクションや,18世紀以降のイスラームの積極的保護の結果増加した宗教写本などがあり,また,そうした写本の所有者としては,現在のスルタンであるR.H.Muhammad Syafei Prabu Diradja 氏や,プサントレン関係者,宗教関係者の子孫,アラブ人などがあげられるとのことであった。写本の総数は216に上り,その種類はAstronomiからHikayat,Wayangなど多岐に渡るが,特にFikih,Surat,Tasawufの分量が多いとのことであった。文学の割合が少ない理由としては,今回の調査では宗教関係者を中心に回ったことと,紛失があることが理由として述べられた。今後,ミナンカバウでの調査報告もして欲しいとの要望が会員から出された。

5. テキスト講読

“Pendahuluan” al-Huda, No.1(1930), Batavia, pp. 2-6 (今回の翻字はp. 3まで,講読はp. 2まで)。テキスト・翻字提供:新井和広氏。講読前に新井氏よりal-Huda誌についての説明があった。al-Huda誌はバタヴィア在住のアラブ人(サイイド)が出版した,ジャウィで書かれた雑誌であり,1930年11月より月に二回,1931年6月まで計13号発行された。どの様な性格を持つ雑誌であるか,詳細はまだよく分からないとのことであった。今回講読した部分には,al-Hudaという書名の由来と雑誌の目的が書かれており,コーランやハディースの中でも出てくる「導き(善導)」という言葉から取られたこと,平和と繁栄,人間性を高めるためにアラブ人(サイイド)やインドネシアの全住民(特にムスリム)全てを巻き込むことが目的とされる。そして雑誌の内容として,ニュース(特にインドネシア内外のムスリム関係のもの)や,イスラームを中心にした同時代に必要とされる知識が含まれると書かれていた。今回講読した部分はなかなか難解な文書ではあるが,この雑誌の性格を考える上で重要なことが書かれており,興味深い文書であった。

5. 今後の活動予定

次回の第24回研究会は6月26日(日)の午前10時より開催する予定とし,講読テキストは今回に引き続きal-Huda誌を読み進め,新井氏が翻案原案を作ることとなった。また,事務局から冨田暁氏と新井氏に次回の研究会における発表の依頼がなされた。

(文責:冨田 暁)