研究会・出張報告(2009年度)

   研究会

SIAS / KIAS Joint International Workshop
"Depth and Width of Islamic Culture and Society"

Date: 12 July, 2009, 10:30 a.m. - 6 p.m.
Venue: Lecture Room No. 1 (Room: AA401), 4th Floor, Research Bldg. No. 2, Main Campus, Kyoto University
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/access/campus/map6r_y.htm

Chairs:
Akahori Masayuki (SIAS)
Tonaga Yasushi (KIAS)
Takahashi Kei (SIAS)
Nigo Toshiharu (KIAS)

Commentators:
Nevad Kahteran (Associate Professor, Sarajevo Univ., Bosnia and Herzegovina)
Alexandre Papas (Senior Researcher, CNRS, France)

Program
Opening (10:30-10:40)
Part One: Width of Islamic Culture (10:40-12:20) → 報告①
Nakanishi Tatsuya (Kyoto Univ.), "Sources of Islamic Ideas in Chinese Qadiris: Preliminary Research of Sufism and Taoism in Northwestern China during the 18th and 19th century."
Ria Fitoria (Sophia Univ.), "Paguyuban Adat Cara Kahurun Urang (PACKU): A Study of Religious Movement in Cigugur, West Java, Indonesia."
Komura Akiko (Sophia Univ.), "A New Look at Islam in Japan through the Magazine 'Assalam.'"
Fujii Chiaki (Kyoto Univ.), "The View of Illness Based on Islam: The Case of East African Coast."
Part Two: Depth of Islamic Thought (1:30-2:45) → 報告②(準備中)
Tochibori Yuko (Kyoto Univ.), "The Works and Thought of Amir 'Abd al-Qadir."
Wakakuwa Ryo "Against Secularism: Wiews of the Ulama on the Eve of Tunisian Independence."
Sononaka Yoko (Kyoto Univ.), "The Sama' of Sufi Literature: Minhacu'l-Fukara of Ismail Ankaravi, the 7th Sheikh of the Mevlevihane in Galata."
Part Three: Variety of Islamic Society (3:00-4:15)
Yasuda Shin (Kyoto Univ.), "The Concept of al-Siyaha al-Diniya: Focus on Syria and Egypt."
Tobinai Yuko (Sophia Univ.), "The Present-day Situation of the Life of Internally Displaced People in Khartoum: Through Fieldwork on the Kuku Language Used in the Activity of the Episcopal Church."
Aleksandra Majstorac Kobiljski (Doshisha Univ.), "Rethinking Butors al-Bustani's National Academy."
Comments from Commentators: (4:30-5:10)
General Discussion (5:10-6:00)

→ 全体報告

報告③
 安田氏の発表は、伝統的なイスラームの巡礼や参詣とは異なり、1970年代以降あらわれてきたal-Siyaha al-Diniya(宗教観光)という現象に定義と解釈を与えるものであった。まず「同現象の歴史・背景」、「概念」、「同現象の出現は特殊性」に関して問題提起を行ない、これらに回答を与えるかたちで発表がなされた。
 安田氏はal-Siyaha al-Diniyaの出現の背景を①中東・アフリカ地域における観光産業の発展、②グローバリゼーション、③9.11以降のイスラームのイメージ悪化に求めた。そのうえで、経済・文化の二つの側面からal-Siyaha al-Diniyaの概念を説明した。経済的にみると同現象はイスラーム諸国において観光事業を推進するものだという。また文化現象としてみればムスリムがアイデンティティを再確認すると同時に、ムスリムではない人々がイスラームについて理解する機会を提供する。以上をふまえ安田氏はal-Siyaha al-Diniyaが現在決して特別なものではなく、拡大しつつある現象であることを説明し、今後の研究の重要性を述べた。
 飛内氏は、内戦を避けてスーダン南部から首都ハルツームへ避難して生活するククの人々(バリ語という言葉をもつエスニック・グループ)の言語状況に着目して発表を行なった。これは同氏がハルツームで行なったフィールドワークに基づくものである。
 ククの人々が公共空間ではアラビア語ハルツーム方言を話す一方、親密空間ではバリ語やアラビア語南部方言を用いるといったように場に応じて用いる言語を転換させていることを明らかにした。またこの状況には、同じエスニック・グループ内であるにも拘わらず年代間で相違がみられる。
 飛内氏の視点の独自性は、上記の言語使用を教会での活動と結び付けて論じたところにある。ククの人々はキリスト教聖公会を宗教として持つ。ハルツームにある同教会での活動が主にバリ語で行なわれていること、活動おいて彼らが自己アイデンティティを「クク」もしくは「東アフリカ」ととらえていることを指摘し、教会活動とアイデンティティ形成の関係について論じた。
 アレクサンドラ氏は、19世紀アラブ文芸復興運動の思想家ブトルス・ブスターニー(1819-83)の活動において教育活動が看過されてきたことを批判したうえで、彼の著作の整理、学校の様子、ベイルート・アメリカン大学の設立前史について発表した。そのなかで、ブスターニーが単に辞書編纂者や翻訳者、ジャーナリストとして生きたわけでなく第一には教育者であったということが主張された。
 後の20世紀、アラブ知識人を輩出する場となったナショナル・アカデミーに対するブスターニーの構想が論じられた。彼によって米国宣教師団が教育の場に導入されていったことで、近代アラブの知識人層が形成されただけでなくリベラル・アーツ教育が行なわれる布石となったことが説明された。
 (野辺地あかね・上智大学大学院グローバルスタディーズ研究科博士前期課程)