調査・研究

<政治社会学班>科研「権威主義とポピュリズムの台頭に関する比較研究」との共催による研究会(2019年7月26日(金)上智大学)の報告書

2019年度報告

日時:7月26日(金)15:00~
場所:上智大学2号館6F 603会議室(エレベーターおりて左手すぐのドア)
発表1:15:00--16:30(質疑含む)
 発表者:佐藤卓己(『ファシスト的公共性』の著者、メディア史研究、京都大学教授)
 発表タイトル:「輿論主義(デモクラシー)と世論主義(ポピュリズム)―ファシスト的公共性論の射程」

発表2:16:40-18:10
 発表者:澤江史子
 発表タイトル:「トルコ政治における「ポピュリズム」の需給関係」

全体討論18:10-18:40
19時~懇親会

 2019年7月26日、上智大学四谷キャンパスにてNIHU現代中東研究・上智拠点・政治社会学班研究会が科研「権威主義とポピュリズムの台頭に関する比較研究」(代表:宇山智彦氏・北海道大学)との共催で実施された。研究会の内容は、大きく前半部と後半部に分けられる。前半部は昨年、岩波書店より出版された『ファシスト的公共性――総力戦体制のメディア学』の著者である佐藤卓己氏(京都大学)を囲んでの合評会に相当するものであり、後半部は、澤江史子氏(上智大学)によるトルコのポピュリズムについての研究報告であった。

 佐藤氏による、「輿論主義(democracy)と世論主義(populism)――ファシスト的公共性論の射程」と題された報告では、同氏のこれまでの研究が手短に紹介されたのち、同書の鍵概念となる「ファシスト的公共性」の定義やその特徴が、市民的公共性との対比において鮮やかに示された。従来の公共性(圏)をめぐる議論では、ハーバーマスが論じた財産と教養を参入要件とする市民的公共性にもっぱらの関心が注がれる一方で、それと対置される非文筆的/街頭的な公共性をめぐっては、その重要性にもかかわらず等閑に付される傾向にあった。ハーバーマスが意図して論じなかった非文筆的/街頭的公共性に光をあてることの必要性が改めて浮き彫りとなっただけでなく、それが具体的に「ファシスト的公共性」として提示されたことが本報告(および本報告のもととなる著作『ファシスト的公共性』)の重要な点であると考えられる。また、報告ではシンボル研究の重要性や、「輿論主義(Public Opinion)」と「世論主義(Popular Sentiments)」の違い、戦前戦後の世論調査の連続性への言及、また赤神良譲による論文「全体主義と電体主義」(1940)中で示された「電体主義」概念の射程の検討なども行われるなど、刺激に満ちた内容であった。報告後には、ポピュリズムの定義や佐藤氏の議論の中東研究での応用可能性などに関して質疑応答が行われた。

 佐藤氏の報告に続いて、澤江氏によって「トルコ政治における「ポピュリズム」の需給関係」と題された報告が行われた。同報告では、2019年にトルコの大都市での選挙において、軒並み野党連合が勝利したという状況をうけて、その要因が、「イスラーム的ポピュリスト政治家」であるエルドアン政権の政策と言説、またそれに対する人々の反応の検討から明らかにされた。報告では、まず2019年のイスタンブル大都市首長選挙や統一地方選挙の結果が紹介され、与党AKPへの支持率が低下している事実がいくつかの世論調査をもとに示された。それに続いて、ポピュリズムの定義およびトルコにおけるポピュリズムをめぐる状況の検討が行われ、さらに2013年以降はエルドアン大統領のポピュリズム政策が行き詰まりを見せる傾向にあることが示唆された。加えて、報告の後半ではエルドアン大統領によって行われるポピュリズム言説の強化と支持の低下との相関関係の分析が行われ、「「人民」と断絶したポピュリスト・リーダーへの批判」が高まりつつあることが指摘された。与党から野党連合への支持鞍替えを阻む要因についての言及も行われたことも興味深く、現代トルコの政治が、ポピュリズムと権威主義という切り口から明快に示された。報告後には、報告中の語句や、エルドアンと権威主義体制との関係、エルドアンとAKPに対する人々からの支持の温度差などに関する質疑応答が行われた。
                                                 (文責:千葉悠志・公立小松大学)

 

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