<人類学歴史学班>スーフィズム・聖者信仰研究会 国際ワークショップ
2017年度報告
CNRS-KIAS/SIAS Joint Seminar 2018
Holy Relics and Religious Commodities in Islam
+ Other Related Subjects Including Graduate Student Presentations
Date: January 21-22, 2018
Venue: Toyo University's Training Center in Atami
12, Momoyama-cho 1, Atami, Shizuoka Prefecture 413-0006
https://www.toyo-atami.com/ (only in Japanese)
January 21: 13:00-18:00
(13:00-13:15) Opening Remarks: TONAGA Yasushi (KIAS, Kyoto University)
Part 1: Holy Relics and Religious Commodities in Islam + Related Subjects
(13:15-13:50) Pierre-Jean LUIZARD (EPHE-CNRS GSRL)
“Damascus and Cairo: Two Heads of Hussein for Two Kinds of Worship”
(13:50-14:15) KONDO Fumiya (Ph.D. student, SGPAS, Sophia University)
“Mawlid Dolls of Egypt in terms of “Religious Commodities”: A Preliminary Study”
(14:15-14:50) Thierry ZARCONE (EPHE-CNRS GSRL)
“Qadamgâh and Mausoleums Associated with Relics of Imam Alî ibn Abu Tâlib in the Indo-Turko-Persian Area”
(14:50-15:00 Break)
(15:00-15:35) NIHOMIYA Ayako (Aoyama Gakuin University)
“Qadam-i Sharīf, Mecca and Delhi: Story of a Sufi and Footprints of the Prophet Muḥammad in Medieval India”
(15:35-16:10) Alexandre PAPAS (CNRS-CETOBAC)
“Kashkûl: Practical Uses and Doctrinal Meanings of a Sufi Relic”
(16:10-16:45) TAKAHASHI Kei (JSPS Research Fellow-RPD)
“Sufism without Tariqa: The Emergence of Muslim Third Places in the Contemporary American Muslim Community”
(16:45-17:00 Break)
Part 2: Graduate Student Presentations 1
(17:00-17:30) ISHIKAWA Kido (Ph.D. student, ASAFAS, Kyoto University)
“The Mode of Expression of the Love in the works of Bābā Ṭāhir”
(17:30-18:00) SUENO Takanori (Ph.D. student, ASAFAS, Kyoto University)
“The Idea of Sufism by Ibrāhīm Niyās: From a Perspective as a Sharī‘a Oriented Sūfī”
Pierre-Jean LUIZARD
“Damascus and Cairo: Two Heads of Hussein for Two Kinds of Worship”
歴史的な背景に言及しつつ、フセインの頭への崇敬がダマスカスとカイロを中心にどのように行われていたを考察した。発表者はカルバラーの悲劇について説明した後、フセインの頭からでる血に対する崇拝、フセインからの別離について嘆くことなどの崇拝形態についてふれ、崇敬場所の変遷、カイロで都市の守護者としての役割が付与されたことなどにもふれた。質問では、個人がダマスカスとカイロのどちらでも崇敬していいのかなどの質問が挙がった。
文責:石川喜堂(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科一貫制博士課程)
KONDO Fumiya
“Mawlid Dolls of Egypt in terms of “Religious Commodities”: A Preliminary Study”
エジプトでマウリドに際して売り出される人形(arusat al-mawlid)の「宗教消費財」としての側面を考察した。発表者は、同人形の歴史や先行研究を整理した後、現代エジプトで人々がその価値や是非について多様な見解を持ちながら、総じてイスラーム的なモノとして捉えていることを述べた。その上で、こうした宗教性/イスラーム性が明示的ではないモノの場合、現地の人々の認識の可変性に注意すべき点を指摘した。フロアからは人形の種類やその起源等についてコメントや質問が挙がった。
文責:山﨑暁(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科一貫制博士課程)
Thierry Zarcone
“Qadamgâh and Mausoleums Associated with Relics of Imam Alî ibn Abu Tâlib in the Indo-Turko-Persian Area”
本発表は、qadamgahと呼ばれる聖なる人物達の足跡を受けた場所に焦点を当てたものである。この聖廟はイラン・中央アジア・インド周辺地域のみに存在し、その起源は二つの潮流に区分される。まず預言者ムハンマドの足跡は、イスラームの出来事として重要な夜の旅とミウラージュの記憶と結びつき、トルコからインドまで至るモスクや廟で目撃される。他方、アリーの足跡は、アリーが礼拝しているという事実のみを信徒達に想起させ、特にトルコや中央アジアなどの軍事作戦で実際に赴いた場所で垣間見られる。またアリーの象徴は手や指や膝なども石として残り、聖遺物として崇敬されている。
文責:末野孝典(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科一貫制博士課程)
NINOMIYA Ayako
“Qadam-i Sharīf, Mecca and Delhi: Story of a Sufi and Footprints of the Prophet Muḥammad in Medieval India”
インドにおける預言者の足型として、トゥグルク朝スルタンのフィールーズ・シャーの王子の墓廟のうちに設けられたものが存在する。その治世にマッカにて学問を修めたジャラール・アル=ディーン・ブハーリーによってデリーに預言者の足型がもたらされたという伝説との関係が指摘されるが、ブハーリーの伝説はインドにある多くの足型と歴史的に関連づけられてきたものである。足型の多くがアラビア半島からもたらされたという言説によって、インドの王朝との紐帯として足型が作用していたことを指摘した。
文責:真殿琴子(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科一貫制博士課程)
Alexandre PAPAS
“Kashkûl: Practical Uses and Doctrinal Meanings of a Sufi Relic”
カシュクールとは、一般的にヤシの実でつくられ、スーフィーらが托鉢の際に用いる器を指す。その用法の一方でスーフィーであることの象徴となるカシュクールは、清貧や寛容の精神や船舶の隠喩的表現を表すものとして、時に詩を書き残すための媒体として用いられた。発表者は、これらのカシュクールの様々な用途や意義について、スーフィーらが実際に用いる様子や絵画や実物のコレクションの画像を提示することによって明らかにした。
文責:真殿琴子(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科一貫制博士課程)
TAKAHASHI Kei
“Sufism without Tariqa“: The Emergence of Muslim Third Places in the Contemporary American Muslim Community”
1990年代半ば以降のアメリカにおける「伝統イスラーム運動」に注目し、同国のムスリム・コミュニティとスーフィズムとの関係を考察した。発表者は事例としてTa’leef Collective と名乗る民間団体(2009年設立)を取り上げ、その活動に関する調査の結果を報告した。ここでは、開かれた社交の場であると同時に、伝統的イスラーム理解やスーフィー的要素を重視する同団体の特徴が、「サード・プレイス」概念を参照して説明された。フロアからは同概念や発表タイトル等について質問やコメントが寄せられた。
文責:山﨑暁(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科一貫制博士課程)
ISHIKAWA Kido
“The Mode of Expression of the Love in the works of Bābā Ṭāhir”
バーバー・ターヒルの詩とアッタールなどのペルシア詩人との比較から、その共通点と相違点を発表した。ターヒルの詩の中心的なテーマは愛であり、その表現方法はほかのペルシア詩人と類似していること、さらに相違点としては、他の詩人が愛を表現するため「説明」を交えるのに対し、ターヒルはそれを交えないことが指摘された。発表に対しては、他者を説得するためにアッタールが詩をつくったという他の研究者の解釈が興味深いといったコメントが寄せられた。
文責:山﨑暁(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科一貫制博士課程)
SUENO Takanori
“The Idea of Sufism by Ibrāhīm Niyās: From a Perspective as a Sharī‘a Oriented Sūfī”
20世紀を代表する西アフリカの偉大な思想家であるイブラーヒーム・ニヤースの諸著作の分析を基に、ニヤースのスーフィズム観の一端を解明した。彼の報告に依れば、ニヤースはスーフィズム(taṣawwuf)を十範疇に分類しており、特に北アフリカ出身のスーフィーであるアフマド・ザッルークの思想から強い影響を受けている。また、ニヤースはザッルークと同様に外面的な知識と内面的な知識の均整こそ最高位の真理を会得できる方法であると主張していたことが明らかになった。
文責:真殿琴子(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科一貫制博士課程)
January 22: 09:00-12:00
Part 3: Graduate Student Presentations 2
(09:00-09:30) YAMAZAKI Satoru (Ph.D. student, ASAFAS, Kyoto University)
“Syrian Civil War, Sectarianism, and the Turkish Arab ʿAlawīs’ Struggle for Recognition”
(09:30-10:00) Kamnoush KHOSROVANI (Ph.D. student, EPHE-CNRS GSRL)
“On the Path of an Exuberant Sufi Practice :An Anthropological Study of the Contemporary Female Qâdéri Groups in Tehran”
(10:00-10:10 Break)
Part 4: Holy Relics and Religious Commodities in Islam + Related Subjects 2
(10:10-10:45) FUTATSUYAMA Tatsuro (Research Associate of the NIHU/KIAS, Kyoto University)
“Qur’ānic Interior Ornaments in Ordinary Muslims’ Space: From the case of South Tunisia”
(10:45-11:20) YASUDA Shin (Teikyo University)
“Commodifying Religious Experiences: Islamic Tour Operators and Religious Markets in Indonesia”
(11:20-11:50) General Comments: Pierre-Jean LUIZARD, Alexandre PAPAS, and Thierry ZARCONE
(11:50-12:00) Closing Remarks: AKAHORI Masayuki (SIAS, Sophia University)
二日目の第一報告者は山﨑悟(京都大学アジア・アフリカ地域研究科)であった。彼は、近年のシリア情勢がトルコにおけるアラブ・アレヴィーのコミュニティーに与えた影響に関する”Syrian Civil War, Sectarianism, and the Turkish Arab Alawis’ Struggle for Recognition”と題する発表を行った。彼は、シリア内戦勃発後、トルコ政府やメディアがスンナ派の後ろ盾となってアレヴィーとの緊張関係を高めたこと、そして、アレヴィー側のコミュニティーも国家を超えたアラブ・アレヴィーとして自身を位置づけ認識するようになったことを指摘した。質疑応答では、トルコのアレヴィー・コミュニティーの歴史や、シリアのアレヴィーが内戦後フランスに逃れたことについての質問が行われた。
次に、Kamnoush KHOSROVANI(EPHE-CNRS GSRL)は、イランの二都市テヘランとSanandajにおけるスーフィーのズィクルについての報告(”On the Path of an Exuberant Sufi Practice: A Anthropological Study of the Contemporary Female Qaderi Groups in Tehran”)を行った。そこでは、人類学的な身体的実践の観点から、女性のシャイフがズィクルを主導する事例などが動画を通して詳細に示された。質疑応答では、イランにおけるズィクルの社会的制約についての質問が上がり、他地域と同じように、そうした実践が物議を醸しているとの回答がなされた。
第三報告者の二ツ山達郎(京都大学イスラーム地域研究センター客員准教授)は、“Quranic Interior Ornaments in Ordinary Muslims’ Space: From the case of South Tunisia”として、チュニジアのドゥーズにおけるイスラーム消費財に関する発表を行った。二ツ山は発表で、イスラーム消費財の大部分がカレンダーであることのみならず、カレンダーの使用後も壁に飾られる場合があること、クルアーンが書かれた部分のみ切り取り保存するという実践が行われる旨を説明した。質疑応答では、カレンダーがどのように廃棄されるのかなどの質問がなされた。
第四報告者として、安田慎(帝京大学教授)が、”Commodifying Religious Experiences: Islamic Tour Operates and Religious Markets in Indonesia”と題し、インドネシアにおけるハッジ・ウムラのためのツアーに関する発表を行った。そこでは、ustazと呼ばれるガイドのカリスマ性がツアーの人気と集客の鍵となり、さらに、近年のハッジ・ウムラツアーは、ツアーそのものの内容というより、むしろツアーに参加してustazと経験を共有し、また彼らとの関係を深めることが強調されると結論づけられた。質疑応答では、主にustazの意味や彼らの学歴に関する質問が行われた。
最後に、CNRSのPapas教授、Luizard教授、Zarconne教授の三人からそれぞれコメントが行われた。そこでは特に、今回のワークショップのタイトルの「holy relics」及び「religious commodity」の定義に関する疑問が提出され、また、それぞれの発表において比較研究が必要であるとの意見が出された。
文責:近藤文哉(上智大学大学院グローバルスタディーズ研究科・博士後期課程)
Organizers:
Thierry ZARCONE, TONAGA Yasushi, MISAWA Nobuo (Faculty of Social Sciences, Toyo University), AKAHORI Masayuki
Sponsoring Institutes and Research Projects:
École Pratique des Hautes Études-Centre National de la Recherche Scientifique Groupe Sociétés, Religions, Laïcités
KIAS (Center for Islamic Area Studies, Graduate School of Asian and African Studies)
SIAS (Center for Islamic Studies, Sophia University)
NIHU Area Studies Project for the Modern Middle East
Kenan Rifai Center for Sufi Studies, Kyoto University
Structural Comprehension of Islamic Mysticism: Investigation into Sufism–Tariqa–Saint Cults Complex (Grant-in-Aid for Scientific Research (A), JSPS)
Anthropological Studies on Veneration of Saints and Relics in the Mediterranean World (Grant-in-Aid for Scientific Research (B), JSPS)
Comparative Area Studies on Conflicts, Interactions, and Reconciliations between Islam and Other Religions Including Christianity (Sophia University Special Grant for Academic Research (Research in Priority Areas))
Abbreviation:
NIHU=National Institute of Humanities
ASAFAS=Graduate School of Asian and African Area Studies, Kyoto University
SGPAS=Sophia Graduate Program for Area Studies, Graduate School of Global Studies, Sophia University