<人類学歴史学班>スーフィズム・聖者信仰研究会 研究合宿(2017年11月11日(土)~12日(日) KKR伊豆長岡千歳荘)
2017年度報告
【日程】11月11日(土)13時半~12日(日)12時
【場所】KKR伊豆長岡千歳荘(伊豆長岡保養所)
【プログラム】
・研究発表①:澤井真(日本学術振興会/京都大学)「イスラームの近代化と改革思想ームハンマド・アブドゥフのスーフィー観を中心にー」
・研究発表②:高橋圭(日本学術振興会/上智大学)「現代アメリカのスーフィズムとムスリム・コミュニティ―「伝統イスラーム」運動の隆盛とその背景」(仮)
・イタリア共同調査報告:小牧幸代(高崎経済大学)
・文献発表①:高尾賢一郎(日本学術振興会/東京外国語大学AA研)“The Formation of Schools of Mysticism,” J. S. Trimingham, The Sufi Orders in Islam, Oxford: Oxford University Press, 1971.
・文献発表②:藤井千晶(京都大学)“The Chief Tariqa Lines,” J. S. Trimingham, The Sufi Orders in Islam, Oxford: Oxford University Press, 1971.
澤井真氏の発表は、ムハンマド・アブドゥのスーフィズム理解を、特にイブン・アラビーの存在一性論に注目をしながら考察するものであった。アブドゥは一般に近代合理主義的な立場からスーフィズム批判を展開した改革思想家として知られているが、澤井氏は、彼の批判があくまでも自らの推進する改革に適合しないとみなしたスーフィーたちの行為に向けられたものであり、存在一性論を始めとするスーフィズムの思想には否定的ではなかったことを論じた。質疑応答では、スーフィズム関連のタームの訳出に当たって澤井氏が用いた用語や概念の妥当性に関する質問、また弟子のラシード・リダーとの思想的な立場の違いなどについて質問やコメントがなされた。
高橋圭の発表は、近年北米で盛り上がりを見せる、スンナ派の古典的な解釈への回帰を説くスーフィズム運動に注目し、この運動の概要を説明したうえで、これが具体的にどのような形で展開しているのか、高橋がフィールド調査を実施したサンフランシスコ・ベイエリアの事例から考察した。高橋が仮に「伝統イスラーム運動」と名付けたこの新しいスーフィー運動は、基本的には極めて保守的なイスラーム解釈を提示する一方で、組織面に革新性が見られ、これが多様性に富む北米のムスリム社会でこの運動が広く受け入れられる大きな要因なっていると論じた。質疑応答では、この運動で説かれるアメリカ「ローカルの」イスラームの構築というテーマについて、その具体的な実現のあり方やナショナリズムとの関係などについて質問やコメントがなされた。
小牧幸代氏からは、8月に実施されたイタリアでの共同調査についての報告があった。現地で訪問した教会やそこに保管されている聖遺物の写真が提示され、会場からは様々な質問やコメントがなされた。
文献発表はトリミンガムJ. S. Triminghamの著したタリーカ研究の古典であるSufi Orders in Islam (Oxford: Oxford University Press, 1971)から、第1章と第2章をそれぞれ高尾賢一郎氏と藤井千晶氏が担当した。トリミンガムの提示したタリーカの分類や分析の枠組み、あるいは事例などが今日までの研究の進展を踏まえて改めて検討され、そこで見直されるべき点と再評価される点について議論がなされた。
文責:高橋圭(日本学術振興会特別研究員RPD/上智大学)