<人類学歴史学班>スーフィズム・聖者信仰研究会
2017年度報告
【日時】2017年7月23日12:30~18:15
【場所】京都大学吉田キャンパス総合研究2号館4階会議室(AA447)
【プログラム】
研究発表① 石川喜堂「アッタール『鳥の言葉』における詩的言語の解明―文学理論を枠組みとして用いて―」
研究発表② 池邉智基「労働の教義と実践―セネガル・ムリッド教団の共同体バイファル―」
石川氏の発表は、ニーシャーブールの詩人アッタールのペルシア詩作品の考察であった。彼の作品はスーフィズムの影響を受けたものとされるが、発表者によれば、それ故にスーフィズム思想の側面でしか研究されてこなかったきらいがある。これを受けて発表者は、文学理論を用いて同作品の表現方法を分析することを試みた。方法としては、『鳥の言葉』をはじめとした主要作品に登場する「血」(khūn)の表現を抽出し、これがスーフィズムの文脈に限らない重層的な意味で用いられている点を説明した。コメンテーターの小島基洋氏(京都大学)からは、文学研究では表現用法の分類が一般的ではないとの指摘があったが、同研究とスーフィズム思想研究を架橋する意欲的な試みについて期待する旨述べられた。質疑応答では、宮廷文化とは無縁だったアッタールの人物像や、「血」に関するスーフィズム固有の文脈とはそもそもどのようなものかを掘り下げる必要性が指摘された。
池邉氏の発表は、「労働」を鍵としたセネガルのムリッド教団の生活実態の考察であった。まず発表者は同教団が「労働」(ligéey)を来世での救済を約束する行為と捉え、教団員が各地に点在する「センリ」(導師)から指示を受け、「ダーラ」と呼ばれる拠点を開いているといった基本情報を整理し、その上で「バイファル」(Baye Fall)と呼ばれる人々に焦点を当てた。バイファルはセンリへの労働を礼拝や断食に優先する人々で、先行研究や教団内で「異端」や「俗」なる存在とも捉えられるが、発表者は托鉢をはじめとした労働が彼らにとって修行・信徒間の相互扶助・賃金労働といった多義的なものである点を説明した。コメンテーターの赤堀雅幸氏(上智大学)からは、労働における聖俗の区別という切り口が現地で共有されているかの考察、またバイファルでない教団員との比較を進める必要性が指摘された。質疑応答では、女性バイファルのあり方や、他の教団との関係について質問がなされた。
文責:高尾賢一郎(日本学術振興会特別研究員PD/東京外国語大学AA研)