調査・研究

<社会経済学班・政治社会学班>第2回合同研究会

2017年度報告

【日時】2017年7月14日(金)17:00-19:00
【場所】上智大学四ツ谷キャンパス 2号館207a室
【プログラム】
稲葉奈々子(上智大学) 「社会運動の社会学―フランスの移民の若者の集合行為を題材として街頭デモから暴動への変遷を検討する」

 報告者は、主にフランスをフィールドに移民研究と都市の底辺層研究を行なっている。今回の研究会の目的は、社会学における「都市暴動」を分析し、公共圏の理論的枠組みを勉強することであった。
  まず、二つの代表的な社会運動論が紹介された。一つ目は、西ヨーロッパ発の「新しい社会運動論」であり、運動のwhyとwhoを課題とするものである。もう一つは、アメリカ経由の「資源動員論」であり、運動のhowとwhenを説明するものである。本報告では「新しい社会運動論」の観点からフランスのマグリブ移民の社会運動を説明した。産業社会における既存の社会運動論では、労働運動に焦点を当て、資本家と労働者の間の上下の社会関係から労働者の原理を守り、富を再分配することにその目的があった。一方、脱産業社会における新しい社会運動論では、国家や企業による生活世界への介入に抵抗し、国家に対して意義を申し立てることを基本目的としている。しかし、フランスにおいては新しい社会運動は目撃されず、その理由として、依然として存在する格差と貧困をあげることができる。
 「ガレール」という言葉で表現される移民の人たちは、「失業」という形で社会的に排除されている。ただ、メリトクラシーの強いフランスにおいては、表面的に機会の平等が与えられており、若者たちは排除の責任を国家や社会に問うことができない。なお、産業社会の資本家階級から搾取を受けているわけでもなく、自分の失業は学歴による自己責任であるため、怒りの矢先をどこに向ければいいかがわからない。そのため、グラスルーツの社会運動は生起されず、「暴動」という形で社会問題を表出しているのである。
 その上、社会運動論においては自分たちの社会問題を言語化し、意義申し立てができる「近代的」かつ「合理的」な行為者を研究対象としているため、彼らの暴動は社会運動として研究されないという限界もある。また、社会運動としては認識されないものの「ラップ」文化も抵抗の拠点として存在し、こういった市民社会の裏舞台を土壌に載せる装置がないことを指摘した。なお、宗教やエスニシティの問題も議論からは除外されることが多く、市民社会として認識される「公共圏」の範囲は、西欧的考え方に限定されることを指摘しながら報告を終えた。
 報告後には活発な議論が交わされた。既存の中東研究では資源動員論的考察が主流であり、中東社会ではwhyとhowが密接に関係しているとコメントされた。また、それぞれの用語に関してや行為の主体者に関する質問、フランスの社会制度と平等性に関しての議論も行われた。そしてマグリブ移民の集団行為はローカルな領域を中心として展開されるという説明か付け加えられ、今回の研究会は終了した。


文責:金 信遇(上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士後期課程)

調査・研究

  • 上智大学・早稲田大学共同研究 アジア・アフリカにおける諸宗教の関係の歴史と現状
  • 上智大学 イスラーム地域研究(2015)
  • 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構
  • 国立民族学博物館現代中東地域研究拠点
  • 東京外国語大学拠点
  • 京都大学拠点
  • 秋田大学拠点
  • 早稲田大学 イスラーム地域研究機構
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