<社会経済学班・政治社会学班>第1回合同研究会
2017年度報告
【日時】2017年6月23日(月) 14時00分 ~17時00分
【場所】上智大学四ツ谷キャンパス2号館615a室
今回の研究会においては、吉年誠氏および高尾賢一郎氏の2名による発表が行われた。両氏の報告内容については以下のとおりである。
「『貧困地区』の形成と排除 テルアビブ—ヤッフォの事例から」と題した吉年氏の報告では、イスラエルのテルアビブにある「貧困地区」を通して、都市部でのユダヤ人居住区の拡大といういわゆる「ユダヤ化」の実態と、これに付随する問題を検討した。報告では事例として4つの地区を取り上げ、「貧困地区」をめぐる問題として主に以下の項目について扱った。すなわち、形成の歴史、法的地位、開発政策、そして居住者による住民運動である。報告では、土地を管理するイスラエル土地機構(以下、ILA)の政策や「不在者財産」の問題、さらには住民運動の動態などが指摘された。質疑応答では、政府との土地の貸借関係とそれに伴う国際法上の問題、ILAの具体的な影響、貧困地区とエスニシティや入植政策との関係、土地の管理者に関する質問などが出され、議論が交わされた。
次いで高尾氏の報告「現代ムスリム社会のおける風紀取り締まり:ヒスバの実践を例に」では、サウジアラビア、イスラーム国(以下ISIL)、インドネシアにおけるヒスバの事例が示された。ヒスバとは善を積み悪行を防いで来世で神からの報酬を見込むことであり、その思想的基礎は勧善懲悪にある。サウジアラビアはヒスバを制度化し実践する唯一の国である。それを担う勧善懲悪委員会は社会から一定の支持を受けると同時に、「近代化」の敵として批判をあえて受けるものでもある。ISILでヒスバを担う機関はヒスバ庁である。この存在によって手っ取り早く教えを実践でき、統治を容易にするものとして機能する。インドネシアで事例に上げられたのはアチェ州のヒスバ警察であるが、自尊心を得るためという側面が強いという指摘がされた。参加者からは、ヒスバを担う機関で働く人の参加目的に加え、サウジアラビアに注目が集まり、宗教と政治の関係や勧善懲悪委員会を維持する意味などの質問がなされた。
文責:臼杵悠(一橋大学大学院経済学研究科 博士後期課程)