<政治社会学班>第2回「公共圏」研究会
2016年度報告
【日時】2017年1月27日(金)13時30分~17時10分
【場所】上智大学四ツ谷キャンパス2号館603教室
八木久美子(東京外国語大学)「公的空間に投じられるファトゥワー」
八木氏の報告では、エジプトを事例に、20世紀以降のファトゥワーの公開の過程と、公開されたファトゥワーの周辺に成立する公共圏の特徴が論じられた。ファトゥワーは本来、イスラム法の専門家が特定の個人に与えるパーソナルな助言であったが、①国家の近代化、②イスラム復興、③グローバル化を背景として、ファトゥワー集が出版されインターネット上で検索が可能になると、不特定多数の人に公開された、より一般的な(質問と質問者のコンテクストが消去された)助言という性格を獲得した。無数の相矛盾するファトゥワーがあふれる結果となったが、一般信徒の議論と態度の決定を通じて、ファトゥワーの淘汰が引き起こされた。八木氏はこれを、何を公共善か方向づける場すなわち公共圏の成立ととらえた。質疑応答では近代国家によるファトゥワーへの介入、ファトゥワー公開と識字率上昇、ファトゥワーの出し手の多様化と権威の所在などについて質問が寄せられた。
石川真作(東北学院大学)「トランスナショナルな公共空間に創出される「想像の信仰共同体―ドイツにおけるアレヴィーの組織化」
石川氏の報告では、ドイツにおけるトルコ出身のアレヴィー派移民の組織化の検討を通じて、トランスナショナルな公共空間におけるアレヴィー派による信仰共同体の想像(創造)が論じられた。アレヴィー団体による、アレヴィーであるとは何か、を再構築する営みにおいては、移民の統合をめざすドイツと、アレヴィー派差別の歴史をもつトルコにたいしてそれぞれ戦略的に位置取りし、運動体としてのアレヴィーの強化が目指される一方、デデ(世襲の指導者)の伝統的権威と内的社会関係の維持を志向するメンバーによる対抗という機序も含まれている。石川氏はそのようなアレヴィー団体のあり方を、自らの声を紡ぐ対抗的公共圏として把握した。質疑ではクルド系移民団体との類似性、アレヴィー性をイスラムではなく文化とする解釈の含意、ドイツとトルコ両国のアレヴィー派団体の関係などについて質問が寄せられた。
文責:村上薫(日本貿易振興機構アジア経済研究所地域研究センター 研究員)