ヨルダン出張報告(2017年2月22日~2月28日)
2016年度報告
期間:2017年2月22日~2月28日
国名:ヨルダン
出張者:北澤義之(京都産業大学)
ヨルダンは、わずかにアカバ湾を除いては海への出口のない内陸国に近い王国で、特に天然資源に恵まれているわけではない。その一方、イスラエル/パレスチナ、シリア、イラク、サウジアラビアなどに囲まれ地政学的に重要な位置にある。そのため、これまでパレスチナ難民をはじめ、イラクやシリアからの難民が流入するなど常に周囲の政治状況の影響を受けやすい環境下にあった。現在の中東の混乱の根本的な背景としては、上からの国民統合が限界に達する一方、他方で下からの市民(ないしは住民間の新たな協力関係)の形成が追い付かないことが秩序の崩壊につながったのではないかという観点がある。そこで中東の民主主義研究を発展させる点からも重要な公共圏の問題を調査することが主な目的だった。他の研究で交流のあるヨルダン統計局の専門職員、ヨルダン大学教員、ヨルダンの知識人とヨルダンの政治の現状、ヨルダン社会における公共圏研究の可能性をめぐる議論を行った。なかでも諸部族が運営する「ディーワーン」の社会的機能(主に社会的福利)やその規模などに関する情報取得、また並行して重要性が増している諸協会(「ジャマイーヤ」)の拡大について調査した。首都アンマンを含むヨルダン北部においては、ディーワーンの社会的調整機能や影響力は低下傾向にある。しかし、一部の識者の見解では、マアン、カラク、タフィーラなどの中・南部の地方社会においてはディーワーンの活動はむしろ活発化しており、マアンにおいてはその数が増え、福利活動だけではなく直接的な(主にイスラーム)政治活動の場となっている。この傾向は1980年代末から続いているとの情報が得られた。またこのディーワーンとジャマイーヤの管轄省庁との関係に関してはやや情報が錯綜しているあることが分かったので、その役割を再確認し、南部における今後の調査の重要性とその実施可能性についても慎重に計画を練る必要があるものと思われる。
ヨルダン北西部のディーワーン(シュカイラート一族)
ヨルダン北西部のディーワーン(リファイ一族)の内部にあった歴代国王を称える絵画