<社会経済学班>第2回「公共圏」研究会(2016年12月19日 上智大学)
2016年度報告
【日時】2016年12月19日(月) 14時00分 ~17時00分
【場所】上智大学四ツ谷キャンパス2号館6階615a教室
児玉由佳氏(日本貿易振興機構アジア経済研究所地域研究センター研究員)と佐藤寛氏(日本貿易振興機構アジア経済研究所新領域研究センター上席主任調査研究員)の2名が報告を行った。
「アフリカ農村社会において公共圏を議論する場合の課題と問題点―『現代アフリカ農村と公共圏』(2009年)を元に」と題した児玉氏の報告では、アジア経済研究所から2009年に出版された『現代アフリカ農村と公共圏』を手掛かりに、アフリカ農村社会において公共圏を議論した際に直面した課題が報告された。まず、発表の前半では、上記書籍の問題意識と構成、そして目的が述べられた。そこでは、アフリカの農村社会を分析する際に用いられてきた「市民」・「市民社会」概念の問題点から、その後「公共圏」概念が用いられるようになった過程を踏まえ、公共圏に関する規範と実態に関する議論を整理し、それぞれの問題点が検討された。上記書籍は、アフリカの「公共圏」が規範にのっとった存在なのかという問いではなく、実態として「人々が集まって意見を形成する場」としての公共圏の機能を分析することを目的として執筆されている。しかし、その後の査読審査において、人々の活動が「公共圏」であるということ、そしてその活動がどう機能したかについて「実証」することが求められるという問題に直面したことが報告された。こうした過去の研究を踏まえた上で、本研究グループで「公共圏」を巡る研究を進めていくのであれば、公共圏概念を使用する必要性を再考することが重要と主張された。また、こうした作業を行うことにより、アフリカ社会への理解を深めることが可能となり、また欧米規範を逆照射することで異議申し立てが可能となるのではないかという提案がなされた。
次いで、佐藤寛氏によって「イエメンの公共圏―市(スーク)、街区(ハーラ)、広場(ミーダーン)を手掛かりに」という題目で発表が行われた。佐藤氏は、イエメンの公共圏を理解するため、イエメンの3つの空間概念である①市・市場(スーク)、②街区(ハーラ)、③広場(ミーダーン)を整理し、比較を行った。まず、最も小さな公共圏と考えられるハーラは排他性を有しており、住民にとってのみの公共圏とされる。次いで、「ヒジュラ(不可侵性)」を有するスークは、その地域を支配する部族によって守られる「ヒジュラ」の空間ではあるものの、市の立たない日はヒジュラではなく、これが公共圏であるのか、今後検討する必要があるとされた。最後にミーダーンだが、ここでは街頭デモが行われる空間としてアラブの春の事例が挙げられた。そして、ミーダーンを公共圏とするならば、これはデモに参加した人だけでなく、全ての人々にとっての公共圏であったとの分析がされた。こうしたイエメンの空間概念の検討に対して、質疑応答では、参加者がそれぞれ専門とする地域や国との比較が行われるなど、活発な議論が行われた。
文責:白谷望(上智大学グローバル・スタディーズ研究科 特別研究員)