<人類学・歴史学班>スーフィズム・聖者信仰研究会 研究合宿
2016年度報告
【日時】2016年12月17日~18日
【場所】東洋大学 熱海研修センター
近藤文哉(上智大学)「エジプトのマウリドにおける砂糖菓子人形の研究とその課題」
近藤文哉氏は、マウリド研究においてとられていた従来のアプローチを批判しつつ、フェアとフェスティバルという分類を設ける。そして、この分類にもとづいて、顕現してくる新たな側面、すなわち、マウリドにおける商業的な側面に着目するというアプローチ方法を取る。その一例として、氏は砂糖菓子人形を取り上げる。質疑応答では、フェアとフェスティバルの分類について特に多くの質問がなされ、その分類についての詳しい解説が氏によってなされた。
松田和憲(京都大学)「19世紀南アジアのスンナ派における分裂と改革―シャー・ムハンマド・イスマーイールの聖者崇敬批判とその影響」
松田和憲氏は、シャー・ムハンマド・イスマーイールおよび19世紀南アジアにおいて活躍した人物を取り上げ、彼らの聖者崇敬に対する見方を記述した。質疑応答では、氏のアプローチ方法が共時的なものか通時的なものかという質問が多く出た。これに対して、氏はアプローチ方法に関してはこれから検討していくと回答した。
丸山大介(防衛大学校)The Cambridge Companion to Sufism 第4章Morality in Early Sufi Literature
丸山大介氏は、上記の文献の文献発表を行った。氏はこの文献のレジュメをつくり、人物
ごとに項目をまとめた。そして、この文献における粗を指摘した。それは、道徳に関して述べた初期イスラームのスーフィ―たちの選ばれ方が恣意的であるということである。質疑応答でも、その粗が指摘された。
新井和広(慶應義塾大学)ボスニアとサラエボの調査報告
新井和広氏は、グループ調査で行ったボスニアとサラエボの報告発表をPower Pointを使いながらおこなった。この発表において、現地の研究者であるアフメド氏や実際のスーフィズムの修行の様子、修道院等の紹介が写真やビデオを交えながらおこなわれた。これらの視覚資料が示すように、この調査はイスラームのスーフィズムだけには留まらず、現地におけるキリスト教の聖者信仰の様子を紹介するなど多角的な側面からおこなわれたものであった。また、会場からは建築物におけるオスマン朝の影響が指摘された。
安田慎(帝京大学)『イスラミック・ツーリズムの勃興―宗教の観光資源化』
上記の著作について、著者である氏により概要が発表された。その後、赤堀雅幸(上智大学)氏と新井和広(慶応義塾大学)氏による書評が添えられた。全体として、発表において議論の中心になったのは、安田氏の理論枠組みの構築方法についてであった。すなわち、観光学の方法を用いて枠組みを構築するか、観光人類学の方法を用いて枠組みを構築するかということについて議論が行われた。これは分析において、実証的な方法を用いるか心理的な方法を用いるかという問題でもあった。
井上貴恵(東京大学)The Cambridge Companion to Sufism 第7章Morality in Early Sufi Literature
井上貴恵氏は、上記の文献の文献発表を行った。氏はこの文献のレジュメをつくり、粗を指摘しつつ、改めてラービアからイブン・アラビーまでのスーフィズムの愛の系譜を、図表を用いながらまとめた。質疑応答では、発表に基づき、イスラームにおける2つの愛とエロティックという概念について議論が行われた。
文責:石川喜堂(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科一貫制博士課程)