調査・研究

<人類学・歴史学>第2回研究会(2016年10月2日上智大学)

2016年度報告

【日時】:2016年10月2日14:00~17:00
【場所】:上智大学四谷キャンパス第2号館6階2-615a会議室

概要:
東長靖(京都大学)「スーフィズムの三極構造論―スーフィズムの立場から―」
 東長氏はこれまで神秘主義・倫理・民間信仰の三極からなるスーフィズムの三極構造論を提示してきた。今回の発表ではスーフィズムにおける善悪に焦点を当て、仏教の浄土思想における善悪の比較を交えながら、スーフィズムの三極構造論の神秘主義・倫理の側面の説明を試みている。スーフィズムにおいては、個人における善・悪を指向する心に重きが置かれ、神の命じた善を指向する心の放棄を目指した。そして善を偽善ではないかと疑うことから善悪そのものの相対化や超克がなされたが、それらが行き過ぎた場合には非難の対象となった。浄土思想との比較では、浄土思想は全体的に善悪を相対化するのに対し、スーフィズムにおける倫理は善を指向し、神秘主義は偽善を疑うといった違いが示された。質疑応答では、スーフィズムとしばしば比較される禅ではなく、あえて浄土思想を比較対象としたのはなぜかといった質問が寄せられた。

赤堀雅幸(上智大学)「スーフィズム・聖者崇敬複合とスーフィズム三極複合論の民衆信仰軸」
 赤堀氏の発表では、スーフィズムと聖者崇敬は神と人の関係性においてどのような違いがあるのか、神道との比較を交えながら考察を行った。まず神道における多種多様な神と人との関係の方向性と関係の様態について、方向性と支配、同化、贈与の3様態から6種の関係を想定した。これらをもとに関係の方向性と関係の様態をスーフィズムと聖者崇敬に当てはめて考察した。スーフィズムの基本構造は人が師匠(ムルシド)を経て神へと至る、人が神と同化する関係にある。しかし聖者崇敬の基本構造はバラカという通貨が、神から聖者を経て人へと至る、神が人に贈与する関係にある。このように両者は関係の方向付けと関係の様態の2点で異なることを示した。質疑応答では、スーフィズムと聖者崇敬がたまたま結合してしまうという「複合」という概念に関して話し合われた。また神道における神をどのように扱うかという問題が提起された。

丸山大介(防衛大学校)「「スーフィズムの三極構造」再考-スーダンの事例から-」
 丸山氏の発表では、現代スーダンの事例から、タリーカが主張するスーフィズムが神・人・社会をどのように結びつけているのか、またタリーカが主張する「あるべきスーフィズム」像と実際の現状との比較・考察を行った。最初に倫理・集団実践・神秘主義の3側面を、スーダンのカーディリー教団の実践を例に当てはめた。特に倫理的側面では異質な他者をも受け入れる寛容な姿勢、他者との相互扶助・相互尊重を重視している。これらは「あるべきスーフィズム」像として掲げられている一方で、実際に2012年にスーダンで起きたサラフィー主義者との衝突では、排他的なサラフィー主義者をイスラームとスーダンの敵として排除する事態になり、自ら掲げる寛容な姿勢と矛盾する事態に陥っている。このようにタリーカがイスラームのもとでの一体性を強調する一方で、サラフィー主義者に対して排他的な態度をとることは、自らの「あるべきスーフィズム」像とは対極にあるサラフィー主義者の排他的な論理を踏襲するにほかならないと丸山氏は指摘する。


文責:松田和憲(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科一貫制博士課程)

調査・研究

  • 上智大学・早稲田大学共同研究 アジア・アフリカにおける諸宗教の関係の歴史と現状
  • 上智大学 イスラーム地域研究(2015)
  • 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構
  • 国立民族学博物館現代中東地域研究拠点
  • 東京外国語大学拠点
  • 京都大学拠点
  • 秋田大学拠点
  • 早稲田大学 イスラーム地域研究機構
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