成果公開

講演

上智大学イスラーム研究センター・京都大学イスラーム地域研究センター主催連続講演会
今日のスーフィズム:神秘主義の諸相を知る
(Sophia Open Research Weeks 2021企画)

第3回 12月3日(金)~12月13日(月) 丸山大介(防衛大学校人文社会科学群准教授)「寛容と排他に揺れるスーフィズム:スーダンに見る政治との距離感」 質問と回答

Q01: スーフィーとサラフィー主義者の対抗関係を興味深く聞きました。スーダンのムスリムは皆、どちらかに与するのでしょうか。中立の立場やどちらとも関係しないといったひとたちもいるのでしょうか。

A: ご質問、ありがとうございます。
 スーダンのムスリムが皆どちらかに与しているというわけではございません。ムスリムの中には、タリーカ(スーフィー教団)に所属している方、タリーカには所属していないがスーフィズムに関心を持っている方(たとえば、ズィクルなどの儀礼や宗教講話にはしばしば参加する方)、スーフィズムにまったく関心を示さない方など、多種多様な方がいらっしゃいます(それは、サラフィー主義についても同様です)。また、思想的背景と致しましても、スーフィズムとサラフィー主義者に限らず、講演でも言及したイスラーム主義寄りの考えを持つムスリムもおります。
 一方、スーフィーとサラフィー主義者の対立自体につきましては、ご指摘の通り、中立の立場を取る方もいらっしゃれば、対立そのものに無関心な方や、対立を否定的に見る方もいらっしゃいます。当時の新聞報道を見ますと、スーフィーとサラフィー主義者の対立は外部(たとえば、イスラエルのモサド)による陰謀だなどという記事もございました。真偽はともかく、暴力が顕在化した直後は特に、さまざまな言説が飛び交っておりました。
 対立の一端を担う形となったスーフィーやサラフィー主義者の中からも、今回取り上げたような暴力も辞さない言動には批判的な声が聞かれます。スーフィーとサラフィー主義者の対抗関係を巡っては、ムスリムの勢力が大きく二分されているよりも、当事者・非当事者含めて、さまざまな立場や考え方があるという現状かと存じます。 [回答者:講演担当者、丸山大介]


Q02: 寛容なはずのスーフィーが、サラフィーの人たちには寛容でいられないというのは興味深かったです。しかし、多文化主義に味方する人たちがヘイトする人たちを許容できないのとはどう違うのか疑問に思いました。あるいはキリスト教の「右の頬を打たれたら左の頬を差し出す」というようなのがスーフィーの教えなのでしょうか。素人の質問ですが、よろしくお願いします。

A: ご質問、ありがとうございます。
 「スーフィズムが寛容だ」という言説は、基本的にサラフィー主義などの対立を念頭に置いた発言だと考えられます。例えば、教団シャイフ(師)に対して行ったインタビューでは、スーフィズムについて、教団の活動を通じた道徳心の向上(とりわけ、謙虚さや他者への敬意)、ムスリム間の相互扶助や相互尊重などが説かれます。また、マウリド(預言者生誕祭)では多くのタリーカがスーフィズムに関する展示を行いますが、その内容を見てみますと、精神の浄化、道徳、謙虚、規律のようなキーワードがスーフィズムと関連付けられて用いられていました。
 インタビューや展示の中に寛容という表現が出てこないわけではありませんが、寛容という単語はやはりサラフィー主義者の話題が出たときに多用される傾向にあると感じます。つまり、「排他的なサラフィー主義者に対して、私たちスーフィズムは寛容である」といった彼我を対比する文脈です。寛容という言葉を使っているとは言え、実際にはサラフィー主義に対して排他的な立場を取っておりますので、多種多様な考え方を無条件で歓迎しているわけでも、自らと対立する主義主張ですら尊重すると言っているわけでもございません。その意味では、あらゆる立場を受け入れるという意味合いでの寛容ではなく、サラフィー主義と比べて寛容だという条件付きの用法だと言えます。[回答者:講演担当者、丸山大介]


Q03: 今度のクーデタを実行した側はイスラーム的にはどういう立場の人たちなのでしょうか。サラフィー主義とくくってよいのでしょうか。

A: ご質問、ありがとうございます。
 ご質問ありがとうございました。今回のクーデタの実行者をイスラームに対する立場で一般化することは困難な気が致します。民主化を好ましく思わない(あるいは、民主化してほしくない)人々(特に、軍)がクーデタの中心になっているようですが、彼らがイスラーム的にどのような立場であるかは判然としません。
 移行政府は、バシール前政権の後ろ楯であった国民会議党を解散させたり、イスラーム主義的な政策を撤廃したりするなど、イスラーム主義色の払拭に努めてきました。しかし、バシール政権と軍の関係は緊密であり、軍内部におけるイスラーム主義の政治的影響力が払拭されたとは言い切れません。
 一方、今回のクーデタで主導的な立場を担っている軍トップのブルハーン統治評議会議長は、UAEやサウディアラビア、エジプトと密接な関係を築いております。こうした国々はイスラーム主義に反対の立場ですので、軍としてイスラーム主義を標榜することはないでしょう。ただし、クーデタ後に軍がバシール前政権時代の政府高官を任用したという報道もあり、政治的な後ろ楯のない軍勢力が旧政権の関係者や支持者(イスラーム主義者を含む)を頼るといったことは充分に考えられます。
 現時点で断定こそできませんが、今回のクーデタに関しましては、イスラーム的に何か一貫した立場に基づくというよりも、民政移管への反発や軍の権力保持という目的が強いかと存じます。 [回答者:講演担当者、丸山大介]


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  • ジャウィ文書研究会アーカイブ
  • 上智大学・早稲田大学共同研究 アジア・アフリカにおける諸宗教の関係の歴史と現状
  • 上智大学 イスラーム地域研究(2015)
  • 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構
  • 国立民族学博物館現代中東地域研究拠点
  • 東京外国語大学拠点
  • 京都大学拠点
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  • 早稲田大学 イスラーム地域研究機構
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