講演
上智大学イスラーム研究センター・京都大学イスラーム地域研究センター主催連続講演会
今日のスーフィズム:神秘主義の諸相を知る
(Sophia Open Research Weeks 2021企画)
第2回 11月26日(金)~11月6日(月) 藤井千晶(日本学術振興会特別研究員-RPD)「社会に息づくスーフィズム:東アフリカ沿岸部の事例から」 質問と回答
Q01: 東アフリカのイスラームの様子というのを初めて知りました。ビデオなども興味深かったです。スワヒリ語を話しているとのことでしたが、ズィクリはスワヒリ語でやるのでしょうか。それともやはりアラビア語でなくてはならないのでしょうか。
A: ご質問ありがとうございます。
ズィクリはアラビア語で唱えられます。ズィクリでは、
神を意味するアラビア語の「アッラー」や「アッラーは偉大なり」といった、
短いフレーズがり返し唱えられるので、アラビア語を母語としていなくても
それほど難しくありません。
補足になりますが、講演の中で触れた「マウリディ」は、
基本的にスワヒリ語で朗誦されます。
[回答者:講演担当者、藤井千晶]
Q02 : 女性が参加するズィクルの様子を興味深く拝見しました。以前にカイロのスーフィーの話で女性は原則参加できないというふうに別の先生に伺ったのですが、ザンジバルでは女性が参加できる集会があり、女性のスーフィー指導者も普通にいるのでしょうか。エジプトなどに比べて女性の宗教参加に寛容なのでしょうか。
A: ご質問ありがとうございました。
そうですね、他地域のスーフィー教団の話を聞くと、
女性は裏方の仕事を担うことはあっても(食事の準備など)、
ズィクリ修行(ズィクル)には参加しないことが多いようです。
それに対してザンジバルでは、女性指導者が存在し(多くの場合は指導者の妻)、
ズィクリ修行を行います。
ザンジバルでは、1930年半ばにはスーフィー教団初の女性指導者が誕生しており、
現在も女性教団員がズィクリ修行を行うことは、ごく普通にみられます。
そのため、ザンジバル(さらには東アフリカ沿岸部)のスーフィー教団は
女性の宗教参加に寛容ともいえますし、おそらく男女共に教団員たちは、
「女性だからズィクリ修行に参加してはいけない」という考え自体を持ってい
ないと思います。
女性が表立って宗教実践に参加する点は、東アフリカ沿岸部のスーフィー教団の
大きな特徴だといえます。[回答者:講演担当者、藤井千晶]
Q03 : ザンジバル独自の教団がいくつもあるのがおもしろかったです。それらの教団が他の地域に広まったりすることもあるのでしょうか。あと、憑霊の儀式が非難の対象になるというのは、イスラームでは憑霊は間違った考え方とされているのでしょうか。
A: ご質問ありがとうございます。
ザンジバルで誕生した教団の他地域への広がりについて、
タンザニア沿岸部に拠点を持つ教団もありますが、
国外まで広がる教団はありません。
精霊憑依儀礼について、イスラームでは一概に間違った考え方であるとはいえません。
というのは、クルアーンにも「ジン」と呼ばれる精霊についての記載がありますし、
ハディース(預言者ムハンマドの言行録)にもジンの特徴についての言及があります。
また、精霊憑依儀礼はイスラーム世界では広くみらます。
ただ、近年増加し始めたイスラーム主義を掲げる人々(クルアーンとハディースに
忠実であるべきだと考える人々)は、憑依儀礼を非イスラーム的慣行であるとして批判します。
なぜなら、憑依儀礼そのものや儀礼の中で歌われる歌、スーフィー教団のズィクリ修行(ズィクル)等について、
クルアーンやハディースには記されていないためです。
それに対して、憑依儀礼を行うイスラーム教徒は、「苦しんでいる人を助けるためにすることは、
イスラームの教えに反しない」、「クルアーンとハディースだけではなく、先人から受け継いだ
幅広い知識を用いて儀礼を行う必要がある」などと主張します。
何をもってイスラーム的か、非イスラーム的かを判断するのは、
その人の立場によって異なるといえるでしょう。[回答者:講演担当者、藤井千晶]