講演
上智大学研究機構イスラーム研究センター主催シンポジウム「中東イスラーム世界における都市空間」(Sophia Open Research Weeks 2017連携)
【日時】2017年11月23日(木)17時00分〜19時30分
【場所】上智大学四ツ谷キャンパス6号館3階6-301
2017年11月23日,上智大学研究機構イスラーム研究センター主催によるシンポジウム「中東イスラーム都市における都市空間」が上智大学を会場に開催された。各発表者による報告と質疑応答の概要については以下の通りである。
1.「古代メソポタミア都市の空間分節−聖域と俗域」岡田保良(国士舘大学イラク古代文化研究所・教授)
岡田氏の報告では,メソポタミアの都市を「掘り解く」アプローチとして考古学と文献学による手法が示された。ハンムラビ法典やニネヴェ出土の占い文書,シュメール文学資料からの都市描写の紹介とともに文字資料の限界も示された。完全な都市発掘例が存在しないこと,聖域でさえ全体像が解明されていないとしたうえで,古代メソポタミア都市の構成原理は「囲い込み」からスタートしたとし,都市や聖域,住居からも「囲い込み」という計画性は確認できるものの,内側の施設配置からは計画性が認められないと指摘された。公共空間の有無については,特定の施設が設定された痕跡は無いが,各施設の余地部分を利用したと推察した。
2.「中東の歴史都市における公と私−広場,街路,公共施設」深見奈緒子(日本学術振興会カイロ研究連絡センター・センター長)
深見氏の報告では,世界的な都市人口増加の変曲点を1825〜50年頃と捉え,その前後で都市の形態変容の過程が異なる点が指摘され,ダマスクスやイスファハーン,カイロなどを事例にイスラーム化以後の都市形態の変容過程について紹介された。中東イスラーム都市の形態的特性について,①市壁と市門②市門から都市中心部に至る主要街路③各居住区の生活関連施設④袋小路を含んだ居住区には中庭型住居が集積⑤為政者の宮殿,の5項目があげられた。都市における「公と私」の視点によるケーススタディーとしてイスファハーンとカイロの事例をあげ,「完全な公」を主要街路に連なる広場及び街路の淀み,「完全な私」を住居とする説明がなされた。
3.「イスラーム世界の都市−アジア・日本・ヨーロッパとの比較」布野 修司(日本大学・特任教授)
布野氏の報告では,まず,アジア・ユーラシアの都市をみるうえで,コスモロジーに基づく都城思想をもつ地域を「A地域」,そうでない地域を「B地域」とし,A地域はインドや中国,B地域は西アジア(中東イスラーム地域)として位置付けられた経緯が紹介された。中東イスラーム地域にはメッカを中心とする都市のネットワークは存在するが,一つの都市を完結した宇宙とみなす考え方はなく,都市全体の具体的な形態については関心をもたないことが指摘された。シャリーアに記された建築ガイドラインを事例にあげ,街路や住区,住居等の都市の細部を優先する構成原理について紹介された。
【コメント、質問】
報告後の質疑応答・ディスカッションでは,イスラーム都市における公共空間の定義について意見が出され,公共,公有,共有といった細かい区分の必要性が提起された。また,イスラーム都市の定義にも議論は及び,イスラーム法により導かれる都市,10-20世紀にかけ安定的に発展し形態的特色を備えた都市,イスラーム化以前の構造を継承した都市,など多様な意見が出された。そして「公共」という概念に必ずしも空間が結びつく必要はなく,また,外見的には公共的にみえる存在も実際は段階的な使用権が存在するという説明が付け加えられ,今回のシンポジウムは終了した。
文責:宍戸 克実(鹿児島県立短期大学生活科学科 助教)