自己紹介・研究テーマとの出会い
高校生時代は陸上競技に夢中になっていました。個人競技であり、自分の内面と真摯に向き合い続けなければなりません。そんな時、内面世界をとことん追求するドイツ文学に傾倒していきました。大学でドイツ文学専攻に進み、ロマン主義文学に出会いました。ロマン主義の代表的詩人ノヴァーリス(1772-1801)の『青い花』は、自己発見の旅が世界認識とも、世界創造とも重なって行くという途轍もないスケールの小説です。当時のヨーロッパは、キリスト教が弱体化し、聖書の権威も失われ、フランス革命戦争が泥沼化し、精神的な拠り所がことごとく失われた危機的時代でした。だからこそ新しい精神的中心を創造しなければならない、という決意がロマン主義運動の根底にあります。彼らは自らの創作活動を「新しい神話」「新しい聖書」と呼びました。その企図の果てしなさに圧倒され、もっと知りたい、突き詰めて研究したいと思い、研究の道に進む決心をしました。
上智大学とも交換留学制度があるドイツのトリア大学に留学し、ノヴァーリス研究で博士号を取得しました。帰国後、大きな転機となったのは東日本大震災でした。ノヴァーリスは詩人であるのみならず、優れた自然科学研究者であり、哲学者でもありました。当時最先端の自然科学に驚嘆すると同時に、学問が細分化され、自然と人間の分断が進む状況を激しく批判していました。その分断の極致が「フクシマ」の事故なのではないか、と考えるに至り、現在は科学思想史的なアプローチからロマン主義を捉え直す研究をしています。


学生へ一言
私の人生に大きな影響を与えた「陸上競技」「ロマン主義文学」「フクシマ」は、一見バラバラなようですが、私の中では全てが密接に繋がっています。大学時代はあらゆることに挑戦する時間も体力も気力も備わっている、またとない貴重な時間です。まずは「コスパ」や「タイパ」を考えず、さまざまなジャンルの本を読み、趣味を見つけ、関心領域を拡げていただきたいと思います。一見無駄に思えることも、興味を持って追求しているとどこかですべてが有機的に繋がり、人生の指針となることがあります。
出版物紹介
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ロマン主義的感性論の展開ーノヴァーリスとその時代、そしてその先へ
春風社, 2023
ノヴァーリスを中心としたロマン主義研究から、「フクシマ」の事故をめぐる考察まで、まさしくロマン主義の果てしない展開を追求した一冊です。