上智大学 大学院 グローバル・スタディーズ研究科地域研究専攻(SGPAS) Sophia University, Graduate Program in Area Studies, Graduate School of Global Studies

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修了後の進路

博士前期課程の修了生は、博士後期課程への進学のほか、研究機関、開発援助機関やNGOなど国際協力関連の仕事や、民間企業など多岐にわたる分野で活躍しています。

博士後期課程の修了生の多くは大学や研究機関での研究職に従事しています。

SUGPAS ALUMNIからのメッセージ

地域研究専攻を修了してさまざまな分野で活躍するSUGPAS ALUMNIを紹介します。

田代亜紀子

田代亜紀子(たしろ あきこ)さん

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院 教員 

2001年3月 博士前期課程 修了

2006年3月 博士後期課程 修了

2015年3月 博士号(地域研究)取得

Q1 現在のお仕事について教えてください。

 2015年4月から北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院で教員をしています。 博士後期修了後は、(独)東京文化財研究所、(独)奈良文化財研究所でそれぞれ4年半、特別研究員(アソシエイトフェロー)として文化遺産国際協力事業を担当してきました。主に東南アジア地域の担当だったのですが、大学院でのネットワークや経験に大きく助けられました。

 現在は、語学授業を担当しながら、大学院では文化遺産国際協力論、観光と国際交流などの授業を担当しています。

Q2 大学院時代の研究テーマについて教えてください。

 東南アジアの遺跡保存政策と地域社会をテーマに研究を続けています。 学部の時、インドネシアに留学する機会があり、ボロブドゥール遺跡を対象とした卒業論文を書いたのですが、そこでボロブドゥール遺跡とアンコール遺跡群(カンボジア)の保存政策に関する共通点を知りました。そこで、博士前期課程では、アンコール遺跡群を対象にし、遺跡保存と住民をテーマに、論文を書きました。さらに、博士後期課程に入学する前に、タイ調査のための研究助成金を1年間得たこともあり、博士課程では、インドネシア、カンボジア、タイの3カ国での遺跡保存政策に関する研究テーマを設定しました。

Q3 大学院で得られたこと、いまの仕事に活かされていることなどあれば教えてください。

 先生方はもちろんのこと、様々な地域を対象にした先輩と後輩にいろいろ助けていただきました。また、タイ、カンボジア、インドネシアからの留学生も在学していたので、語学や文化について彼らから直接学べることも大きかったです。

 東南アジア地域の遺跡保存分野では、既に上智大学の名が、各国の文化行政機関に広く知られていたので、調査は非常にスムーズに進みました。一方で、上智大学の名を背負っているという責任も強く感じました。大学院が都心部にある、という地理的条件も最高だと思います。都内で開催される様々な研究会に参加して知見を広げることもできますし、アルバイト先も大手出版社、研究所、省庁など研究や就職に役に立つ場所が選べました。

(2015/12/1掲載)

貝塚乃梨子

貝塚乃梨子(かいづか のりこ)さん

プロジェクト デザイナー

2013年3月 博士前期課程 修了

Q1 現在のお仕事について教えてください。

 カンボジアの首都プノンペンでITとデザインに関する仕事をしています。具体的には、グラフィックデザインやWebデザインの仕事を中心に、体育教育に関わるNGOの教材開発や映像制作などを行っています。他にも、デザインを通じた社会貢献を目標に、JICAと恊働で環境問題啓発のための教材開発やプロジェクションマッピングの企画運営にも取り組んでいます。

Q2 大学院時代の研究テーマについて教えてください。

 大学院時代は、カンボジアの初等社会科教育におけるナショナル・アイデンティティ形成について研究していました。とくに、社会科の国定教科書において、カンボジア人として身につけるべき意識や考え方がどのように記述され、それが実際の教育現場でどのように教授されているのかを調査していました。カンボジアの社会科教育は日本と異なり、道徳、公民、歴史、芸術といった多岐に渡る内容が含まれており、他国との比較という面でも学びの多い2年間でした。

Q3 大学院で得られたこと、いまの仕事に活かされていることなどあれば教えてください。

 大学院修了後は平和中島財団の奨学生(プノンペン王立大学客員研究員)を経て現在の職に就きました。職種は違いますが、カンボジアの方と一緒に仕事をするなかで、異文化を理解する姿勢と、コミュニケーション能力はとても大切だと感じています。仕事では自分の考えがなかなか伝わらない場面もあり、まだまだ努力が必要ですが、大学院のフィールドワークでカンボジアの方と生活を共にした経験や、実際の教育現場におけるカンボジア人の考え方に触れる機会を持てたことは貴重な財産になっています。

(2015/12/1掲載)

東海林充

東海林 充(しょうじ みつる)さん

キーコーヒー株式会社 勤務

2013年3月 博士前期課程修了

Q1 現在のお仕事について教えてください。

 入社当初より、キーコーヒー関東工場(千葉県船橋市)製造課に所属しています。 現在は世界中から輸入されたコーヒーの生豆を焙煎する業務を担当しています。簡単に言うとコーヒーの味をつくっている工程です。関東工場は、全国に4カ所ある工場のなかで最も生産量が多い主力工場で、月間でおよそ1,000トンを製造しています。コーヒーの杯数に換算すると、月間でおよそ1億杯(10g/杯換算)となります。
 焙煎の目的は、ただ単に生豆を煎ることではなく、それぞれの生豆が持つ特性を最大限に引き出すように煎り上げることです。コーヒーの味は、生豆の品質はもちろんですが、焙煎手法や焙煎の度合い(焙煎温度・焙煎時間など生豆への熱の伝わり方)によっても変わります。そのため、タイプの異なる焙煎機を使い分けて、理想の味わいを再現しています。

Q2 大学院時代の研究テーマについて教えてください。

 インドネシア・中部ジャワに位置する都市ジョグジャカルタで生活するベチャ夫と、そこに暮らす人々の「声」を通じて、ベチャがどのような文脈で、どのように評価されているのかを検証し、街が発展する中でその時代に適応していこうとするベチャの社会的存在意義、そしてジョグジャカルタのベチャ像にかんする今日的側面の一部を描くことが研究テーマでした。
 ちなみに、ベチャ(becak)とはインドネシアの自転車タクシーの呼称です。大人1人、ないしは2人が乗ることができる客席が前にあり、後ろから運転手がこぐ形がインドネシアでは一般的です。インドネシア国内において、ベチャはかつて「卑しい職業」「非人道的な職業」というレッテルが貼られ、その一方で「庶民の足」「道路の王様」としても親しまれてきた乗り物でした。近年ジョグジャカルタでは、そのベチャを対象とした新たな規制が生まれ、同時にベチャを保護しようとする動きも見られるようになりました。この流れはこれまで規制対象外であったジョグジャカルタのベチャの環境が変化しつつあることを意味しており、また従来描かれきたインドネシア国内におけるベチャのイメージ像との乖離が見られました。そこには「卑しい職業」としてではなく、また「庶民の足」としてでもない、新たな役割が付与されていると考え、上述のテーマを研究テーマとしました。

Q3 大学院で得られたこと、いまの仕事に活かされていることなどあれば教えてください。

 キーコーヒーはインドネシア・スラウェシ島北トラジャ県に直営のコーヒー農園、『パダマラン農園』を持っており、コーヒーの栽培を行っています。現在も数名の社員が現地駐在しています。学部・院とインドネシア研究を行ってきたこともあり、ゆくゆくはパダマラン農園での業務に携わることも考えられます。また、現地駐在となれば言語はもちろん、文化・慣習の異なる地での業務となり、特に仕事に対する考え方や姿勢は日本とインドネシアとでは異なるため、思考の柔軟さが求められます。その点は地域研究を通じて十分養われてきたと思います。

山元一洋

山元一洋(やまもと かずひろ)さん

特定非営利活動法人ジーエルエム・インスティチュート

2012年3月 博士前期課程修了

Q1 現在のお仕事について教えてください。

 博士前期課程を修了して4年目になりますが、既に2つの仕事を経験しています。まず、修了直後に外務省に入省し、政府開発援助(ODA)の技術協力事業の管理・調整に2年間従事しました。事業を制度面から支える仕事で、具体的には、海外ボランティア事業の見直しや定期的な行事に日本の援助実施機関である国際協力機構(JICA)と取り組んだり、技術協力を実施するための手続きの管理を行ったりしていました。また、入省当時は、現在一つの援助手法になりつつある、ODAを活用して中小企業等の海外展開を支援しようという動きが始まった頃で、企業の行うプロジェクトの監理をするとともに、試行錯誤を繰り返しながら新しいスキームを創り上げていくという貴重な経験を積むこともできました。

 現在は、国際協力分野で活動するNPOに転職し、東京の事務局でプロジェクト管理から総務や広報まで、多岐に亘る仕事に携わっています。今の職場は比較的小規模で、国内の常勤職員は2人しかおらず、起こる全てのことに対して主体的にならざるを得ず、最近では経営についても考えていかなければと思うようになりました。具体的な仕事は、海外プロジェクトの進捗管理や外務省などのドナーとの調整、イベントの企画・実施、ニュースレター作成やホームページの更新、会員の管理、外部からの照会への対応など、説明しきれない程多くの仕事があります。

Q2 大学院時代の研究テーマについて教えてください。

 大学院では、ブラジルにおける公教育の民主化について研究しました。公教育の民主化とは、市民の参加を通じて地域の特徴に適した教育を実現し、ひいては市民権の構築へと繋げようとするもので、1988年の民政移管を契機にブラジルで政策として進められてきました。ポルトガル語学科で学んでいた頃にゼミでこの政策に関心を持ち、参加型の学校運営における学校とコミュニティの関係性を考察することを通じて、政策の目的が実現し得るのかを研究するために地域研究専攻に進学しました。

Q3 大学院で得られたこと、いまの仕事に活かされていることなどあれば教えてください。

 大学院では、論文を執筆する作業や、多くの研究者と接する機会を通して、学術的な知見に加えて論理的に考える力や、説明する力が得られたと思います。特に、在学中に現地調査を3回、ブラジルで行われた国際会議での発表も経験したことで、海外で仕事をする際にも役立つ形でこうした能力を高めることができたと思います。

 今の仕事でも、大学院での経験が大いに活かされています。プロジェクトを立案する作業は大学院での研究と通じており、細かな調査や分かり易い説明を追求する過程は、何度も経験したフィールドワークや論文の執筆、研究内容の発表とほぼ同じといえます。また、今の仕事は、プロジェクトの受益者や関係機関など、様々な背景を持つ人々と関わるため、客観的且つ慎重に物事を捉え考えることが求められた大学院での経験が役立っています。


太田理英子(おおた りえこ)さん

中日新聞社 勤務

2012年3月 博士前期課程修了

Q1 現在のお仕事について教えてください。

 新聞社の地方支局で記者として勤務しています。1年目は警察担当として事件・事故の取材、2年目からは行政担当として、自治体の予算編成や事業、市議会での施策の審議などを取材しています。2014年末から15年4月までは、衆院選と首長選、統一地方選と選挙が続きましたが、地元の政財界関係者の思惑や動向、有権者の意識を探る選挙取材の難しさと面白さを実感しました。このほか、突発的な事件・事故が発生すれば現場での聞き取りや関係者への取材に駆け回りますが、地元で地道な活動を続ける人々や地域の知られざる歴史・文化的話題の発掘も大切な仕事です。

Q2 大学院時代の研究テーマについて教えてください。

 メキシコにおける社会運動と政治変動の関係性について研究していました。修士論文では、首都メキシコシティー郊外の村で、2001年から政府による土地の接収への抗議運動を続けている住民組織に着目。警察との激しい衝突を繰り返しながらも、外的圧力の強化や政権交代に伴う政治動向に対応するべく、いかに他の社会運動組織や国際団体の支援を得て戦略を展開してきたのかを分析しました。

Q3 大学院で得られたこと、いまの仕事に活かされていることなどあれば教えてください。

 修論執筆のため、現地調査を複数回行いました。仲介者はおらず、調査対象の住民組織は政府・警察との間で緊張関係が続いているだけに、初めは現地で「よそ者」として警戒されているのをひしひしと感じました。それでも信頼してもらえるまで住民組織の元に何度も通い、最終的にリーダーを含めた主要幹部への長時間のインタビューを実現できました。もちろん反省点も多く残りましたが、現地調査で足を使って調べ、相手と正面から向き合って対話を重ねた経験は、現在の取材活動の礎になったと感じています。

中村典

中村 典(なかむら のり)さん

在カンボジア日本大使館

「草の根・人間の安全無償協力」外部委嘱員

2012年3月 博士前期課程修了

Q1 現在のお仕事について教えてください。

 在カンボジア日本大使館の「草の根・人間の安全無償協力」の外部委嘱員として勤務しています。「草の根・人間の安全無償協力」とは、開発途上国の地方公共団体、教育・医療機関、並びに国際及びローカルNGO(非政府団体)等が途上国で実施する1,000万円以下の小規模案件に対して資金協力を行うものです。私は医療・水・職業訓練・文化分野を担当しておりますが、医療分野の案件が主で、カンボジア各州の保健局関係者や保健関係のNGOと協同して案件をサポートしています。案件の緊急性精査、及び案件のフォローアップのための現地調査が業務の約半分を占め、その他は報告書作成や必要書類のやり取りといった業務です。国際協力の支援側と、支援を受ける側との橋渡しをするこの仕事は、国際協力を様々な視点から俯瞰することが、大変意義のあるお仕事です。

Q2 大学院時代の研究テーマについて教えてください。

 1979 年に大分県で発信された地域振興を目指した運動である「一村一品運動」が、カンボジアにおいてどのような制度枠組みで実施されているか、また現地調査を通じた「一村一品運動」が実施される現場を描き出すことで、カンボジアの「一村一品運動」が目指す地域振興の有効性や弱点を検討することを研究テーマにしました。 カンボジアの「一村一品運動」の製品の中でも、とりわけ自らの食文化に対する興味より、カンボジアの伝統的調味料として使用される魚醤油「プラホック」に注目しました。カンボジアというとポルポト時代、地雷、貧困等、負の固定概念が一般的に抱かれがちですが、現地の人々の日常生活はそればかりではありません。魚醤油生産を行う現地の方々と関わる中で、自然の中で生きる人々の精神的豊かさを知る機会が多くあり、自分の持っていた狭い見識・価値観を広げる意味でも大変意義のある2年間でした。

Q3 大学院で得られたこと、いまの仕事に活かされていることなどあれば教えてください。

 大学院卒業後、中国・日本・カンボジアと3カ国での業務経験をしてきましたが、業務内容は異なれどいずれの業務でも、コミュニケーション能力、問題察知/解決能力、仕事効率化能力が問われるなと実感しています。とりわけコミュニケーション能力、及び問題察知/解決能力の部分は、大学院での現地調査を通じて培うことが出来たのではないかと思います(もちろん、まだまだ修行は足りません…)。

  当時は大学院を卒業して直ぐに国際協力の方面に行きたい!という希望があったのですが、別のご縁があってIT会社に就職しました。希望が実現するまで少し遠回りになりましたが、当時自分の興味とは真逆の分野と捉えていたIT会社には、自分が出会ったことのない世界があり、沢山のバックグラウンドを持った素晴らしい先輩方に出会えました。そこでの経験は現職で生かせる部分も多々あり、これからも狭い世界に留まらず、自分の興味以外の分野も積極的に見て切り拓く姿勢を意識的に持ち、前進していきたいなと思います。

辰巳頼子
長男と次男と

辰巳頼子(たつみ よりこ)さん

清泉女子大学教員

2000年3月 博士前期課程 修了
2005年3月 博士後期程修了
2010年3月 博士号(地域研究)取得

Q1 現在のお仕事について教えてください。

 清泉女子大学文学部地球市民学科で教員をしています。子どもが小さくて海外での調査になかなか行けていませんが、フィリピンの南部のムスリム地域で、若い世代の人たちに話を聞きながら、イスラームの信仰についての調査をしてきました。東日本大震災以降は福島県からの避難者の調査も東京で行っています。

Q2 大学院時代の研究テーマについて教えてください。

 フィリピン南部のふつうの高校生や大学生にとって、イスラームを学ぶとはどういうことなのか、なかでも、イスラーム学を極めようと考えてアラブ地域に留学する学生たちは、どういう人生設計を描いているのか、に興味を持ち、彼らの留学先に居候して留学生活を共有することもしました。フィリピン南部の一部は治安が悪いと言われる地域でしたので、現地に貼りついての長期調査は難しかったのですが、マニラやエジプト(フィリピンムスリムの留学先)で、いろいろな人に助けられながら調査しました。

Q3 地域研究専攻の魅力、上智の地域研究だから得られた知識、経験などあれば教えてください。

 東南アジア研究、中東研究の両方の授業をとり、先生方や友人に多くを教えられました。直接私のフィールドとは関係のないラテンアメリカ地域の授業にも参加し、地域を超えて存在する問題にも目を向けることができました。

 中にいたころはよくわからなかったのですが、まわりからは上智は自由だね—明るいねーとよく言われました。たしかになにかを窮屈に思うことなく、のびのびと自分のしたいことに没頭できたことは本当に貴重でした。あたたかくアットホームな雰囲気を先生方がつくりだしておられるのではないでしょうか。

 大学院生になると、研究会や勉強会が学外でも多くあります。自由な場に身を置くことで、学外にもネットワークができていったと思います。

堀場明子

堀場明子(ほりば あきこ)さん

財団法人笹川平和財団

Q1 現在のお仕事について教えてください。

 笹川平和財団で主任研究員をしています。タイ深南部紛争の解決のために、現地NGOや周辺国のNGOと連携して平和構築事業を行っています。また、以前は、衆議院議員の政策担当秘書をしていたので、政界における女性の活躍に関する事業も担当しています。

Q2 大学院時代の研究テーマについて教えてください。

 インドネシア東部マルク州における宗教が争点となった紛争の分析を行っていました。同じ民族でありながらイスラーム教徒とキリスト教徒の住民が、どのような経緯で暴力に加担し、互いに戦い、紛争が拡大してしまったのか、聞き取り調査をもとに、その地域の構造的問題からナショナルなレベルでの政治的な紛争への関与まで幅広く研究してきました。

Q3 地域研究専攻の魅力、上智の地域研究だから得られた知識、経験などあれば教えてください。

 地域研究は、言語を習得し、文化、慣習、宗教など身をもって体験し、そこに暮らす人々と信頼関係を構築しながら、その地域についての知識を深めていきます。特に上智大学では、その地域のことであれば、政治、経済、歴史、文化と多角的に理解することが求められていると思います。それは、単なる地域の事情に詳しいだけではなく、あらゆる観点から地域の問題を分析し、住民に寄り添う視点を持ち、解決しようとする実践型の研究をしている教授陣が多かったからではないでしょうか。私の場合、紛争直後のマルク州で、住民と生活を共にし、問題解決に取り組む姿勢を忘れず研究を続けてこられたのは、上智大学の地域研究で学んできたからだと思います。

笹川秀夫

カンボジア、プノンペンで開催された野党カンボジア救国党による集会。2013年9月15日、笹川秀夫撮影。

背後に見えるような高層ビルが、今やカンボジアにも建ちはじめています。しかし、こうした高層ビルに象徴される開発の「成果」が人々に幅広く享受されているとは言いがたく、2013年の総選挙では、「パイの配分」も争点になりました。与党カンボジア人民党は、大きく議席を減らし、投開票の不正を訴える野党の集会も大いに盛り上がりました。

笹川秀夫(ささがわ ひでお)さん

立命館アジア太平洋大学教員

1997年 博士後期課程入学
2003年度 博士号(地域研究)取得

Q1 現在のお仕事について教えてください。

 大分県の別府市にある立命館アジア太平洋大学というところで、教師をしています。所属している学部はアジア太平洋学部という名前で、社会学や国際関係論を中心に、アジア研究やアジア太平洋地域に関する教育を行っています。学内の教員配置の都合や、現在はカンボジアの仏教を主要な研究テーマとしていることもあり、宗教に関する授業を担当することが多いのですが、ほかに「地域研究」という科目も担当しており、東南アジアに関する内容の講義をしています。

Q2 大学院時代の研究テーマについて教えてください。

 大学院のころから現在まで、東南アジアのなかでも、カンボジアが専門です。カンボジアといえば、やはりアンコール・ワットなどの遺跡が有名で、とくに上智はその保存修復活動にも力を入れていますが、少し違った角度から研究を進めました。そもそも、1994年に初めてカンボジアに行ったときの印象は、遺跡の壮大さに感動するというようなものではなく、現地の政治家や官僚、外国人の専門家を含めて、人々の遺跡への関わり方に強い政治性を見ました。そのように遺跡が政治性を帯びた起源をたどるなかで、植民地時代にフランス人の官僚や学者が遺跡にどう関与したかを調べる重要性を感じるようになりました。カンボジアの遺跡が、植民地主義やナショナリズムとどのような関係にあるかを論じた博士論文を地域研究専攻に提出し、その博士論文を『アンコールの近代:植民地カンボジアにおける文化と政治』(中央公論新社、2006年)という題で書籍として刊行することもできました。今では絶版になっているので、興味がある方は図書館で探してみてください。

Q3 地域研究専攻の魅力、上智の地域研究だから得られた知識、経験などあれば教えてください。

 地域研究専攻に在籍している間に考えたことは、先に述べたカンボジアの第一印象をどのように研究テーマとして自分のものにしていくかだったと思います。もともと文学部の文学科出身で、政治を分析する方法論を身につけていたわけではないのですが、学際的、かつ包括的に地域を把握することを目指す地域研究という方法論を学ぶなかで、個人としても特定のディシプリンに安住すべきではないと考えるようになりました。

 最終的に選んだ研究テーマは、必ずしも上智大学として進めている遺跡の保存修復を「宣伝」するようなものではなくなってしまいましたが、それでも自分の目で見たことを、しかも上智のなかから研究として語る意義はあったと思っています。実際に見たことを学問にできないのであれば、現場に行く意味はありませんし、地域研究などというものは成立しませんから。地域研究専攻は、カンボジアに対する自分の第一印象を、学問にするための言葉や方法論を身につけるための場だったと思います。

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