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歩くか電車に乗るか~外国語を学ぶということ~

 

新宿から上智大学のある四ツ谷までは、中央線快速で一駅、約5分です。両駅間を歩くと、30分強かかります。私は、通勤でこの区間を移動するのですが、天気がよくて時間があるときは、なるべく歩くようにしています。

電車ですぐ着くのにわざわざ歩くのは単に時間の無駄と思われるかもしれません。私自身、以前は、毎日往復1時間以上歩くなんて余裕はないと思っていました。でも、今や、すっかり習慣になりました。

 

きっかけは2011年の東日本大震災。原発事故で節電が求められる中、電気を節約しようと、夜は早く寝て、朝は日の出と共に起きることにしました。夜、電気をつけて起きていて、朝、太陽が出ているのに寝ているのはもったいないじゃないですか。

 

早起きすると、朝、時間があります。そこで、新宿で乗り換える代わりに四ツ谷まで歩いてみようと思いたちました。そうして一度はじめてみると、やめたくなくなったのです。

 

新宿御苑の横の緑道を通るのは気持ちがいいし、表通りが騒がしいと思えば、一本入った小道を歩けば、落ち着いて歩けます。

そして、驚いたことに、歩いている時間は無駄などころか、きわめて有意義であることがわかりました。授業で話すことや論文、発表の構想も考えられますし(この文章も歩きながら考えました)、詩や歌を覚えることもあります。室内で机に向かっているよりも脳が活発になり、新鮮な発想が生まれるように思います。

 

さらに、いろいろな発見がありました。時々立ち寄りたい喫茶店もできましたし、顔見知りの人もできました。時には韓国文化院などの展示にも立ち寄ります。容器を持参して豆腐屋に立ち寄るのも小さな楽しみです。また毎日通るうちに街の変化も見えてきます。歩きながら街や人の様子を観察すること自体、一種のフィールドワークにもなっています。

電車は確かに便利です。でもこのように時間をかけて歩くことで初めて得られることもあることに気づきました。私の生活は、電車にだけ乗っていたときよりも明らかに豊かになりました。

 

なぜこのようなことを年度初めの外国語学部のブログに書くのか、疑問を抱かれるかもしれません。しかし、外国語学部で学ぶみなさんが青春の貴重な時間の多くを使って外国語を学ぶことは、あえて歩くことに似ている面があるように思うのです。現在では、機械翻訳を使えば一瞬で外国語を理解・表現する(ような感覚を得る)ことができます。でも、それは自分の母語で理解しているので、実は異言語と直に出会っていません。自分の世界から外にでていないのです。新宿-四ツ谷間を電車で早く移動することに似て、外の世界とのつながりはありません。

 

それに対して、言語を学んで身につけるのは、時間がかかっても、その過程で見えるもの、考えることがあります。そして何よりも異言語・異文化と継続的に向き合うことをとおして自分が変わるのです。私は、いろいろな言語とつきあうなかでそのことを実感してきました。

 

外国語学部を選んだみなさんは、いわば、多くの人が電車に乗るのをよそに、歩くという選択をしたのです。その選択は決してまちがっていません。急いでいる時に電車に乗るのもいいでしょう。同じように、便利な機械翻訳を活用しない手はありません。でも、ぜひ時間をかけておもいきり専攻語の世界を歩いてください。そうすれば、必ず新しい発見や出会いが待っています。

 

充実した新年度、そして刺激に満ちた学生生活を過ごされますよう願っています。

 

(2024年4月12日記)

 

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