学部での学び

市民社会・国際協力論領域

市民社会・国際協力論領域の学び

私たちが生きているグローバル化した世界は、意思決定や行為を行う媒体に着目すると、国家(政治)、市場(経済)、市民社会の3分野から成り立っていると言えます。この3つは、それぞれが固有の論理を持ち、互いに拮抗する一方、相互浸透も進み、関連しあっています。

市民社会・国際協力論領域は、この3分野のうち「国家(政治)」以外の「市民社会」と「市場(経済)」を扱う領域です。 

グローバル化の担い手としての「市場(経済)」と「市民社会」

国境を越えたグローバルな企業の活動によって、知らないうちにアメリカ産の遺伝子組み換え作物が日本の食卓にのぼるようになったり、私たちが身に着けている衣類が東南アジアの工場で児童労働によって作られていたり、消費者である私たち自身が、何を食べて、何を着るかという個人的な決断が、遠い外国の生産者の人生に大きな影響を及ぼすようになりました。国際関係は、もはや国家と国家の関係だけではなく、国家のあずかり知らぬところで、市民や NGO や企業が直接、国境を越えた現象を担っているのです。

市民社会・国際協力論領域では、グローバル化の担い手としての「市民社会」と「市場(経済)」に、社会学、経済学、国際協力論、開発学、教育学からアプローチしていきます。 日本国内に目を向けるなら、現在では約 282 万人の外国籍者が住んでおり、生まれてくる子どもの約 50 人にひとりは父母のいずれかが外国人です。日本に住んでいる人は、すでにルーツも言語も多様になっているのです。国内の慣行や法律、教育の方法も、この現状にあわせた変化が求められており、その方向性の検討も市民社会・国際協力論領域での研究の柱です。

真のグローバルな市民となるために

国家を単位としてグローバリゼーションをみるのでは姿が見えてこない行為者に出会うことができるのが、市民社会・国際協力論領域の特徴といってよいでしょう。グローバル・サウスの生産者、NGO、移民労働者とその家族、 多国籍企業中心のグローバリゼーションに異議を申し立てる社会運動の担い手、制度化された学校外でのインフォーマルな教育など、「市民社会」と「市場(経済)」 の分野から世界をながめると、これまでと違った風景に出会うことでしょう。 市民社会・国際協力論領域での学びによって、歴史的、政治的、社会的、経済的に、形成されてきた地球上の国々や人々の貧困や不平等な関係を解消していくために、どのような取り組みが、これらの行為者によって取り組まれているのかを知ることができます。それらを通して、自分がどのように考え、行動すれば、真にグローバルな行為者になれるのかをつかみ取ってください。

領域での研究の例 田中雅子 教授

国による避妊法・中絶法の違いが移民女性にもたらす影響

あなたが1年間留学するとしたら、日本から薬を持っていきますか?私は、留学や仕事のために15年以上外国で暮らしました。現地の病院で処方箋をもらって日本にない薬を買うこともありましたし、現地にない薬を日本から持っていくこともありました。帰国後、日本の病院でネパール語通訳のお手伝いをするようになって、日本では、2ケ月分以上の薬を外国から持ちこむときに輸入確認の申請がいること、日本で認められた薬しか持ち込めないことを知りました。 現在、多くの人が、留学や就職、結婚、あるいは紛争から逃れるために国境を越えて移動しています。移民や難民というと「言葉の壁」だけが注目されがちですが、出身国と渡航先の国のルールが違うことで困ることはたくさんあります。ローカルなルールでは、グローバルな人の移動に対応できなくなっています。私は国による避妊法や中絶法の違いが移民女性に与える影響を研究しています。[写真:調査で出会ったネパ―ルの看護大学の学生]

「グローバル・ヘルス(国際保健)」というと、医師や看護師の領域だと思うかもしれません。しかし、国境を越えて影響をもたらす健康上の課題は、医療の知識だけでは解決できません。健康に生きる権利を阻む要因を知るには、年齢、性別、性的指向、民族、宗教、障害の有無など、医療や保健サービスから排除されている理由を明らかにする必要があります。社会的な性差の影響を調べるジェンダー分析のスキルや、権利の保障について定めた国際規範に関する知識が役立ちます。

研究の成果は、ルールを定める国家とは異なる立場から、当事者や支援者が市民社会組織の仲間と一緒に政策提言に生かしています。自分の意見を主張するのではなく、国家や企業など立場が異なる相手と対話しながら、制度やその運用を改善するために実現性の高い提案をし、合意を形成することが求められます。調査データや国際規範を用いた政策提言は、市民社会の一員としてやりがいのある作業です。

領域での研究の例 トビアス ヴァイス准教授

日本のメディアと原子力 - メディア描写・市民社会・ジャーナリズムの関係性

経済がグローバル化する中、私たち市民は、社会問題に対してどのように協調行動をとることができるでしょうか。各国の市民社会が共通の問題意識をもってグローバルにつながることが、その前提となるでしょう。 私は、人びとが国境を越えて共通の問題意識を形成するために不可欠なメディアの報道を研究しています。メディアが重要な影響を及ぼしたテーマの一例は原子力問題です。

1970年代から、世界各地で原子力発電所の建設に対する反対運動が起きています。しかし、その成敗は国によって様々です。日本の場合、先進国の中でも珍しく高速増殖炉建設の計画を維持していますが、それはなぜでしょうか。

私は、原子力が日本のメディアでどのように描写され、ジャーナリストたちはどの情報をもとに記事を書き、原子力反対運動と原子力産業が主張を競い合う中で原子力に関する描写はどのように規定されるか、三つのレベルで検証しました。メディア描写のレベル、市民社会と利益団体、あるいは政府系組織の主張のレベル、また新聞社の編集局内部のレベルです。各レベルの分析には、異なる研究方法を用いました。メディアの報道は、その記事の内容を分析し、市民社会や利益団体のレベルは一次資料やデータベースなどで把握します。新聞社の編集局内のポリティックスは人の目から隠された形で行われるので多数のインタビューをし、組織の中の意思決定のプロセスやジャーナリストの育成に関する多角的なデータを収集しました。それらをもとに、ジャーナリズムという、ある程度、経済的、政治的圧力から自立する空間を図式化しました。

この研究は、ジャーナリズムの経済的また政治的権力からの自立の程度が新聞社によって異なることを明らかにしました。限定的ではありますが、記者クラブ制度が注目されがちな日本において、メディア内部の構造分析を通じて、日本の原子力論争の形やその展開を説明することができたのです。 [写真:反原発デモ(Wikimedia Commons)]