授業紹介

ゼミ紹介

中東・アフリカ研究ゼミ

中東・アフリカ研究A 辻上奈美江教授

中東・アフリカ研究Aでは、中東北アフリカ地域のジェンダー問題を中心に、社会、経済、政治など多様な問題群についての「常識」を批判的に見直し、考察・議論します。

詳しく見る

関心、経験、視点を照らし合う

中東・アフリカ研究Aを履修するゼミ生の興味関心はさまざまです。ヴェールや児童婚、FGM(女性性器切除)など中東北アフリカ地域特有のジェンダーやセクシュアリティに関心がある人もいれば、アメリカの音楽とフェミニズムの関係を研究する人もいます。卒業生の中には、ジェンダー・フェミニズムの問題に加えて、イスラーム過激派、移民・難民に関する卒業論文を書いた人もいます。どのような問題関心であっても、ゼミ生がそれぞれの関心や経験、そして視点を持ち寄って、疑問をぶつけ合い、議論することに重点を置いてきました。 卒業論文については、ゼミ生同士がグループを組んで、卒論の構成や内容を推敲しあって完成度の高い論文を仕上げています。比較的小規模なゼミですので、教員とゼミ生、ゼミ生同士が自由に議論し合い、互いの知的好奇心を刺激し、高めあうことができています。[写真1:レバノン、バールバックの遺跡]

「当たり前」を疑う

このゼミで重視していることは、「当たり前」を疑うことです。写真は湾岸アラブ地域で着用されている「アバーヤ」と呼ばれる外出着です。これらの衣装を身に纏う女性は、一見すると、服装の自由を奪われた「抑圧された」存在に見えるかもしれません。では、私たちにはどんな服でも着れる完全な自由を享受しているでしょうか?どんな社会にも、時と場合に応じた服装規定があり、われわれも服装規定に従って洋服を選んでいることがわかります。異文化を知ることは、まず自分を見つめ直すことから始まります。ゼミでは、批判的な視点を養うことに重点を置いて、さまざまな問題群に取り組んでいます。[写真2:アラブ首長国連邦のシャルジャで撮影した「アバーア」]

辻上ゼミの基本=自分を見つめ直す

ゼミでは、3、4年生を問わず、あらかじめ決めておいた割り振りにしたがって受講者が順に発表するスタイルをとっています。3年生の前半では、テーマ探しと文献探しを目標としながら、読んでみた本や論文の内容を発表します。3年生後半までには、卒論の大まかなテーマを決めて、各自の方向に沿った文献を読み、発表します。先輩や仲間の発表を聞きながら発表の方法やテーマの決め方を学んでいけるので、無理なく卒論のテーマを探すことができるはずです。 一生のうちで卒論ほど長い文章を書く人はそれほど多くないはずです。でも、卒論を書くために、何を研究し、明らかにしたいのかを考え抜くことは、翻って自分を見つめ直し、それをどう表現するかを知る貴重な機会です。大学を卒業しても、時には基本に立ち返ってみる必要が出てくると思います。その時に辻上ゼミの基本である「自分を見つめ直す」ができるようになっていることが、ゼミの目標です。[写真3:アラブ首長国連邦ドバイにあるドバイ・モールの様子]

ゼミテーマを知るためのおすすめ書籍

1. アブー=ルゴド2018『ムスリム女性に救援は必要か』書肆心水  2.千田有紀ら編著2013『ジェンダー論をつかむ』有斐閣

閉じる

中東・アフリカ研究C 山口昭彦教授

現代の中東や隣接する地域に起こっているさまざまな事象(政治、国際関係、社会、経済、文化など)をこの地域に固有な歴史的背景を踏まえて理解することをめざします。

詳しく見る

歴史的想像力をみがく

みなさんのなかには、現代社会の諸問題には関心があるけれども遠い昔のことなんてあまり興味ないという人もいるかもしれません。しかし、われわれが生きる現在もまた過去のさまざまな経緯の積み重ねの上にあることを思えば、過去に対する十分な知識なくして「今」を理解することはできません。そんな立場から、このゼミでは中東地域の近現代史に関する文献(史料の抜粋など)を輪読し、この地域にかつて生きた人々に思いをはせながら歴史的想像力を養うことをなによりも大事にしています。[写真1:オスマン帝都イスタンブルを代表するモスクのひとつスレイマニイェ・モスク]

「問い」を見つける

ゼミでは、受講生それぞれが心から面白いと思う「問い」を見つけることが求められます。そのためには、インターネットなどで手軽に入手できる情報に満足しないことが大切です。本を読む、展覧会をのぞく、映画を見る、モスクに行く、中東料理を食べる、実際に現地を旅するなど、さまざまな体験を通じて、少しでも「中東」に触れる機会を増やしてほしいと思っています。[写真2:イランの古都イスファハーンにある「王の広場」]

「ストーリー」を組み立てる

研究は試行錯誤の連続です。とくに歴史学という学問は、最終的にどういう絵柄が現れるかわからないジグソーパズルを解くようなところがあります。右往左往しながらピースを集め、試行錯誤しながら組み合わせることで少しずつ絵柄が見えてくる楽しさをぜひ味わってください。[写真3:イラク北部にあるヤズィーディー派の聖地ラーリシュ]

ゼミテーマを知るためのおすすめ書籍

1.鈴木董・近藤二郎・赤堀雅幸編2020『中東・オリエント文化事典』丸善出版
古代から現代まで中東地域のさまざまな事象について簡潔で興味をそそる解説が付されている。パラパラめくりながら、ぜひ自分の関心あるテーマを見つけてほしい。

2.杉田英明1995『日本人の中東発見 逆遠近法の中の比較文化史』東京大学出版会
遠くへだたった日本と中東が実は古代以来の長い「文化交流」によってつながっていたことに気づかせてくれる名著。

閉じる

中東・アフリカ研究Ⅾ 澤江史子教授

私のゼミで学んでいる学生の多くは、大きく括れば、近代以降の中東の国家社会や、西洋に暮らすムスリム・マイノリティが直面する、政治社会的な問題(ナショナリズムや宗教復興、国内・国際紛争、ジェンダーなど)をテーマとしています。また中東やイスラムに特殊と考えがちなそうしたテーマについて、翻って日本についても考えてみることで、私たち自身の認識の問題についても意識的になる機会をもつようにしています。

詳しく見る

3年春学期

多様な関心をもつ履修者の個別研究の発表を通して、中東やムスリムが世界の中でおかれた状況について皆で重層的に知識を深めていく、という方法で進んでいきます。英語もちょっとは読んでみようということで、3年春学期は短め易しめの英語文献を学生のテーマに応じて私が選び、発表してもらっています。写真は湾岸産油国国に興味がある学生のためにMoodleに選択肢をアップした様子で、学生はこの中から一つ文献を選んで発表しています。4年生も卒論に向けた発表をしてもらいます。また、司会や議論も学生中心でできるだけ進めてもらうことで、リーダーシップやフォロワーシップについて各自が与えられた役割に取り組みながら考える機会にもなっていると思います。[写真1:湾岸産油国国に興味がある学生のためにMoodleに選択肢をアップした様子]

3年秋学期

秋学期はゼミ論と卒論の完成に向けて段階を追った個人発表をゼミ生が繰り返していきます。春学期同様に司会も議論も学生中心で進んでいきます。中東域内の多様な国家の事例や中東域外のムスリム・マイノリティの多様な状況に関する互いの発表を通じて、異なる地域やテーマに潜む共通の問題構造が見えてきたり、違いが生まれる条件についてより深く考えるなどの効果が生まれます。また、自分が講義科目も含めてこれまでに学んできた知識を総動員して互いの研究がより良いものになるように考え、アドバイスし合います。春学期もそうですが、ゼミを通じて個別テーマの勉強を深めるだけでなく、レジュメの作り方や論文の論の作り方について互いの発表を通じて考えていくことで、各自が個々にスキルを高めていくことに繋がっています。[写真2:イスラエルの分離壁。パソコンの操作のように簡単には問題は解決しない。]

中東を政治社会的に地域研究することの面白さと難しさについて

一口に中東といっても、言語や宗教的にそれぞれ特徴が異なる国家に分かれていますし、近代以降の経験も植民地を経験したか、資源があるかなどの諸条件によって、全く異なります。また、中東地域外でマイノリティとして生きるムスリムの状況も、中東域内の非ムスリム・マイノリティの状況も、居住国ごとに多様ですし、イスラーム的な政治社会運動にしても、中東でも西洋世界でもきわめて多様です。しかも、特定国家の状況は、隣国の政治変動や西洋大国との外交関係にも左右されつつ、国家の枠を超えて共振するのです。しかもそこにイスラムなどの宗教が重要な表現形態として介在し、宗教に関わる偏見(イスラモフォビアやレイシズムなど)も刺激要因となって関わってきます。中東イスラーム地域は、これだけの多様性と複雑性に依拠して現在進行形で大変動が各国で個別かつ関連しながら進んでいます。そのため、どのような問題の立て方をしてどのように焦点を絞るのかを決めるのも各人それぞれの個性と問題意識が織りなす創造的な行為です。ゼミ論・卒論段階では読める文献がどれだけあるかによって、現実主義的に問題設定を修正していくことが必要となりますが、様々な研究者がそれぞれの関心にそってどのような問題関心からどのような対象をどのように研究し、論じているのか、是非いろいろ読んで自分を啓発してくれる研究者や文献を見つけて、学びを深めていってほしいです。また、中東の多様性と重層性がグローバルな全体性とダイナミックに関連して展開していることを、多様な国家やアクター、トピックに関心を持つ学生の発表を通じて一緒に学んでいけたらと思います。[写真3:細部を細かく調べつつも、俯瞰に位置付けることも大事。
(写真はイスタンブルの新市街側から旧市街側方向への見晴らし)]

ゼミテーマを知るためのおすすめ書籍

このような多様性とダイナミズムに富む中東イスラーム地域の政治社会的な問題について2点に絞るのは至難の業であり、是非、文献検索スキルを身に着けて、図書館から自分にとっての1冊を自ら見つけてほしいです。近年、多くのイスラム関連の事典・辞典類や中東関連教科書、個別研究書が刊行されています。ですから自分が対象とする国とテーマにドンピシャの本はなくても、別の国について同様のテーマで書かれた文献を見つけることができるかもしれず、最初は特定の国家社会とトピックの両方で検索を行ってみると良いと思います。それでも敢えて2冊あげるとすれば、2022年12月刊行予定の『イスラーム文化事典』(イスラーム文化事典編集委員会編、丸善)はイスラームの考え方や文化の他、主要国政治やマイノリティ、ジェンダー状況など、政治社会的な側面についても項目・コラムがあるので、短い読み物を通して知識の幅と視野を広げるのに適しています。また、2014年刊行のため近年の変動に触れられていないという面はあるのですが、小杉泰『9.11以降のイスラーム政治』(岩波書店)はより政治面に特化しつつも、生殖医療や生命倫理の問題にも触れるなど、イスラームと地域政治の深い理解に依拠して、今世紀のイスラーム地域(中東アラブ地域が主体ですが)の政治社会的な動向について様々な論点に言及しています。中東を国際政治と絡めて理解したい人は必ず読むべき本だと言えます。

閉じる

中東・アフリカ研究F 戸田美佳子准教授

本ゼミは、サハラ以南アフリカ、特にフランス語圏の中部・西部アフリカ地域を対象に、現代アフリカで起こっている文化的・民族的な事象を人類学の視点から議論することを目指します。

詳しく見る

アフリカを研究するには?

アフリカ研究を志望する学生の中には、貧困や紛争、教育などの「問題」を「解決」したいという人が少なからずいます。しかし『アフリカ学事典』(昭和堂)を見てみると、アフリカ研究のトピックの幅広さがわかります。なぜ、アフリカへの「問題」ばかりに焦点が当てられてきたのでしょうか? アフリカ人作家のチママンダ・ンゴズィ・アディーチェさんは、「シングルストーリーの危険性」と題されたTED Talkの中で、アフリカの見られ方の問題点を、彼女と文学の関わりや実体験から述べています。彼女は、シングルストーリーはステレオタイプを生み出し、そしてステレオタイプの問題点は真実を語っていないということではないではなく、不完全であるということだと指摘しています。そこでゼミでは、多様な民族・言語・生態環境をもつアフリカ地域の特性を理解するために、アフリカに関する複数の民族誌や時にアフリカ文学を紹介して、輪読します。[写真1:ボニー・ヒューレット著『アフリカの森の女たち』]

アフリカの今を知るために

ただしアフリカ諸社会には多くの課題があることも事実です。ゼミでは毎回、アフリカに関する現地の英語・仏語・アラビア語のニュース記事を紹介してもらい、アフリカで今何がおきているのかを、環境や伝統、政治に関する時事問題から議論します。その際、同時代に暮らす人間同士としての視点で、アフリカの今を捉えることを目指しています。[写真2:カメルーン人研究者とのディスカッション]

ゼミテーマを知るためのおすすめ書籍

1. ボニー・ヒューレット2020『アフリカの森の女たち―文化・進化・発達の人類学』(服部志帆・大石高典・戸田美佳子訳)春風社.
本書の魅力は、中央アフリカ共和国南部に広がる森林地域で暮らす4人の女性たちによる生き生きとした語りです。副題のとおり、狩猟採集や農耕を基盤とする小規模社会に目を向けることによって、人間の普遍的な特性を描き出そうとしたものでもあります。フィールドワークの基本となる参与観察やインフォーマントとの関係、婚姻制度、狩猟採集民社会における自律性や 即時型利得文化など、人類学の理論や手法も学べます。

2.日本アフリカ学会編 2014『アフリカ学事典』昭和堂.
アフリカ研究をレビューした読む事典です。人文、社会、自然科学、そして文理融合の複合領域まで、アフリカ研究をジャンル別(アフリカ史、文化人類学、教育学など)に学べます。アフリカ研究をしようと思った時に、まず初めに手に取ってみるといい本です。

閉じる

アジア研究ゼミ

アジア研究B 福武慎太郎教授

おもに東南アジア島嶼部(インドネシア、東ティモール)と日本の農山村・離島を研究対象とする文化人類学の演習です。文化人類学に関連する文献購読とフィールドワーク(民族誌的調査)を中心にすすめます。文献購読、そしてフィールドワークを通じて、得られた知見を記述し、分析するという民族誌(エスノグラフィー)という方法を学習します。

詳しく見る

フィールドワーク

調査というと、皆さんは質問表や様々なアプケーションを使用したアンケート調査をまっさきに思い浮かべるかもしれません。フィールドワークにおいても、もちろん質問表を使うこともありますが、このゼミで目指しているフィールドワークはちょっと異なります。文化人類学の調査法である「参与観察」をベースにした、方法論としてはマニュアル化の難しい、非定型の情報収集の実践です。近年、人類学的フィールドワークを、ジャズの即興演奏(インプロヴィジェーション)にたとえる人類学者もいます。ゼミでは、原則、複数名で共通のテーマの元にフィールドワークを実施してもらいます。過去にはインドネシア、東ティモール、国内では奄美の徳之島、瀬戸内海の大崎下島などで実施した人たちもいます。[写真1:祭礼でドラムをたたき歌う東ティモールの女性]

インドネシア、東ティモール、徳之島、奥三河

私のフィールドワーク経験は、インドネシア、東ティモール、国内では愛知の山村や奄美、沖縄などです。これまで人権、開発、紛争と難民問題などに関わる研究を進めてきましたが、現在はコーヒー栽培農民の暮らしと経済について調査しています。フィールドワークの実施は任意です。ゼミに所属する人たちは東南アジアに関心をある人だけでなく、日本の移民社会、アニメやマンガなどサブカルチャー、LGBTQ+など性的マイノリティの問題など様々な課題に取り組んでいます。[写真2:奥三河・花祭]

文化人類学

ゼミ共通のテーマとしては、文化人類学の視点から、マイノリティの立場について研究しようということを掲げています。上記に挙げた性的マイノリティや移民について、また、障がい、高齢者など、従来の文化人類学ではあまり取り上げられなかった問題も近年は関心が寄せられるようになりました。[写真3:ゼミの卒論・研究発表会]

ゼミテーマを知るためのおすすめ書籍

1. ジェームズ・C・スコット『ゾミアー脱国家の世界史』みすず書房、2013年。 必ずしもゼミで読んでいるわけではありませんが、私の授業では必ず紹介しています。フィールドワークの本ではありませんが、フィールドワークの前に、どのように世界をみるべきか、人類史において大きな転換期を迎えている現在地を知るために、学生時代にぜひ触れてほしい二冊です。大著で読破するのは大変だと思いますが興味のある人は挑戦してください! 2.デヴィッド・グレーバー『負債論 貨幣と暴力の5000年』以文社、2016年。

閉じる

アジア研究D 久志本裕子准教授

本ゼミのテーマは「東南アジアから多様な文化の共生を考える」です。文化や宗教の多様性にあふれる東南アジアの例から、理想的ではなくても異なる人々が共に生きる様々な方法を模索します。

詳しく見る

ことばを知り、社会を知る

本ゼミでは年度によって異なるテーマで東南アジアの地域の事例を深く学び、多様性とは何か、共生とは何を目指すことなのかを考えていきます。2022年度のテーマは「マレーシアから共生を学ぶ」です。卒業論文については対象とする地域も問題も人それぞれですが、ゼミの活動としては卒業論文とは別に、共通のテーマについて学んでいます。春学期にはマレーシアについて語るためにまず必要となる知識を身に着けるため、マレーシアの歴史の書籍を一冊読みました。また、対象の地域について学ぶにはその地域の言語を学ぶことが不可欠なので、マレーシアの国語であるマレー語(マレーシア語とも呼ぶ)をゼロから学び、マレーシアの大学で日本語を学んでいる学生と『旅の指さし会話帳』を手にZOOMでお話しました。マレー語とほぼ同じ言語であるインドネシア語を履修したことがある学生は、学んだ表現をたくさん使って話せていました![写真1:マレーシアの学生とマレー語を話す]

交流から感じる

地域を知るにはまず人から。コロナ禍でも、オンラインでの交流や、マレーシアからの訪問者や留学生などと交流する機会はたくさんあります。英語に加え、少しでも交流相手の地域の言葉ができると、盛り上がり方は格別。人に出会って、心地よい経験や、つらい経験をする中で、自分と身の回りの社会を新たな視点で見つめることができればそれは立派なフィールドワークだと思います。ゼミ生たちは、日本に住む東南アジアの人々を訪ねてフィールドワークをしたり、マレーシアやインドネシアに行ってその空気を感じたり、東南アジアや欧米などに留学をして多様性を肌で感じる経験を積んだり、とそれぞれの形でフィールドワークに出かけています。[写真2:マレーシアのNGO職員と学内ハラール学食にて(一番右がゼミ担当教員)]

「マレーシア」を解体する

マレーシアの中には、マレー人、華人、タミル人(インド系)、東マレーシアの先住諸民族など、「民族」だけをとっても多様な人々がいて、どの集団に焦点をあてるかで「マレーシア」という国は異なる姿を見せてくれます。さらに「マレー人」とは誰なのか、いつ、どのように「一民族」として形成されてきたのかを考えると、「マレー人の価値観とは・・・」と単純に語ってしまうことの危うさにも気づくことができます。今年度は、あえてこの「民族」別にグループを分けてそれぞれの歴史、社会を学び、相互に発表することで「マレーシア」「マレー人」という国家や民族の枠組みで語ることの難しさを実感するという学習もしました。秋学期はテーマ別にグループで分かれて、また異なるマレーシアの姿を発見してもらいたいと考えています。このように、本ゼミでは東南アジアの具体的な地域を例とすることで、「共生」というテーマを「そもそも誰と誰の共生なのか」「民族とは」「国家とは」・・・といった根本的な問いにつなげて考えていきます。[写真3:グループ発表]

ゼミテーマを知るためのおすすめ書籍

1. 奥野克己・MOSA
2020『マンガ人類学講義 ボルネオの森の民にはなぜ感謝も反省も所有もないのか』日本実業出版社・・・甘口コース。東マレーシア、サラワク州に住むプナンという人々の世界観から日本の私たちの生き方を見直す視点をマンガで学ぶことができる。

2. 井口由布
2018『マレーシアにおける国民的「主体」形成ー地域研究批判序説』彩流社・・・辛口コース。学部2年生でもかなりなじみがない学術用語がたくさん出てくるが、「多民族が共生するマレーシア社会」という素朴な想定を根本から疑い、「多文化共生」の議論を深める見方を示してくれる。

閉じる

アジア研究E 権香淑准教授

本ゼミは、「グローバル化と東アジア」をテーマに様々な「現場」をミクロな視点から捉えます。五感を研ぎ澄ませて「歩く学問」を実践し、地域に根差した人びとの営みなどを、総合的に理解することを目指します。

詳しく見る

東アジアとの繋がりを考える

本ゼミでは、東アジアと私たちがどのようにつながっているのかについて、様々なレベルから多角的に議論を深めます。具体的なトピックは年度ごとに異なりますが、過去の例で言えば、多くのゼミ生の関心事であったナショナリズムやジェンダーの視点から、「慰安婦」問題に関する文献を読み進めました。3年生が主体となり、市民団体や展示会に足を運んでフィールドワーを行い、卒論ゼミ論報告会でその成果を発表しました。2022年度は、「食」をテーマに社会、文化、政治、歴史といったキーワードをかけ合わせたブレインストーミングを行い、そこから浮上した論点を整理して、グループ別に再設定したテーマをもって調査研究に取り組む段取りを整えています。いずれの作業においても、学生が主体となって作り上げるゼミ運営を目指しています。[写真1:ブレインストーミング、写真2:ディスカッション]

「歩く学問」を実践する

全体の調査計画を構想し、文献を講読することはもちろんのこと、実際に様々な「現場」に足を運ぶことも重視しています。先行研究で明らかにされてきたことを確認しつつ、その行間をいかに読み解いていくかが研究の要になるからです。2022年の夏休みを利用し、全学共通科目「立場の心理学2」(出口真紀子教授)と合同で行った関東大震災「慰霊碑」フィールドワークでは、1980年代から証言の聞き書きや文献資料収集を行い、具体的な歴史的事実の解明に取り組んできた方々のお話を伺いました(写真4:キャンパスに描かれた絵をもって説明する「社団法人ほうせんか」理事の西崎雅夫さん)。[写真3 & 写真4:全学部共通授業との合同フィールドワーク(両国、八広)]

フィールドを歩きながら学ぶ

コロナ禍の前には、有志による韓国でのフィールドワークも行いました。多くの観光客がショッピングを楽しむソウルの繁華街も、問題意識を研ぎ澄ませて歩けば、随所に「日本」が埋め込まれていることに気づきます。本ゼミでは、何よりも「他者理解は自己理解の第一歩」という認識と構えをもって、繰り返しフィールドを歩きながら学んでいきます(写真5:かつての明治座で現在は明洞芸術劇場、写真6:かつての京城部庁舎で、長らくソウル市庁として使用されたのち、現在はソウル図書館として運営)。[写真5 & 写真6:フィールドワーク「ソウルのなかの〈日本〉」]

ゼミテーマを知るためのおすすめ書籍

1. 上水流久彦、太田心平、尾崎孝宏、川口幸大編
『東アジアで文化人類学を学ぶ』昭和堂、2017年。
東アジアでフィールドワークを行う研究者たちが、家族と親族、宗教、エスニシティ、移民、多文化共生などのテーマを取り上げており、ミクロな視点から東アジアを捉える構えや方法を学べぶことができます。

2. 山下英愛
『新版 ナショナリズムの狭間から』岩波書店、2022年。
フェミニズムの視点から「慰安婦」運動の歴史を問い直し、二度と被害を繰り返させないためにどのような取り組みが必要なのかに言及している。私たち個々人がどのように向き合うべきかを深く考えさせられる一冊です。

閉じる

市民社会・国際協力論のゼミ

演習(国際協力論) 田中雅子教授

条約や国連の決議など人権に関する国際規範の中で関心のあるものを選び、それが作られた背景を学びます。さらに、その規範を身近な課題と関連づけて、ソーシャル・アクションの実践を試みます。

詳しく見る

ソーシャル・アクション

「世界/社会を変えたい」なら、その一員である「自分が変わる」ことから始めてみてはどうでしょうか?他人事だと思っていたことが自分と関わっていること、個人的なことが地球規模課題とつながっていること、日々の暮らしは政治や社会運動によって変わり得ることを体感するゼミです。性別、性自認、性的志向、年齢、障害の有無、民族、国籍や母語の違い、婚姻や家族構成、就労状況による立場の違いに起因する差別や格差に気づき、その克服を「ソーシャル・アクション」の実践を通じて学びます。1)自分自身の学びや行動変容による個人のアクション、2)仲間と学び、類似の活動を支援するコミュニティ・アクション、3)NGOなどの活動に参加し当事者と直に接する現場でのアクション、4)仕組みを変えていくための政策提言など社会に対するアクションの4段階を、チームのプロジェクトとして実施します。これらを成功させるためには、入念なデータ収集やフィールドワークが必要です。写真:母親による子の市民権申請の許可を求める運動[写真1:ネパール、2015年]

自分も声をあげてみる

ゼミでは、国内外の市民運動、特に当事者を中心とした運動について学ぶだけでなく、キャンパスでもソーシャル・アクションを実践します。2019年度には、ゼミ生らが中心となって行った「Raise Our Voices for Empowerment! 声をあげよう!私たちのエンパワメント」というアートを用いたイベントを実施しました。学生たちが直面している力の剥奪やハラスメントの経験をカードに書いてもらう参加型イベントと、その過程で大切だと思われたキーワードを用いたマーチを行いました。上智大学グローバル・コンサーン研究所のホームページから、報告書と動画を見ることができます。[写真2:左:図書館での展示、右:マーチで使用したプラカード]
報告書PDFはこちら
動画:https://youtu.be/cuzVvgY1gm8 

伝える方法を考える

2020年秋は「SOGI難民」、「入管収容問題」、「技能実習制度」、2021年春は「入管被収容者の生理用品へのアクセス」をテーマに、学内外の団体と協働しながら解決に向けた問題提起や政策提言を行いました。グループ学習でのテーマをもとに、教材作成を卒業研究とした学生もいます。当事者や実務者から直接学び、学外の関係者ともつながっていくことは、みなさんの将来の人生の選択肢を増やすことでしょう。[写真3:2022年3月に卒業した学生が卒業研究として取り組んだ教材]

ゼミテーマを知るためのおすすめ書籍

1. 宮内泰介・上田昌文
『実践 自分で調べる技術』岩波新書、2020年
ソーシャル・アクションは、差別や格差がもたらす社会の課題を可視化させることから始まります。インターネットでキーワードを入れて検索して出てきた既存の資料を見るだけではなく、自分で適切な資料をみつけて分析する技術を身につけましょう。

2. キャロライン・クリアド=ペレス
『存在しない女たち 男性優位の世界にひそむ見せかけのファクトを暴く』河出書房新社、2019年。
データを性別に分析するだけで、世界が違って見えることを実証した本です。この本を手がかりに、身近な問題を、まずは、性別というレンズを通して見直してみましょう。「自分は性差別を受けたことはない」、あるいは「性差別などしたことはない」と思っている人、どちらにもおすすめです。

閉じる

演習(国際教育開発論1、2) 丸山英樹教授

本ゼミのテーマは「サステイナビリティ教育の実行」です。自然・人間・社会のウェルビーイングを支える様々な教育・学習について地球市民として調べ、生涯にわたり実践していく方法を模索します

詳しく見る

サステイナビリティと教育

本ゼミでは、各ゼミ生が自身と他者(社会・自然)のサステイナビリティを考え、自分の関心事をMy Questionとして言語化します。同時に、公共性の高い社会課題について調べます。そうした自分の問いと社会の課題が重複するところを、卒業研究のリサーチクエスチョンに設定します。そして、人間は常に学ぶことによって変わることから、社会課題に対して教育がいかに機能しているかを比較・国際教育学をベースにして追いかけます。その過程で、ゼミ生は課題の設定と研究方法を学習し、自らの生涯学習に備えます。2年間のゼミ活動では、3年生と4年生がペアになり互いにサポートする「バディ制度」のもと、学内外で開かれる合同ゼミや各自の研究発表を行うゼミ合宿に参加します。これらの活動を通して、経験学習・社会的学習・変容的学習を行うのです。(https://bit.ly/ProfHideki )[写真1:ゼミの様子]

システム思考と参加型評価

立場が違えば見方も違うため、複雑な現実課題に対して絶対に正しい解答があるとは限りません。システム思考では、特定の個人の問題や責任を追求するのではなく、相互依存する要素間の循環的な関係性に着目し、課題が生じるシステムを扱います。誰もが同じ立場や状況にあれば、同じ問題を生じさせたり、問題に気づかないかもしれないためです。また、課題の捉え方は人によって異なることから、同じ課題をゼミ生同士で捉え直します。他方、ゼミ活動の評価には、ゼミ生自身が主導する参加型評価が用いられています。学期の始めに自ら設定した目標の妥当性や達成度合いを学期の終わり頃に評価し、その過程を通して概念を測定できる操作的な尺度を設定できるようになります。[写真2:野外でのゼミ]

エストニアなどで実践

サステイナビリティは自然・人間・社会のウェルビーイングを支える力です。そうした力は実践を通して獲得できることが多いため、ゼミ生には可能な限りフィールドワークを行うように伝えています。例えば、日本の教育と海外では何が違うか、現地で教えてもらうことをどう記録し、自分で何に気づくか、実際の行動を通して学修します。全学共通科目ですが、ゼミ教員が上智生を引率するエストニア等へのスタディツアーも、その一つです。豊かな自然の中で自分自身の存在を再確認し、小さい国に住む人たちから声なき声に耳を傾けたり想像し、他者とともに自分らしくいられるように工夫を積み重ねる。現地で調査に協力していただき、同世代の若者と意見交換を通して、サステイナビリティを追求します。帰国後または卒業後もその追求をマイペースで続けてもらえたら、ベストだと思います。[写真3:エストニアでの学習]

ゼミテーマを知るためのおすすめ書籍

1. 丸山英樹・太田美幸
2013『ノンフォーマル教育の可能性』新評論
教育を幅広く捉える視点と実例が豊富。2023年には大幅に内容を更新した第2版が出版予定。

2. Mulligan, Martin. 2017. “An Introduction to Sustainability:Environmental, Social and Personal Perspectives” Routledge
ローカルとグローバルな環境、経済・文化・政治を含む社会、人間の内面と主体性を扱う個人、それら3つが重複するサステイナビリティを示す。

閉じる

比較教育学 荻巣崇世特任助教

荻巣ゼミは、先進国・途上国を問わず、様々な教育制度の比較を通して、世界各地の教育の営みやそこに生じている問題について、多角的に考え理解することをテーマとしています。

詳しく見る

比較を通して「教育」をとらえる

現在、教育課題は、各国の国内問題と考えていては解決できないようなグローバルな課題になってきています。本ゼミは、先進国・途上国を問わず、様々な教育制度の比較を通して、世界各地の教育の営みやそこに生じている問題について、多角的に考え理解することをテーマとしています。 グローバルな教育現象・思想・実践を理解することを目指すもの、日本の学校教育・大学教育の特色を把握することを目指すもの、学校以外の場における教育に関するもの、途上国に対する教育開発を含む、広い意味での国際教育協力に関するもの、一国内の異なるグループの視点から比較的にその国の教育課題を検討するものなど、地域や教育段階などは問わず、多様なテーマで研究を進めています。[写真1:カンボジアで村人にインタビューしている様子]

自分にとって大切な問いを見つけて探究する

荻巣ゼミでは、①自分にとって大切な問いに徹底的に向き合うこと、②今の自分だからこそできるオリジナリティを見つけること、③学び合いを通して探究をすすめること、の3つを大切にしています。 そのために、3年生の春学期には教育に関する様々なジャンルの資料を購読し、全員でディスカッションしています。学術書、学術論文はもちろん、映画やアート作品、エッセイ、実践記録など、いろいろな形で展開されている教育に関する議論をもとにして、ゼミ生たちそれぞれの読みを聴き合い、各々の教育経験を相対化していきます。こうした学び合いを通して、自分が大切にしたい研究テーマや問いを見つけていきます。 3年生の秋学期にはグループ研究プロジェクトをおこなっています。小グループに分かれて、研究テーマと問いを定め、先行研究の検討、インタビューやアンケートの質問項目の作成・改訂、データ収集と分析、口頭発表と論文執筆までの一連のプロセスをグループの仲間とともに経験します。卒業論文執筆のための予行演習としての意味合いもあります。 卒業論文の執筆にあたっても、小グループでの指導をおこなっています。研究テーマは異なっていても、研究の進め方や問いの立て方、質問項目の確認など、グループ内で意見を聴き合いながら進めていきます。提出後には卒論発表会を実施し、研究成果を後輩たちに繋げていきます。[写真2:ゼミのメンバー(2022年度)]

ゼミテーマを知るためのおすすめ書籍

1.ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』2019年、新潮社。
イギリスの公立中学校を舞台に、「多様性」ってなんだ?「教育」って誰のもの?をリアルに問いかけてくるエッセイ。毎年議論が白熱します!

2.デボラ・マイヤー著、北田佳子訳『学校を変える力ーイーストハーレムの小さな挑戦』2011年、岩波書店。
ニューヨークのド真ん中で公立学校を変えた、ある校長先生の物語。民主主義のためにこそ学校がある、という強い信念に心打たれる一冊。

閉じる

国際政治論ゼミ

比較政治学ゼミ 岸川毅教授

世界各国の政治の仕組みや政治と人々の関りを研究する比較政治学ゼミでは、民主化、選挙、福祉、移民、多民族共生、ポピュリズム、独裁など多様な視点から政治のあり方を解明します。

詳しく見る

英語文献を読みこなす

世界の政治情報の圧倒的な部分は英語で流通します。この不可欠なツールを使いこなすために、学期はじめの数か月は各国の政治体制や政治過程を分析した英語論文を毎週読み、報告と議論を重ねます。それと同時に、論文の問い、仮説、分析枠組み、実証方法などを確認してリサーチ・デザインの作り方を学びます。学期末には自分の関心に基づいて学術論文を探し、先行研究を読み込む作業をします。専門論文を読みこなし、批判的視点から吟味できるようになることを目指します。

自分の研究をデザインして取り組む

学年の後半は各自が作ったリサーチ・デザインに基づいて調査を進め、進捗を報告します。担当教員は研究の構想と進め方について随時アドバイスします。ゼミは和やかな雰囲気ですが、報告に対して多様な視点からの質問やコメントが出て、議論が交わされます。ゼミ生が対象とする国・地域は東アジア、東南アジア、ヨーロッパ、中東、アフリカ、北米、中南米と多様で、卒論発表ともなると専門家の域に入るような知識を披露するゼミ生も現れます。比較政治学ゼミに参加することでかなりの「政治通」になるはずです。

調査を楽しむ

自分で政治情報を収集し動態を説明できるようになるにつれて、研究はいっそう充実したものになります。政治には人間の意思が強く反映されるため、人々の生活や価値観を理解しながら研究する姿勢もまた大切です。比較政治学ゼミは積極的に海外に出る人が多く、海外生活や留学経験者だけでなく、長期休暇や授業の合間に資料収集、インタビュー、選挙観察などに出かけ、ゼミで情報交換をする光景があります。ゼミ生が調査地によって英語以外の多様な言語(中国語、韓国語、マレー語、スペイン語、ポルトガル語、イタリア語、フランス語、ドイツ語など)を使うのも特徴で、担当教員も研究で多言語を用いるため、言語習得を促す環境があります。

ゼミテーマを知るためのおすすめ書籍

ゼミで扱うテーマは多様ですが、担当教員の近年の研究関心とアプローチを紹介するために、2篇の論文を挙げます。

1.岸川毅「現代中華世界の自由民主と『社会的想像』試論―中国、台湾、香港」納家政嗣、上智大学国際関係研究所編『自由主義的国際秩序は崩壊するのか』勁草書房、2021年。
自由民主という価値観と行動様式の浸透の度合いを、中国語圏の3事例について比較分析した論文。

2.岸川毅「台湾省議会とオポジションの形成—党外議員の行動と戦略—」『日本台湾学会報』第18号、2016年。
国民党支配時代の台湾における民主派議員の活動と意義を口述歴史資料をもとに明らかにした論文。

閉じる

中国政治外交ゼミ 渡辺紫乃教授

現代中国の政治・経済・外交・安全保障、東アジアの国際関係に関する外国語文献の精読と発表、3年次のゼミ論文、4年次の卒業論文を必須とし、予習と復習、研究活動に相当の時間を要します。

EUと紛争解決ゼミ 中内政貴教授

本ゼミで注目するのは「互いに両立不可能な目的を追求する対立」である紛争です。世界で日常的に起こる紛争について、本ゼミでは欧州連合(EU)に着目して、可能な解決方法について考えます。

詳しく見る

紛争の原因を探り、解決方法を模索する

本ゼミでは、紛争の発生原因や可能な解決方法について、国際政治や国内政治の観点から考えていきます。ゼミ生の研究テーマは多様で、EUに焦点を当てつつも、多くの文献を読んで議論をしながら各自の関心を探り、研究を深めています。2020年度の開講以降で最も多く選ばれている研究テーマは難民問題で、EU内の人の自由移動とその影響、共生や統合に向けた課題について考えています。

教室での議論をこえて

毎回、リーディング資料のテーマに基づいてグループ・ディスカッションを行っています(写真1)。秋学期は主に英語文献を用いており、内容把握に苦労する場合も見られますが、卒業論文執筆に向けたリサーチの練習と位置づけて全員で取り組んでいます。また、毎年の特別行事として他大学との合同ゼミを実施しており、2022年度は立命館大学衣笠キャンパスに出向いてグループ発表を行いました(写真2)。卒業予定年度の参加者向けには、学部内の他ゼミと合同で卒業論文の進捗状況を報告する会や、論文完成後の他大学との合同発表会も実施しています。今後は、フィールドワークも実施したいと考えており、できるだけリアルに国際政治の現場、特に、利害が衝突する紛争の影響について実感しながら考える機会を作っていく予定です。

ゼミテーマを知るためのおすすめ書籍

1.柴宜弘編著(2016年)『バルカンを知るための66章』明石書店:1990年代に悲惨な武力紛争が相次いだバルカン地域ですが、文明の十字路としての多様性や魅力にあふれる地域でもあります。そしてEUの外交・安全保障政策の最前線でもあります。そのバルカン地域の今を様々な角度から切り取った、入門に最適な一冊。

2.遠藤乾編(2014年)『ヨーロッパ統合史(増補版)』名古屋大学出版会:別冊の資料編とともに、ヨーロッパ統合の歴史を詳細に描いた一冊。歴史を記述するだけではなく、政治指導者の思惑や、今日のEUの現状につながる政治力学などが描かれ、読み物としても優れており、必読と言えます。

閉じる

国際安全保障論ゼミ 齊藤孝祐准教授

安全保障に関する国際的な問題、また、それに伴って生じる国内的な課題について、各学生がそれぞれ独自の関心を定めたうえでアプローチしていきます。

詳しく見る

多様化する安全保障問題をどうとらえるか

安全保障というと、かつては軍事的な攻撃からいかに国を守るか、という観点で見られることが多かったのではないかと思います。いまでもそれが安全保障問題の中心的課題になっていることは確かですが、同時に国家の安全保障や国際秩序の安定にかかわる問題は大きく広がっており、何をそこに含めるべきかということ自体も論争的です。このゼミでは、所属学生が独自の研究課題を設定したうえで安全保障問題への理解を深めていきます。これまで、米中対立や日本の防衛をめぐる諸問題から、経済安全保障やエネルギー・資源問題、国際河川管理、難民、ジェンダーなど、いわゆる伝統的・非伝統的な安全保障問題と呼ばれるものを含めて幅広いトピックを扱い、学生それぞれの関心に基づいて問題を深堀していくのと同時に、全体でのディスカッションを通じて知見の共有と発展を目指してきました。

現実と理想を峻別し、結びつける

このゼミでは、自らの先入観や思想信条を可能な限り排して、論理と証拠に基づいて議論を組み立てていく、いわば学術的思考を養うことがすべての活動の基盤になります。論文執筆プロジェクトは、学生が自身の関心に基づいて問いを立て、それに答えるために理論や概念、さまざまな文献や資料を駆使して説得力のある文章=論文を書くことを目指す取り組みです。その一方で、多くの学生が「世界をどう変えたらよいか」といった、いわゆる「べき論」にも関心を持ちます。政策提言プロジェクトでは、特定の問題について政府等が持ちうる政策オプションを検討し、どれをなぜ採用する「べき」なのかということも議論しました。また、こうした思考を自分の中で閉じず、異なるコミュニティとの対話を通じて相対化することを目指して、学内外の他ゼミと討論する機会も設けています。

ゼミテーマを知るためのおすすめ書籍

1.松元雅和『平和主義とは何か―政治哲学で考える戦争と平和―』中央公論新社、2013年。
平和自体を拒む人はほとんどいないのになぜもめるのか。わたしたちが「平和」を目指すというとき、果たしてその目的や手段は共有されているのか。最初に考えるべき問題なのかもしれません。

2.川名晋史、佐藤史郎、上野友也、齊藤孝祐編著『日本外交の論点』法律文化社、2018年。
日本の外交・安全保障政策をめぐって生じるさまざまな論争を整理し、議論の対立軸を明確にすることを目指して作りました。まずは広く問題を眺めてみようという方におすすめです。

閉じる

SPSF Seminars

Seminar(International Relations) KOBAYASHI, Ayako Assistant Professor by Special Appointment

Students discuss various issues of international relations, from diplomacy to civil society, from war and peace to climate change and to sustainable development.

詳しく見る

Global Governance

This seminar focuses on global governance, in which not only state actors but also non-state actors such as international organizations, NGOs, business actors, and citizens are critical. Students present their research, exchange their views, and facilitate discussions based on the literature in class. They conduct literature reviews based on their research interest in the first semester. Then, they collect and analyze data (numbers, interviews, archival documents, and so on) in the second semester. With the training, they start writing their bachelor’s theses in the fourth year smoothly. This seminar holds in-class negotiation simulation sessions to improve students’ planning, organizing, and communication skills.[photo1:In front of the United Nations Geneve Headquarters in 2022 (Kobayashi)]

Why? How? What?…Is your start

Questions we have in everyday life are a good starting point for our research in international relations. We can buy tasty coffee imported from Latin America and Africa at a reasonable price, but are there any challenges in the production process? Many people move from one place to another for different reasons. Who needs to travel and why? What political, economic, social, or cultural factors have an impact on people’s migration? What is critical for politicians to make decisions-public opinion, advice from colleagues, or the leader’s belief? Let’s look around and take notes of your wonders.[photo2:Coffee and Taking Notes © Green Chameleon (https://unsplash.com/ja/@craftedbygc)]

Book Recommendations

These are good introductory books to study international relations and sustainability.

1. Christian Reus-Smit, International Relations: A Very Short Introduction, (Oxford: Oxford University Press, 2020).

2. Paul B. Thompson and Particia Norris, Sustainability: What Everyone Needs to Know, (Oxford: Oxford University Press, 2021).