国際政治論領域
国際政治論領域の学び
グローバル化した世界では、政治は一国内で完結しません。普段意識していなくても、国際政治は、すでに我々の生活の中に深く入り込んでいます。日本はエネルギー資源や食料を海外に依存していますし、米中摩擦やロシアのウクライナ侵攻が、日本の政治や経済、安全保障環境に影響を及ぼし、我々の生活が変わることもあります。逆に、日本の原発事故がドイツの脱原発につながったケースもありました。こうした事象の表層だけ知るのではなく、その背後にあるメカニズムを究明して理解すること目指してゆきます。
国際政治論の広がり
国際政治論はもともと、戦争を防止し、平和・秩序に関する主権国家間の関係を問う学問として始まりました。そして、戦争・平和の問題、アクターとしての主権国家は、いまも重要でありつづけています。しかし近年では、安全保障、経済発展、環境問題、人権、貧困問題などがさまざまに連関、複雑化し、アクターが多様化していくなかで、どこまでが国内政治で、どこからが国際政治かなどといった峻別が難しくなっています。ある国、地域の経済や社会情勢、文化・伝統、宗教が国境を越えて政治問題化することもありますし、企業、NGO、市民とさまざまなアクターがつながり、国際社会に影響を及ぼすこともしばしばです。NGO が連携して国家に働きかけて地雷や核兵器を規制する条約を作成させたり、国連をはじめとする国際機関が人権問題の解決策を提示したりすることもあるのです。
国際政治を眺める視点
国際政治は、全体を統一するような単一の政府が無いという点で、国内政治とは構造が違います。国連のように世界的な制度もありますが、国内の政府と比べると力が弱く、暴力を止められないこともままあります。制度やルールだけで説明できる範囲が国内に比べて狭いので、その他の様々な要素を考慮に入れる必要性が高くなります。 国際政治論領域では、伝統的な国家間の安全保障や外交交渉はもちろん、地域紛争、民族問題、平和構築、民主化、国際経済、人権、ナショナリズムなどあらゆる問題・現象を扱っています。こうした複雑な事象を多方面から理解するため、安全保障論、政治経済学、国際制度論、比較政治学、市民社会論など様々な専門分野の枠組みを用いてゆきます。
領域での研究の例 鈴木一敏教授
現代社会は高度にグローバル化しており、ヒト、モノ、カネ、情報などが国境を越えて飛び交っています。日々の衣食住にしても、学びや娯楽にしても、外国人、外国製品、外国資本、外国の情報やサービスとの関わりなしには、もう、ほとんど考えられないところまできています。それは外国においても同じことです。 こうした国境を越えた交流の多くの部分は、国家による許容によってもたらされています。主権国家はとても強い権限を持っていますから、その気になれば、出入国も、輸出入も、資金移動も、外国との通信も、かなりの程度制限することができてしまうからです。実際、制限がかなり厳しい国もあります。では、私たちの生活に多大な影響をもたらす制限や自由化は、いったいどうやって決められているのでしょうか。
たとえば、日本はいまや20を超える自由貿易協定(FTA)を結んで世界の様々な国と貿易しています。最近では環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)や東アジア地域包括的経済連携(RCEP)など、巨大な多国間自由貿易協定も発効しました。しかし実は日本は今世紀に入るまで、FTAの利用にかなり懐疑的した。2000年代初頭に方針を転換してから次々と協定を締結して、今では世界をリードしていると言えるほどにまでなりました。こうした政策の変化はなぜ起きたのでしょうか。どういうメカニズムで矢継ぎ早の協定締結が可能になったのでしょうか。そこに国内の産業や制度・政治といったローカルな要因、経済だけでなく安全保障も含めたグローバルな趨勢や要因は、どのようにかかわっているのでしょうか。複雑で大きな問いですが、少しずつでも紐解ければと思っています。