報告 |
Curtiss Takada Rooks先生による講演会では、Mixed Race(多人種、ダブル、ハーフ、マルチレイシャル)の人々が辿るアイデンティティ形成の理論を多数紹介した。多人種の人たちのアイデンティティ形成を理解するには基礎知識が必要であるため、文化、人種、エスニシティ、人種差別、制度的差別などの基礎用語及びアメリカ史におけるマルチレイシャルの人の扱いに関する丁寧な解説があった。Rooks先生自身、日本人の母親とアフリカ系アメリカ人の父親との間で生まれ、ダブルであるため、ダブルとして生きることはどういうことかを考えてきたため、彼の各理論に対する見解は深く、説得力があった。まずミックス人種のアイデンティティ形成理論はそもそも心理学の領域からモノレイシャル(単独の人種)の人種的アイデンティティ発達理論をもとにされているが、直線状(リニア)な段階的モデルであるため、やや単純化されており、多人種の人たちが抱える多様性・複雑性が見えてこないとの批判があった。彼はHall、Kich、Thornton、Murphy-Shigematsuなど研究者による提示された多数のモデルを紹介し、RootのEcological Multiracial Identity ModelやHouston & HoganのEdgeDancersというモデルを高く評価していると述べたうえで、Rooks先生自身のモデルを紹介した。このモデルでは、Complexity vs. Hardnessと暴力という概念を組み入れ、多人種の人たちのエージェンシー(agency)、自尊心、自己概念、プライバシー侵害(「あなたは何者?」)が複雑に交差するアイデンティティ形成理論であり、多くの参加者に共感を呼んだ。講義の終了後も活発な質疑応答が行われ、学生や教員が滅多に聞くことができない多人種の人々の体験についての意見交換があり、有意義な時間となった。(文責:出口真紀子) |