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第30回研究会報告

日時:2006年10月21日(土)10:30-18:00
場所:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所304号室
出席者:12人

1. ローマ字によるジャウィ文献目録構築の試みと課題:『カラム』誌のデジタル化プロジェクトを例として

山本博之(京都大学地域研究統合情報センター)氏によって、『カラム』誌のデジタル化とローマ字による記事見出しの目録・検索システム化に関する報告が行われた。なお本報告にはデジタル化、システム化作業を委託された穂高書店から青柳氏と三木氏が同席され、出来上がったシステムを実際に操作しながら行われた。

最初に山本氏より『カラム』誌が1950年から1969年まで旧英領マラヤで発行されたジャウィによるイスラーム系雑誌であり、書き手としてはマレーシアとインドネシアの両方に渡るといった雑誌の簡単な説明があった(『カラム』誌に関しては『上智アジア学』20号、2002年で山本氏が詳細に述べられている)。

続いて『カラム』誌のデジタル化と公開化に関しての説明がなされ、『カラム』誌をその最初の対象とした理由として、『カラム』誌を所蔵する館数が少なく、雑誌自体の入手が困難である事、『カラム』誌を所蔵する館も欠本が多く、全巻を所蔵している館が無い事(最も多く所蔵している館はマラヤ大学ザアバ記念図書室で、複写のものも併せて全号の7-8割)、ただし、本プロジェクトで行った様に各館の所蔵を合わせると全体の欠本が殆ど無くなる事などが挙げられ、『カラム』誌の史料的な価値と合わせて、そのデジタル化と公開化の意義が述べられた。

今後の課題に関しては最終的に一般への公開を目指すにあたって、①著作権(50年ルール等)をどの様にクリアしていくか、②ジャウィのローマ字化とそのデジタル化、検索システムの構築を行う際に、今回は表記法として現綴り通りの翻字を原則としたが、地域や時代によっては綴りや単語の区切り方が異なる場合があるため、検索システム上では多様な綴りによる検索に対応できるようにする事が挙げられた。

そして、今後の展望として『カラム』誌以外の定期刊行物の目録を作成し、それぞれの横断検索が出来るデータベースの構築が語られた。

出席者からは山本氏、青柳氏、三木氏に対し活発な質問が投げかけられ、システムの内容や技術的な問題、著作権に関する問題、今後この様なデジタル化されたデータベースをどの様に発展させていくか等、多岐に渡る白熱した質疑応答、討論が行われた。

こうした討論の中でも特に、今回の『カラム』誌で行われた様なデジタル化の目的は情報の共有化ではないかという青柳氏の意見。そして、今回行われたデジタル化された記事の見出し検索の試みを全文検索や他の雑誌へと広げて行く際には、まずは今回のシステムを活用する人々が自分の利用する範囲の本文の翻字化、デジタル化に参加して行く事で『カラム』誌のデジタル化、データベース化に寄与し、ひいてはそうした試みを他の雑誌に関しても広げていくという、使用者が単なるデータ使用者からデジタル化、データベース化に積極的に参加して行くという山本氏の意見は、史料のデジタル化と公開化とそれに関与する個々人可能性と重要性を訴えるものであった。

2. イスラーム地域研究上智拠点について

川島緑(上智大学)氏より以前より本研究会でも報告がなされてきた、イスラーム地域研究上智拠点に関する報告がなされた。上智拠点では「イスラームの社会と文化」というテーマで研究が進められ、その中でも川島氏が代表を務める研究グループ、「東南アジア・イスラームの展開」は本研究会(ジャウィ文書研究会)や東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所共同研究「マレー世界における地方文化」と連携しつつジャウィ文書研究を基礎とした実証的研究の蓄積を主目的としつつ、東南アジア域内は元より域外との関係に注意を払いながら成果を積み上げていきたいとの旨が説明され、そうした研究活動への協力を仰ぎたいとの要望がなされた。

そして今後の活動についての討議が行われ、ジャウィ史資料の収集、当該分野に関係する外国人研究者の招聘、研究分担者・協力者が自己の研究分野におけるジャウィ文書使用の研究状況を報告する研究会の開催(2007年1月12-14日予定)などが提案された。また、参考研究として川島氏よりBruinessen氏のキターブ・クニン(Kitab Kuning)の研究が紹介された。

3. アチェ写本調査報告:アリ・ハシミ教育財団所蔵カタログ出版などを例に

菅原由美(天理大学)氏よりアリ・ハシミ教育財団所蔵写本のカタログ(Oman Fathurahman &s; Munawar Holil eds. Katalog Naskah Ali Hasjmy Aceh. Tokyo: Center for Documentation and Area-Transcultural Studies (C-DATS), Tokyo University of Foreign Studies (TUFS), 2006.)に関しての報告がなされた。このカタログはアリ・ハシミ教育財団が所有している写本232冊、314タイトルのカタログであり、それらはAl-Quran、Hadis、Tafsir、Fikih、Hikayat、Lain-lain(その他:博物学や夢分析の類)等の10項目に分類されてカタログに掲載されている事、写本のタイトルが不明の場合は編者が仮タイトルを付けたとの事が紹介された。本カタログ制作以前の分類の状況としては、写本には寄贈順の分類がなされ、その中には簡単な内容紹介が付されているものもあったとの事である。この写本コレクションの内容に関しては、東南アジアで良く知られている文献が多く所蔵されており、言語別の内訳はアラビア語のみで書かれているものが45%、マレー語及びアラビア語で書かれているものが45%(マレー語のみのものもある)、アチェ語で書かれているものが10%である事が挙げられた。また、カタログ化と並んでCD-ROM化も進んでいるが、公開に難色を示す人も存在する事、写本自体には著作権は適用されないため法的な問題は無いが、現地の人々との人間関係においては問題が存在するとの報告がなされた。

4. 2006年夏のジャウィ文書調査報告:アチェの在地文書とインドネシア国立図書館所蔵定期刊行物

新井和広(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)氏によって2006年夏にアチェとジャカルタで2週間に渡って行われた調査報告がなされた。 

アチェでは民家(コレクターを含む)やウラマーの家で所有されている写本の調査が行われたが、民家にあるものは一般的に保存状態が良くない事、コレクターが持つものは状態が良いが、最終的に古物商に流れる事があるいう事が説明された。そして今回の調査において一番状態の良いものは古物商の店にあったという事、アチェ博物館の館長が調査の移動中に語った、「昔は方々のモスクや学校に写本が多くあったが今では殆ど無い」という話が併せて報告された。また、写本の内容に関しては、ウラマーの家ではアチェに来たアラブの系譜が写真によって紹介され、それはマレー語、アラビア語、アチェ語が混合する写本であった事が報告された。

インドネシア国立図書館ではジャウィ定期刊行物の調査がなされ、その結果ジャウィで書かれた雑誌そのものが少ないという感想、創刊号が所蔵されている雑誌が少ない事、日本軍政時代にジャウィで出版された雑誌(Asj-Sjoe-Lah=surat kabar Islam)の紹介、所蔵されていた雑誌の創刊号を何点か収集してきた事が報告された。

最後に今後の展望として、カタログに記載されているものが実際にジャウィで書かれているものかを照合してみる等といった、ジャウィ定期刊行物調査の本格化、それに伴うインドネシア国立図書館所蔵のジャウィ定期刊行物の調査、そうした調査の委託や資金といった調査方法の検討が語られた。

5. テキスト講読

前回に引き続き、『カラム』誌創刊後の講読が行われた。翻字・翻訳案は前回に引き続いて新井氏が担当され、前回配布されたレジュメへの訂正、追加情報に関して報告があった後、参加者全員による講読が行われた。

時間の都合上、残念ながら巻頭言を最後まで講読するという目標には及ばなかったが、前回と同様に白熱した討論が行われ、より緻密に、より深くテキストを理解する事が出来た。

6. 事務連絡・情報交換

(文責:冨田 暁)