日時:2004年12月11日(土)10:00-12:00
場所:京都大学工学部4号館4階AA401号室(第1講義室)
出席者:10名
(1)新井会員から「東南アジアのアラブ人ネットワーク・プロジェクト」の進展に関する報告があった。それによると,本年中頃に応募したトヨタ財団の研究助成は残念ながら採択とはならなかったこと,プロジェクトの芽をつぶさないために,科学研究費の募集(本年11月締め切り)に対して,ジャウィ文書研究会としてではなく,5名程度の有志の名前で同様のプロジェクトの申請を行ったことが報告された。
(2)トヨタ財団の研究助成以降,財源がなかったジャウィ文書研究会であるが,東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(以下AA研)の共同研究プロジェクト「マレー世界における地方文化」(2005-9年)とのコラボレーションで研究会を開いてはどうかという提案が青山会員からなされた。当該プロジェクトの目的のひとつである「現地語文書,口頭伝承を用いた研究手法の確立」という枠の中でジャウィ文書研究会会合を年5回程度開き,2年に1度成果発表を行うというものであった。この案は出席者全員からの賛同を得た。また,このプロジェクトの一環として計画されているインドネシア文献学研究手法研修にメンバーの参加を呼びかけることにも賛同が得られた。
(3)新井会員から,今後ジャウィ文書研究会が読むテキストの候補として「al-Huda」という雑誌が紹介され,創刊号のコピーが配布された。これは1930年代に東南アジア在住のアラブによって発行されていたジャウィの雑誌で,丁寧に書かれてはいるものの本文は手書きであり,今後写本などを読むための一ステップとして有用なテキストであると説明された。これに対して他の会員からは,al-Hudaだけではなく,東南アジア各地で発行されていたジャウィ定期刊行物のリストを作成し,そのうちの重要なものの巻頭言を読んでみてはどうかという提案がなされた。巻頭言を読む理由は,雑誌が対象とする読者層,ジャウィを使うにいたった経緯の説明といった有益な情報がそこに含まれていると予想されるからである。これらの提案をうけて,各地のジャウィ定期刊行物(文芸誌や機関内ニューズレターなどを含む)を手分けして網羅的にリストアップし,それを新井がデータとしてまとめるという方向性で今後の作業を行っていくことになった。
テキスト候補としては,さらに,川島会員から,古典作品の例としてマレー語テキスト「Hikayat Muhammad Hanafiah」が紹介され,将来的に講読文書として採用してはどうかという提案がなされた(校訂版:The Hikayat Muhammad Hanafiyyah:A Medieval Muslim-Malay Romance, ed. L.F. Brakel, The Hague: Martinus Nijhoff, 1975.)。これは第4代カリフ・アリーの息子ムハンマド・イブン・ハナフィーヤを主人公にした空想的物語で,ペルシア語のテキストに由来するが広くマレー世界の民衆に受け入れられた(スジャラ・ムラユでも言及)。Brakelの研究書には触れられていないが,フィリピン南部にもテキストが存在する。南部フィリピンにおいては,民衆の世界認識の枠組みを理解するための重要な文献であり,古典文学作品の研究という面のみならず、民衆に親しまれたイスラーム文学の政治的機能という点でも重要な作品である。各地域のテキストの形式と内容の比較が可能であることが説明された。これは,近代史と関係の深い定期刊行物だけではなく,古い時代の歴史・文学もカバーするという点で重要な提案であると考えられる。
(4)続いて,『上智アジア学20号 特集:ジャウィ文書研究の可能性』を書き直して英語圏の出版社(シンガポールのMarshall Cavendish Academic社)を通じて出版してはどうかという提案がある会員からなされたことが川島会員から報告された。またそれに付随して,トヨタ財団からの成果報告出版助成に応募する資格が2007年まで本研究会にはあるということも触れられ,これらに関する議論が行われた。しかし,書き直しに3年程度かかるという会員をはじめとして,どの会員も現時点での出版にはおおむね消極的であった。そこで,新たな成果を出すに至るまでは出版は考えないということで意見の一致をみた。トヨタ財団の成果報告シンポジウム助成に関しては,ある程度成果の見通しがついた段階で,前向きに検討することとなった。
(5)最後に,山本会員から,国立民族学博物館地域研究企画交流センターに申請を検討中の共同研究プロジェクトについて紹介があった。これは東南アジアのムスリムに関する3年間(2005-7年)のプロジェクトで,ジャウィ文書研究会が主に文書を扱うのに対し,当該プロジェクトでは現在のムスリム,特に制度などに関連した研究を行うという特色を持っていることなどが報告された。なお,ジャウィ文書研究会会員の相当数にこのプロジェクトへの参加を呼びかけるつもりであるが,本研究会と当該プロジェクトの関連は特に意識していないとのことである。
次の第22回研究会は,2005年1月23日(日)に上智大学四ッ谷キャンパスにおいて,アジア文化研究所と共催で,会員の見市建会員を招いて同氏の最新刊『インドネシア:イスラーム主義のゆくえ』(平凡社,2004年)の合評会を行うことを決定した。
(文責:青山 亨)