研究会・出張報告(2010年度)

   研究会

第48回 現代中東イスラーム世界・フィールド研究会
「スーフィー・聖者研究会(KIAS4/SIAS3連携研究会)」研究会

日時:2月12日(土)13時30分~17時
場所:京都大学吉田キャンパス総合研究2号館(旧工学部4号館)4階第一講義室(AA401号室)

発表1:石田友梨(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
 「フジュウィーリー『隠されたるものの開示(Kashf al-Mahjub)』における実体(‘ayn)―人間の構成要素としての我欲(nafs)と精気(ruh)―」 →報告①
 コメンテータ:二宮文子(日本学術振興会)

発表2:高尾賢一郎(同志社大学大学院神学研究科)
 「西洋のスーフィズム認識に見る諸問題―宗教と近代を巡る言説の変遷を通して―」
 コメンテータ:仁子寿晴(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究科附属京都大学イスラーム地域研究センター)

報告②
 本発表の目的は、近年の西洋の研究におけるスーフィズム認識に見られる問題点を、西洋における近代と宗教との関係を巡る言説の変遷を参照しつつ明らかにすることであった。
 近現代におけるスーフィズム認識の再検討において、まず、宗教研究の分野において研究されてきたスーフィズムは、世俗主義政策、イスラーム復興の議論が主要 なイスラーム研究において周辺的立場にあり、この点において両学問領域における分断が生じている。次に「世俗的」「スピリチュアリティ」「ポップカル チャー」と呼び習わされる昨今のスーフィズムの潮流は、著作、メディア、カルチャースクール等の世界規模での「スーフィズム市場」を作り出している。発表 者はこのような近年の西洋におけるスーフィズムの潮流に対し、以下の二点において問題を提起した。
 第一に、近年では西洋にとっての脅威の象徴として「イスラーム」が引き合いに出されやすい言説の中で、スーフィズムは一種の偏向した期待を担って着目されて いる。第二に西洋の分析概念におけるレトリック、ラベリングの持つ問題がある。たとえば、「原理主義」は、スーフィズムに対してはほとんど用いられず、時 には聖典主義的であり武装民兵組織としての役割を担う点が無視されている。
 本発表に関してコメンテーターの仁子氏からは、本発表が提起する西洋の言説批判が示す展望、西洋の言説についての一般化の問題について指摘があった。また参加者からは、イスラーム研究は、イスラームは教義の宗教にとどまらないとする主張によって、結果として宗教学研究から自らを遠ざけてしまった、宗教学にお けるスーフィズム等現代宗教の動向に関する成果を、イスラーム研究が取り入れられていないといった意見が出された。
 本発表はイスラーム研究に内在的な問題点、活発な議論を喚起する刺激的な発表であった。

(栃堀木綿子・京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科一貫制博士課程)