研究会・出張報告(2009年度)
研究会- 「スーフィー・聖者研究会」(KIAS4/SIAS3連携研究会)研究会(2009年11月14日上智大学)
日時:2009年11月14日(金)13:30~17:30
場所:上智大学2-630a号室
発表:
丸山大介(京都大学)「現代スーダンにおけるスーフィズム―聖者信仰とタリーカとの関連からみた一考察」
茂木明石(上智大学)「オスマン朝統治下カイロにおける聖者信仰の消長―聖者廟地区に埋葬された死者の分析から」→報告②
報告①:
○丸山大介「現代スーダンにおけるスーフィズム―聖者信仰とタリーカとの関連からみた一考察」
現在スーダンで調査を行っている丸山氏は、フィールド調査の成果を用いて、現代のスーダンにおけるタリーカの諸相を豊富な事例をもとに明らかにし、またスーダンのスーフィズムの現代的意義や、聖者信仰との関わりについての分析を行った。
まず歴史的な流れとしては、氏によれば、スーダンへのスーフィズムの流入は、15世紀中葉のシャーズィリーヤ教団の進出が、少なくとも史料から確認できる最初の例であり、その後16世紀中葉にはカーディリーヤ教団の進出が見られたという。タリーカは、スーダン社会において、イスラーム教育や宗教実践の担い手となり、広範囲に広がったと考えられるが、他方で結合力はなく、各地に分散する傾向があったという。この状況に変化が現れるのが19世紀に入ってからであり、この時期にハトミーヤ教団に代表される組織的に中央集権化されたタリーカが現れるようになった。そして、現在においてもスーダンにおいてタリーカの活動は活発であるが、イスラーム運動の台頭や政権の政策との関わりで、タリーカの新しいあり方が模索されている状況にあるという。
続いて氏は、現在スーダンで活動を行っているタリーカの具体的な事例として、タリーカ・カーディリーヤ・アラキーヤを取り上げ、その歴史や活動を、映像などを用いて詳細に説明した。このタリーカは、もともと14世紀にエジプトに存在していたジュハイナから派生したバヌー・アラクに由来し、その後アブドゥッラー・アラキーがカーディリーヤに入会することで、カーディリーヤ系のタリーカとして活動を行うようになった。タリーカの活動としては、週単位ではアスリー(金曜日日没前に行われるズィクル)とハドラ(火曜日日没後に行われる輪読会)、年単位ではホーリーヤ(聖者の命日などを祝う年次記念日)とラジャビーヤ(預言者ムハンマドの昇天祝い)、また不定期の活動としてはレイリーヤ(命名式や病気の治癒などの記念日を祝うズィクル)があり、氏は映像資料を豊富に用いてそれぞれの内容を具体的に紹介した。
最後に、氏は以上に紹介したタリーカの活動から、タリーカと聖者信仰・スーフィズムがどのような関係にあるのか考察を行った。まず聖者信仰については、タリーカのシャイフが人々の崇敬の対象となっている事実を確認にした上で、その根拠として、シャイフが主に病気の治癒など現世での苦しみを取り除くことができると考えられていること、また正しいムスリムになるための師であるとみなされていること、さらにはシャイフ自身が聖者信仰の担い手となっていることを挙げた。スーフィズムに関しては、タリーカ・カーディリーヤ・アラキーヤでは、そこに神に至る道、倫理、他者への愛・敬意、内面性の重視の四つの側面が見られることを指摘した。
以上の考察から、氏はこのタリーカは二項のバランスを取る場としての機能があると結論付けた。すなわち、まずそこでは神との関係のみならず人間(他者)との関係も重視されており、一と多を結びつける場であること、自己を律すると同時に、自己の外部の状況の変化も目指されており、個人の内面と外面を結びつける場であること、そして聖者信仰を通じた現世利益の獲得とスーフィズムを通じた来世での救済を兼ね備えた、現世と来世を結びつける場であると考えることができるのである。
質疑応答では、まず「ハルワ」といった特にスーダンの文脈で特殊な意味を持つ概念について質問がなされた。また、スーフィズムに関しては、その思想が、タリーカ・カーディリーヤ・アラキーヤの活動にどのように反映されているのか議論がなされた。そして、氏の提示したタリーカの在り方が、スーダンの地域性や政治といった文脈とどのように関わるかについても議論が行われた。
(高橋圭)