研究会・出張報告(2008年度)

   出張報告

期間:2009年2月24日~3月5日
国名:インドネシア
出張者:菅原由美(天理大学国際文化学部講師)

概要:
出張先:インドネシア(ジャカルタ、チレボン、クドゥス、プカロンガン、ジョグジャカルタ)
出張目的:キターブ・クニンおよび関連書籍の購入と出版・販売状況調査

1.チレボン
①購入先 アタミミ(Atamimi)
 チレボンにはかつてトコ・メッシール(Toko Mesir)という書店があり、この書店がスラバヤのナブハン(Nabhan)と並び、インドネシアで最も古くからキターブ出版を行っていたとされている[Bruinessen]。しかしながら、この書店は経営に失敗し、すでにその店はなく、またその歴史を知る家族もほとんどいない。また、破産の際に、多くの版権をプカロンガンのラジャ・ムラ(Raja Murah)などに売却してしまっている。トコ・メッシールの後、アタミミが同じアラブ人街で最も大きな書店・出版社となった。この店もハドラマウト出身のアラブが経営している。しかし、現在は、キターブ出版はあまりおこなっていないらしい。キターブは主にジャカルタ、スマラン、スラバヤなどから取り寄せて、販売している。
2.クドゥス
①購入先 ムナラ・クドゥス(Menara Kudus)
 1950年代より営業を始め、現在ではジャカルタやジョグジャカルタにも支部を持つ有名な書店・出版社である。ムナラ・クドゥスのすぐそばに事務所があり、ロゴもムナラ・クドゥスを使用している。アラブ人が大半を占めるこの業界にあって、はじめて現地人が成功したケースである。ジャワ語キターブも数多く出版している。
②購入先 ハサン・プトラ(Hasan Putra)
 クドゥスの街の中心近くに書店を構えている。クドゥス出版のキターブ以外に、他地方からのキターブも販売していた。また、ジャカルタ、スマラン、スラバヤなどの都市の書店では見たことがない地域からのキターブも販売していたのでこれらも合わせて購入した(クディリなど)。
3.ジョグジャカルタ
①購入先 ベイルート(Beirut)
 名前のとおり、ベイルートからイスラーム関連書籍を輸入・販売している書店である。ジョグジャカルタのイスラーム大学(UIN)のキャンパスのすぐ近くに店を構え、主にここの大学生が購入者となっている。イスラーム書籍書店としては、ジョグジャカルタではこの書店が最も大きい。ベイルートからの出版物を販売しているため、もちろんアラビア語書籍が主であるが、ナワウィ・バンテン(Nawawi Banten)など19世紀末~20世紀初頭にアラブで活躍した東南アジア出身ウラマーが執筆し、アラブで出版されたキターブをも販売されていたので、それらを購入した。20世紀初頭にアラブでジャウィたち向けに出された問答集も販売されていた。
②購入先 ムナラ・クドゥス ジョグジャカルタ支部
 上記のムナラ・クドゥスの支部であるが、ジョグジャ支部でも独自に出版を行っている。よりジョグジャカルタの住民のニーズに合わせたキターブを出版するため、またはクドゥスの出版が間に合わない場合に、出版しているらしい。
4.ジャカルタ
①購入先 アタヒリヤ(Attahiriyah)
 ジャカルタでは、歴史あるプサントレンとして有名なアタヒリヤ・プサントレンが経営している書店である。プサントレンの前方部分に表通りに面して、店を開いている。このプサントレンで使用しているキターブを出版し、サントリに販売しているが、スマランやスラバヤからのキターブも販売している。訪問時期が出版シーズンとずれていたので、アタヒリヤ出版のキターブはあまり入手できなかった。
②購入先 ダルル・クトゥブ・アル・イスラミヤ(Dar al-Kutub al-Islamiyah)
 南ジャカルタの中級住宅街のなかに開業した新しい書店で、アラビア語のキターブのみを販売していた。ベイルートから輸入した書籍と、この書店で出版した書籍を販売していた。どれも非常にきれいな装丁の書籍で、薄いキターブ・クニンまで装丁は美しかった。書店自体もまるでショーケースのようなつくりになっていた。
③購入先 国立イスラーム大学シャリフ・ヒダヤトゥラ・ジャカルタ校社会イスラーム研究所(PPIM-UIN)
 イスラームやキターブに関連する研究書籍を購入した。
5.全体注意点
 キターブは、プサントレンのカリキュラムに合わせて、6~7月に出版されているらしい。報告者が出張した期間は、出版シーズン前であったため、販売されているキターブが比較的少なかった。小規模の出版社を訪問する場合には時期を考慮した方がよいことがわかった。
 (菅原由美)