研究会・出張報告(2008年度)
研究会- グループ2研究会(2008年11月15日上智大学)
*セミナー「ミンダナオの紛争と平和:国家・援助機関・市民社会の動態」
日時:2008年11月15日(土)13:00~17:30
場所: 上智大学12-202号室
プログラム:
Prof. Nathan Quimpo (University of Tsukuba) "The Pitfalls in Working for Peace in a Time of Political Decay"
Prof. Rufa Guiam (Mindanao State University, General Santos City) "Exacerbating Conflict or Forging Peace?: Dynamics of Donor Agencies and Civil Society Partnership in Development Assistance for Mindanao's Conflict-affected Communities"
Discussants:
Prof. Ishii Masako (Osaka University)
Prof. Patricio Abinales (Kyoto University)
概要:
フィリピン政府とモロ・イスラーム解放戦線(MILF)は10年以上にわたって和平交渉を行ってきたが、2008年7月、締結間近であった「先祖伝来の土地に関する協定覚書(MOA-AD)」に対し、ミンダナオの一部政治家や野党指導者が猛反対し、これをめぐって和平交渉は暗礁に乗り上げ、ミンダナオでは政府軍とMILFの間で軍事衝突が起き、多数の難民が発生し混乱が続いている。キンポ氏は、今回のMOA-ADをめぐる混乱をとりあげ、その最大の要因はフィリピン政治の腐食(decay)にあると論じた。キンポ氏は、現在のフィリピンの政治体制は非民主的であり、伝統的なクライエンテリズムから略奪的なものに変化してきたと指摘する。その結果、ムスリム・ミンダナオ自治地域ではパトロネージと略奪的政治が横行し、私兵や武器が蔓延し、この地域は「戦争経済」への依存を強めた。オリガーキーの大半は、政府はMILFに譲歩しすぎだと思っており、現政権はその意向を受けてMOA-ADを葬り去った。キンポ氏は、ミンダナオの和平と発展を実現するためには、フィリピン社会のより広い層を和平交渉に参加させるとともに、国際的圧力を行使しうる強力な和平仲介者の参加を得て、協定内容が必ず実行されるような仕組みを確立することが重要であると主張した。
ミンダナオのイスラーム地域で長年、ジャーナリストや研究者として活動してきたギアム氏は、ミンダナオにおける深刻な貧困、長年にわたる武力紛争による多数の難民、特にムスリム・ミンダナオ自治地域は全国の中で人間開発指数が最も低い等、その実情を報告し、開発プロジェクトに用いられるレトリックと現場の実態と間には大きなギャップがあることを指摘した。そして、ミンダナオで活動する市民社会組織と援助機関の現状を紹介し、両者のパートナーシップの重要性を強調し、いくつかの問題点を指摘した。それらは、援助機関の運営が官僚的であること、市民社会組織に十分な情報が提供されないために市民社会の参加が不十分であること、援助機関の援助メニューが地域社会の基本的必要性に対応していないこと、市民社会組織リーダーの能力開発、技術訓練、紛争解決技術などのソフト面のプロジェクトよりも、インフラストラクチャー整備などのハード面のプロジェクトが優先されること、などである。ギアム氏は、援助にあたっては、適正さ、参加、責任の所在、信頼関係、柔軟性、持続可能性などの要因を重要すべきであると主張した。
報告の後、ミンダナオの研究に長期間取り組んできた石井氏とアビナレス氏によるコメントがあり、ミンダナオ紛争の実情や要因について参加者の間で様々な角度から議論が行われた。
(川島緑)