研究会・出張報告(2008年度)
出張報告- マレーシア・インドネシアにおける文献調査(2008年8月25日~9月19日)
期間:2008年8月25日~9月19日
国名:マレーシア、インドネシア
出張者:冨田暁(大阪大学大学院文学研究科博士後期課程)
概要:
今回の調査の結果、西カリマンタン州の州都であるポンティアナック及び西カリマンタン州において現在、kitabは出版されていないことが分かった。その理由をモスク関係者、イスラーム関連書籍の書店、イスラーム教育関係者に聞き取り調査をしたところ、現地でkitabを出版するだけの需要が西カリマンタンでは存在しないとの理由が挙げられた。モスク、プサントレン、書店にあるキターブは主にスラバヤ、スマラン、ジャカルタで出版されたものであり、中でも特にスラバヤのものが多い。
kitabの内容としてはフィクフ(イスラーム法学)、タフシィール(啓典解釈学)、タサウウフ、児童教育用のものが多い。ポンティアナックにおいてまとまった数のkitabを販売している書店は中心街に位置するToko Maju(住所:Jl. Asahan 12, Pontianak)という書店であり、店主はイエメン出身アラブ人の子孫である。また、ポンティアナックで購入したkitabの使用言語は全てアラビア語であり、ジャウィで書かれたものはなかった。本調査では100点程度のキターブを購入した。
また、kitab出版状況の調査を行う中で数名のkitab収集家と面識を得ることができた。彼らの持つkitabの殆どは、ムハンマド・バシウニ・イムラン(Muhammad Basiuni Imran)というサンバス(ポンティアナックから北へ200キロ程の、サラワクとの国境に近い都市)出身のウラマーが19世紀末から20世紀初頭にかけて記した著作やその写本であった。彼はエジプトへ留学し、後にシンガポールでマナールの内容を基にした著作を発行した人物であり、その多くはジャウィで記されている。ただし、こうしたkitabの収集活動は完全に個人的な活動によるものであり、現時点で図書館や研究機関などが関心を持って組織的に収集している状況にはなかった。今回は十分な調査を行うことが出来なかったが、この様な個人的に所持されているkitabは西カリマンタンのイスラームやキターブに関する有用な史資料になると考えられ、今後の調査・研究の進展には、こうしたkitabの情報やアクセス手段の共有化、資料の収集・保存を現地側と連携しながら行う事が必要になると考えられる。
ジャカルタとクアラ・ルンプールにおいては、国立図書館、公文書館、マラヤ大学などにおいて写本カタログの収集を行い、合計24点を購入した。近年マレーシアはインドネシアから多くの写本を購入しており、質疑応答ではそうした写本がスマトラ沖地震以降のアチェから多く来ているのではないかとの指摘がなされた。
(冨田暁)