研究会・出張報告(2008年度)

   研究会

日時:2008年6月14日(土)、13:30~17:00
場所:上智大学上智大学四ツ谷キャンパス 2号館630A会議室
報告:(1)溝渕正季(上智大学大学院) 「イスラーム運動研究と社会運動理論」
   (2)堀場明子(上智大学大学院) 「紛争研究と紛争理論」→報告②
意見交換:今年度の活動計画、マレーシア国際会議、原典翻訳叢書、その他

報告①:
 本発表は、溝渕氏の手がける博士論文の一部を構成するものであり、発表に際しては、詳細なペーパーが用意された。
 冒頭、溝渕氏は、1970年代以降、様々なイスラーム主義運動が勃興・乱立しながらも、それぞれの運動の方向性や動員能力に著しい差異が生じている点に注目し、同運動の、統一された理論的枠組み作りの重要性を主張した。そして、イスラーム主義運動の理論化を予備的に考察する手法として、社会運動研究パラダイムのひとつ「資源動員論」を提示し、これまで思想研究が主流であったイスラーム主義研究における、政治社会学理論からの寄与を提案した。
 発表に際し、溝渕氏は、社会運動理論の定義や一般的モデルの先行研究を整理した。ここでは、いわゆる古典モデルから集合行為論への流れを概観しながら、イスラーム主義運動を巡る一般化モデルの検証を行っており、溝渕氏によれば、一般化は十分に可能だとされた。また、溝渕氏は、同運動の理論化における因果関係研究の少なさや、日本における復興理論の台頭といった状況は、社会運動論における古典モデルの状況に近いと指摘した。
 続いて、本発表の中核となる、資源動員論の説明に入った。ここで溝渕氏は、資源動員論が政治過程論を取り込みながら理論的に発展する過程を詳説し、さらに、同理論に対する、コンストラクティビズムや集合的フレームの概念からの検証を行うなど、手堅い議論を展開した。これらの理論的枠組みのイスラーム主義運動への援用につき、溝渕氏は、既存の社会関係ネットワークを活用してきたイスラーム主義運動は、各種資源を積極的に動員する傾向にある、と論じた。また、イスラーム主義運動の多くが政党化を志向する傾向や、アラブ諸国における主権国家システムを超えた域内システムの相互作用について注意する必要があると説いた。
 質疑応答では、まず資源動員論における大規模集団のジレンマ(オルソン問題)について質問が寄せられた。また、社会運動理論のイスラーム主義運動への適用についても、穏健派イスラーム主義運動の国内志向性を巡る解釈、殉教作戦の位置づけ等、参加者の関心に沿った意見が多数提示された。
 さらに、社会科学理論-地域研究の邂逅というテーマで必然的に生じる議論、すなわちイスラーム主義の定義を試みることの妥当性や、同運動の位置づけの地域的差異を巡っても、溝渕氏と参加者の間で幅広い意見の交換がみられた。
 本発表は、巨視的な社会運動理論の優れた研究成果を提示しただけでなく、研究者が地域に向かう姿勢についても一石を投じた、意義深いものであった。(吉川卓郎)