研究会・出張報告(2007年度)

   研究会

日時:2007年12月22日(土)13:00~17:00
場所:上智大学四谷キャンパス第2号館6階2-630a(アジア文化共用会議室)
参加者:12名
報告:
 斎藤剛(日本学術振興会特別研究員)
  「現代モロッコにおけるタリーカと権威―タリーカ・ブーチシーヤを中心的事例として」 →報告①
 Simone TARSITANI氏(日本学術振興会特別研究員)
  "An Ethnomusicological Study of the Islamic Rituals of Harar, Ethiopia"

報告②
○Simone TARSITANI氏(日本学術振興会特別研究員)
 "An Ethnomusicological Study of the Islamic Rituals of Harar, Ethiopia"

 本発表は、タリーカや民衆文化において多く見られるズィクルについて、エチオピアの北東部にあるムスリムの街、ハラールの事例からその特徴を論じるものであった。
 発表者は発表において、大きく二つの点を取り上げた。まず第一点がハラールにおけるズィクルの特徴を、音楽的な観点から明らかにすることであった。第二点がズィクルがハラールの社会や文化に与える影響についてであった。
 第一点については、ハラールにおけるズィクルの様子を、発表者が長期のフィールドワークで収集した映像や画像データを用いながら説明した。それによると、ハラールのズィクルにおいて際立つ特徴は、そのリズムとメロディーにあると指摘した。ハラールのズィクルは太鼓や楽器を使って一定の独特のリズムを刻みながら、決まったテクストを全員で読み上げていく。リズムやメロディーにはこの地方独特のものが見られる一方、五音の音階が主流であるこの地方では珍しく、七音の音階で構成されたメロディーを持つ点を明らかにした。このように、他の地域にはないハラール独特のズィクルのあり様について、発表者は映像や音声データ、楽譜を用いながら明らかにしていった。
 第二点については、近年ズィクルがハラールの文化を代表するものになってきている点を指摘した。その背景として、19世紀以降ハラールがマイノリティとなっていった点や、1990年代以降に見られる文化復興や、伝統文化に対する態度が変化してきている点をあげた。こうした状況下で、ハラールの人びとがズィクルを、自分たちの文化やアイデンティティを代表するものとして捉えるようになった、と発表者は論じた。
 ズィクルは従来タリーカや民衆の文化として一括りにとして捉えられることが多かった。しかしながら本発表は、ズィクルがハラール的な特徴と、それが地域文化としてハラールの人びとに影響を与えている点を明らかにした。これは、従来とは異なる捉え方である。さらに、ズィクルの分析では、身体的パフォーマンスや意味が重視され、音楽的な分析が今までされてこなかった。その点、本発表はハラールという一事例でありながらも、ズィクルの音楽的な分析を行ったおもしろい発表であった。
 (安田慎・京都大学大学院 アジア・アフリカ地域研究研究科一貫制博士課程)